Episode104-2 女子会と修学旅行のお土産
休日ということで私服姿のお兄様は微笑みながら部屋に入って来て、丁度スペースが空いていた麗花の隣へと腰を降ろす。
その間の麗花、頬を染めてカップを持ったまま固まっていたものの、ハッとして挨拶する。
「ご、ごきげんよう奏多さま」
「こんにちは麗花ちゃん。瑠璃子ちゃんも。柚子島くんもいるんだね」
「ごきげんよう」
「こ、こんにちはっ」
瑠璃ちゃんはおっとりと微笑んで、たっくんは一気に緊張したようでピシッと背筋を伸ばして挨拶した。
はて、どうしたのだろうか?
迎えに来たにしても時間的にはまだ早いような。
「どうしたんですかお兄様。噂をしたからですか」
「噂? 僕の話してたの?」
「お兄様がサロンで麗花に私のこと告げ口したの、私にバレましたよ」
首を傾げて問われたことにジト目で返せば、「あぁ」と言って笑い。
「僕に非はないよね。花蓮が悪いんだから」
「そうですね! 私が悪いですね!」
もう絶対に何かに乱入したりしません!!
プンプンする私を横に置いたお兄様は持ってきた紙袋から何やら取り出し始め、ラッピングされた小型の長方形の箱を私以外の皆の前に置いた。
「今日休みだったし、花蓮が麗花ちゃん家で女子会の日って言っていたからね。丁度いいと思って。修学旅行のお土産だよ」
ニコッと微笑んだお兄様に、三人とも驚きの表情になる。
「お、お土産。私達にですの……?」
「ありがとうございます、奏多さま」
「ありがとうございます! えっと、嬉しいですけど何で僕にも? それに僕、花蓮ちゃんから今日誘われてたまたまなのに」
「花蓮に良くしてもらっているし、僕からの感謝の気持ちかな。柚子島くんはそうだね。今日花蓮が学校行く前に女子会の日って言ってニヤニヤしてたから、何か企んでるのは分かったよ。まぁ学校の話の八割方が柚子島くんの話だし、何となく見当はついたんだ。考えが外れてなくて良かったよ」
たっくん同様、私も驚愕の視線をお兄様へ向けた。
我が兄が完璧すぎて恐ろしい……!!
その推理力の高さ麗花にそっくり。素晴らしいほどお似合いだ。
「八割方……? 八割方も僕の話……? 誘われたの、急じゃなくて計画……?」
私と違う理由で驚愕していたらしいたっくん。
しかもその呟きの内容で、いらないことがバレた模様。名前を呼ばれる前に瑠璃ちゃんの背中にこっそり隠れる。
「開けてみても、よろしいですか?」
「うん、いいよ」
お兄様にお伺いを立てた麗花が恐る恐ると丁寧に包装を解き、真っ白な箱を開けて出てきたものを見て、彼女は目を大きく見開いた。
「まぁ! これは……」
円柱のドームの中に一本の赤薔薇があり、銀色のライトコードが控えめに薔薇の周りを取り巻いている。
「LEDライトだよ。見た時にあ、これ麗花ちゃんだなって思ったんだ。小さいから机に置いても邪魔にならないし、インテリアにいいかなって。部屋が暗い時に点けたらきれいだよ」
「こんなに素敵なものをよろしいのですか?」
自分をイメージしたと言われ、嬉しそうにキラキラと瞳を輝かせて聞く麗花に、柔らかな微笑みを浮かべて頷くお兄様。
「ずっと、ずっと大切にしますわ! ありがとうございますわ!」
「そんなに喜んでくれて嬉しいよ。僕のことは気にしなくていいから、二人もどうぞ」
良い雰囲気にニヨニヨして瑠璃ちゃんの背中から見ていたら、お兄様から瑠璃ちゃんとたっくんにそう促されていたので、二人が中身を確かめるのを私も覗き込む。まず瑠璃ちゃんのは。
「わぁっ、きれい!」
丸い透明な瓶の中に青い花を中心として、花の下に白と黄色の小花が三百六十度囲んで、まるで小さなお花畑のよう。とても可愛い小さなインテリア。そしてたっくんのは。
「た、高そう……!」
木製の羽の形の栞だ。羽の中も細かく彫られていてオシャレである。
怖々触るたっくんにお兄様が苦笑した。
「お土産だからそう高くはないよ。本好きって聞いているから、使ってくれるかなって思ってね」
「あわわわっ。素敵すぎて使うのがもったいないです! 特別な本に挟むようにします!」
「そう?」
「奏多さま。この青いお花、何ていうお花ですか?」
「それはネモフィラだよ。和名にすると瑠璃唐草っていうんだ。これも瑠璃子ちゃんだなと思って」
言われて瑠璃ちゃんの頬も、ポッと淡く染まる。
こ、これが百合の貴公子! 運動会で学年関係なく、女子の黄色い声援を受けし貴公子の本領……!!
と、お兄様の恐ろしさに再度慄いていたらふと、昨日手渡された私のお土産のことを思い出した。
「あれ? ということはお兄様。私達女子三人、お揃いのお土産です?」
私がもらったのは、スノーホワイト色の蓮の花を模した、小型卓上インテリアライトだった。もちろん可愛くて、大変喜びましたとも。
お揃いと言っても瑠璃ちゃんのはライトではないが、それぞれの名前に因んだ小型インテリア。
「僕にとっては麗花ちゃんも瑠璃子ちゃんも、第二の妹のような存在だからね。不公平にならず、喜んでくれそうなお土産を選んだだけだよ」
まるで何でもないようなことのように、そう言ってのけるお兄様。
ぐふっ。ウチのお兄様が! ウチのお兄様の全てが完璧すぎて辛い……!!
瑠璃ちゃんの裏でプルプル悶える私だが、その発言内容に反応したのは私だけではなく。
「花蓮ちゃんも、お母さんに赤ちゃんできたって話した時、第二のお姉さんって喜んでくれたのを思い出すわ。そういうところって、やっぱりご兄妹なのね」
「ふふっ、ですわね。似てないようでいて、すごく似ていますわ!」
「花蓮ちゃんの考えが分かるのお兄さんだからって思ってたけど、それって考え方が同じってこと……?」
瑠璃ちゃんと麗花が互いに笑い合い、たっくんが考察するように言ったのを聞いて、お兄様は微笑みを深くした。
「いやぁ、心外だなぁ」
「ちょっと待って下さいお兄様。私と似てるのダメなんですか。同じ血が流れている以上、似ているところはあってもおかしくありませんよ!?」
「僕は花蓮みたいに乱入したりしていないけどなぁ」
「何度も蒸し返すのやめてくれます!? 乱入って言ったら、お兄様だって女子会に乱入してますからぁ!」
あっ痛! 鼻! 鼻つまむのやめて!
伸びる、鼻が伸びる~!!
「ふにぃぃぃーーっ!」と反抗の唸り声を上げる私と、深く微笑んだまま妹の鼻をグニグニするお兄様の様子を見つめ、お土産をもらった三人はとても楽しそうに笑っていた。




