Episode104-1 女子会と修学旅行のお土産
「ん~♪ サクサク生地にシナモンの甘さと、リンゴの酸味がマッチして美味しい~♪」
「リンゴは今の時期が旬ですものね。本当に程良い甘さで私も好きですわ」
「収穫したリンゴは去年と甘さが違うから、今年用に味付け直しているの。二人の反応が良いから、今年のアップルパイも大丈夫そう」
ニコニコと嬉しそうに言った瑠璃ちゃんの聞き捨てならない発言に驚く。
「えっ。毎年味付け変えてるの!?」
「うん。といっても、私が試食を始めた時からだけどね」
「今更だけど瑠璃ちゃんの権限がすごい!」
ほえ~と尊敬の目で見つめると、頬を淡く染めて照れる瑠璃ちゃん。
「そ、そんなことないわ」
「そんなことありますわよ。瑠璃子だけの特技ですわ。自信を持ってよろしいですわよ」
「そうだよ。瑠璃ちゃんすごい! 可愛い! 癒し!」
「ありがとう。麗花ちゃん、花蓮ちゃん。……花蓮ちゃんは恥ずかしいから押さえてね」
何故に私だけ!
サクッとフォークで切って、瑠璃ちゃん持ち寄りのアップルパイをまた口に運んでいると。
「あの……。未だに僕がここにいる理由がよく分からないんだけど……」
小さい呟きにたっくんを見れば、所在なさげにしている彼の目の前にあるアップルパイは、まだ一口も手をつけられていない状態だ。
「拓也くん。アップルパイ美味しいですよ」
「あっ。もしかしてリンゴ苦手?」
「ホットティーよりもアイスティーの方がよろしかったかしら? 今すぐ取り換えましょうか?」
「リンゴ苦手じゃないし、ホットティーで大丈夫だよ! じゃなくて、何で僕またお呼ばれしているの!?」
素っ頓狂な声を上げてそんなことを言うたっくんに、私達女子三人は顔を見合わせる。
「元々今日は女子会の日でしたし、柚子島くんが参加しても問題ありませんわよ?」
「私も柚子島くん来るかなって思って持ってきたの。余りにならなくて良かったわ」
「拓也くん放課後遊びます?って聞いたら、うんって言ったじゃないですか」
「待って突っ込みが色々追いつかない! まず麗花ちゃんの女子会の日で僕が参加しても問題ないって、僕男子だから! 瑠璃子ちゃんも女子会でどうして僕が来るって思ったの!? 問題は花蓮ちゃん! 花蓮ちゃん!!」
力強く、しかも私だけ二回も名指しされてピッと背筋が伸びた。
「問題などありません」
「あるよ! 遊ぶって僕普通に放課後に教室でトランプとかするのかなって思っていたのに、何かいつの間にか車に乗せられていて、気がついたら麗花ちゃん家ってどういうこと!? ねぇどういうこと!? 言葉が足りないどころの話じゃないよ!?」
「安心して下さい。お家の方には坂巻さんが連絡済みです」
「そういう問題じゃないよ!? 何キリッとした顔で言っているの!?」
たっくん、もーまんたい。
そこで息を切らしたようで、整えている間に瑠璃ちゃんがホットティーを勧め、麗花が扇子を開いてパタパタとたっくんへとそよかな風を送る。
勧められて断れないたっくんがホットティーを飲んだところで、私の弁解タイム。
「だって麗花の家で女子会するから来ます?って聞いたら、絶対確率五分五分じゃないですか。私、ちゃんと今日用事ありますか?って、事前にお聞きしましたよ」
「花蓮ちゃんの中で五分五分ってかなり緩いんだけど! 僕正直お家にお呼ばれするの、まだハードル高いんだけど! ちゃんと聞くところ違う!!」
えっ、五分五分じゃないの!? だってダイエット訓練の時の情報交換とか、運動会の時とか、とっても仲良さそうだったのに!?
びっくりしていると、見かねた麗花がたっくんへ声を掛ける。
「私は来て下さって嬉しいですわ。花蓮と瑠璃子しか家に来ませんし、お友達もまだ少ないですの。ですからこうして柚子島くんとお会いして仲良しになるの、私は大歓迎ですわ」
「れ、麗花ちゃん。……うん。僕も、仲良くなれたらいいなって思う。ありがとう」
麗花の言葉に少し戸惑い、けれど頬が緩んで頷くたっくん。気持ちも落ち着いたようでフォークを手に取り、「いただきます」とようやくアップルパイに手をつけた。
美味しいとニコニコするたっくんに、麗花も瑠璃ちゃんもニコニコ。私もニコニコして見ていたら。
「花蓮ちゃんは明日新くんも一緒の反省会だからね」
「えっ。どうしてですか!? 太刀川くんも一緒!?」
「新くんなら僕に共感してくれるし、花蓮ちゃんに注意してくれる」
何故に私だけ!!
ガビンッとショックを受ける私を尻目に、麗花と瑠璃ちゃんは「仕方ないですわよね」「仕方ないよね」と頷き合っている。なして!?
日を置かずして、立て続けにショックなことばかり起きる私。なんでだ。
「瑠璃子のところは演劇じゃなくて、人形劇なんですわよね?」
「うん。グループ別に発表するの。私のグループは白雪姫なの」
ショックを受けていたら、瑠璃ちゃんの学校行事の話になっていた。
へぇ! 私とたっくんと麗花は人間が演じる劇だけど、瑠璃ちゃんのところは人形劇なんだ。
「瑠璃ちゃんは何役なの?」
「魔女役よ」
「何で!?」
どうして私の親友二人とも敵役になっているの!?
私は野獣だし!
「そんなに驚かなくても。くじ紐引いたらそれだったから」
「瑠璃ちゃんは魔女で良かったの?」
「うん。人形劇って声で感情出さなきゃいけないから、魔女って優しいのと意地悪なのとか色々声を変えるの、楽しいよ」
ふんわりと笑う瑠璃ちゃんに、彼女が納得しているのならと納得する。
「あーあ。皆の見に行けたらいいのになー」
保護者に発表するだけで、外部からの見学などはない。麗花のジャファーが緋凰アラジンを叩きのめすのも見たいし、瑠璃ちゃんの魔女もどんな風なのか気になる。
ぷーと口を尖らせてそんなことを言ったら、ホットティーを一口飲んでいた麗花が。
「あら。私のところの運動会の一件で、他校への訪問は禁止されているって聞いてますけど」
不思議そうな顔で落とされた爆弾に目を剥く。
「何で知ってるの!?」
「サロンで奏多さまが仰っていましたもの」
「お兄様!!」
麗花とお兄様の距離が近づくのは大歓迎だが、何も私のマイナス部分を共有しなくても!
「他校の訪問禁止……? 競技中に乱入したから?」
「えっ、花蓮ちゃんそんなことしたの?」
「違う人にどんどん私の違う所業がバラされていく!」
瑠璃ちゃんにまで信じられないような目で見られて、慌てて弁解を図る。
「ああああれはだって、転んで動けない子を助けようとしただけで! 乱入の動機は悪くないもん!」
「動機に関しては仕方ないですけど、一緒に走らなくてもとは思いましたわ。走った後も私達と一緒にいるのではなくて、席に戻ればよろしかったのに。だから奏多さまに補導されるんですのよ」
「補導じゃなくてせめて回収って言って」
「花蓮ちゃん、さすがに庇ってあげられないわ」
「花蓮ちゃん、他のクラスの劇に乱入するのダメだよ」
瑠璃ちゃんには片手を頬に当ててそう言われ、たっくんには未来への注意をされてしまった。さすがにそんなことしないよ!
「疑わしいですわね」
「私なにも言ってないのに、こっち見ながら言うのはどうして。麗花までお兄様と同じこと言うのやめて」
お似合い。 二人とってもお似合いです。
と、その時コンコンっと部屋の扉がノックされた。
「西松ですの? よろしいですわよ」
振り向いた麗花がそう言ったのを聞いて、カチャリと部屋の扉がゆっくりと開かれる。
そして扉の向こうから姿を見せたのは。
「突然来てごめんね。お邪魔します」
「あれ、お兄様」
そう、本日修学旅行後の一日休みであるお兄様が、紙袋片手に立っていた。




