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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode99-2 花蓮が怒った理由

 ティッシュを捨て渡されたせいで、まだ身近にいる緋凰から言われたそれ。

 ティッシュを顔から離して緋凰を見つめると、彼はぶすっとした様子で口をへの字に曲げていた。


「普通に試したってことに怒ってんのかと思った。俺が知ってる令嬢ってのは、家格高いヤツとそうじゃないヤツとの態度の差がはっきりしてるってのと、コソコソコソコソ人の顔見て騒いでうるせぇっての。……まぁ、中にはしっかりしていて、そういう目で見ねぇヤツもいるけど。お前、名乗っても態度初めと全然変わんねぇし、媚び売り?だったか。つか普段の自分のあの態度で、よくそういう疑い俺が持ったとか思ったな。顔も正体も知らねぇのに、それこそ有り得ねぇだろ」


 段々呆れて馬鹿にしたような顔で言われて、頭が混乱してきた。

 ……ん? え? どういうこと??


「変なところで頭回るヤツだな、お前。口調とか動きとか、夕紀の母さんがわざわざ水泳教えるとか、それなりの家格の令嬢ってことしか知らねぇ。だから俺ん家に呼んだら服のブランドとか、顔だって水泳じゃねぇからゴーグル付けて来れねぇだろ? イヤでも自己紹介するしかねぇだろうなって思ってたのに、ジャージでマスク被ってくるって。試したことに怒ったと思ったら、お前限定で有り得ねぇ媚び売りとか言うし。本当鳥頭の宇宙人の思考回路は、人間の俺には理解不能だな」


 はぁーあと心底馬鹿にしたような溜息を吐いて、肩を竦めて首を振る。え……。え? え??


 すると、話の全容を聞いた春日井までも。


「そんなことだろうと思った。ずっとどこの家の子か知りたそうだったし。理由作って回りくどいことするよなぁって。僕は彼女のこと知っているし、本人からの自己紹介待てばいいのにって思いながら見てた」

「しょうがねぇだろ。気になったんだから」

「気になってるのに僕に聞かないし」

「聞いてもお前教えないだろ」

「そりゃあね。律儀なんだかどうなんだか。猫宮さん、陽翔ってそういう子だよ」


 急に話を向けられても尚、パチパチと瞬きしてあまり頭が回らなかった。


 待って。ということは何? 緋凰の私を試すって、私の正体を知りたかったから、どんな格好をしてくるかってこと? 私が思ったような、媚を売るために近づいたっていうのじゃなくて? …………うっぎゃああああぁぁぁぁ!!


「とんだ勘違いで怒ってすみませんでしたあああぁぁ!!」


 理解した瞬間、脊髄せきずい反射の如く頭を下げて謝る。

 勢いをつけ過ぎたせいで床に額を打ちつけた。痛い。


 もうヤダ恥ずかしい!

 あー! だから緋凰固まってたのか!!


 そりゃ正体知りたかったくらいであんな怒り方されたら、誰だって固まるよ! 春日井のどんな格好で来るのかってのも額面がくめん通りだった。勘ぐり過ぎたあぁぁ!


「本当、本当盛大な勘違いでした……。穴があったらそのまま潜りこんで冬眠したいです……」

「まだ秋だぞお前。……まぁ、お前とアイツ以外だったら、そう思ったかもしれねぇけど。まさか亀子がそんな風に勘違いするとは思わなかったし、これでお相子だろ。俺だって悪かった」

「緋凰さま」

「僕も猫宮さんがどう思うかっていうのが抜け落ちてた。ごめんね」

「春日井さま」


 一つ息を吐いた緋凰が、投げ散らかしたティッシュをごみ籠に捨てるのを慌てて手伝う。さっきの床頭突きで周囲のティッシュもあちこちに舞ってしまっていたようで、春日井も拾い集めてくれた。本当に迷惑かけてごめんなさい!


「……というか、何もこんなにティッシュ出さなくても良かったのでは」

「マスクで顔見えねぇから、どんだけ泣いてんのか分かんなかったんだよ」

「にしても出し過ぎです」

「思った」

「うるせぇな。足りないよりマシだろうが!」


 ぶっきらぼうにブチブチ言う緋凰に、拾いながら私と春日井は顔を見合わせて、お互いに苦笑を洩らした。


 何だ、そっか。……そっか。


 麗花と緋凰の婚約と断罪問題を抜きにしたら、悪くないかも知れない。麗花が儚くならないように守るのは絶対として、二人も私と白鴎のように婚約しなければ、何も問題なんて起きないわけで。


 春日井だって麗花じゃなくて、その取り巻きの仕業だし。麗花には取り巻きいなくて、忍くんっていうお友達がいるから大丈夫だし。


 ゲームのような“今”じゃない。だから私も、はっきりするまでは緋凰に自己紹介しない。うん、決めた。


「緋凰さま」

「あ?」


 全部拾い集め終わったところで呼び掛けたら、ガラ悪く振り向かれた。……偉そうで強引でお口極悪で、こんな風に態度も悪いけど。


「時期をお待ち下さい。今は言えません。ですがいつか必ず、自己紹介します」

「時期? ……ふーん。約束か?」

「はい。お約束します」


 そう言うと、彼はニヤっと笑った。


「いいぜ? うそ吐いたらお前、夕紀に聞いて家に乗り込んでやるからな」

「現実的! そこは針千本のーますじゃないんですか!?」

「非現実的なことはしねぇ主義だ」


 うそでしょ!?  緋凰家の御曹司が乗り込んできたら、さすがの百合宮家も大騒ぎだよ! 別組の攻略対象者が別組のライバル令嬢の家に来るな! いや、正規の組でもダメ!!


「高校! 高校卒業まで待って下さい!」

「おいそれ長過ぎるぞ!? あ! まさかお前、初めから自己紹介する気なかったな!?」


 当たらずとも遠からず!

 いや春日井は私のことを知ってるからいつかは緋凰にもバレると思っていたけど、でも正体知られなかったら、影ながらそれだけ麗花のこと助けられると思ったからだし!


 何やかんやあーだこーだといさかいはあったものの、春日井の仲裁&説得もあって、何とか期日を高校卒業まで待ってもらえることになった。何だかんだ緋凰は根の良いヤツっぽい。


 そして肝心の演技指導は時間が押し迫り、やった範囲での要点だけをまとめたものを、後日のスイミングスクールの際に渡してくれるとのこと。こうして、初・緋凰家への訪問を終えたのだった。


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