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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode97-0 緋凰家にて演技指導の合間

 間にベルとガストン以外の役もあるが、そこは親友幼馴染の連携でそれぞれが務め、しかも台本に少し目を通しただけなのに何でそんなにスラスラ台詞が言えるのか、仰天しながらもこなした結果。



「『当たり前じゃない!』」



 ピピピピピピピ!


 小型でありながらも大きな音で時間がきたことを知らせる、万能防水性のストップウォッチ。ベル春日井が女子も真っ青な迫真の演技をしていた中でその音を聞いた私は、糸がプツリと切れたかのようにその場に崩れ落ちた。


「やっと、やっと終わりました……! はぁっ、はぁっ」

「お、終わってねぇ……ぜぇっ、ぜぇっ」

「……二人とも大丈夫?」


 ストップウォッチを止めた春日井が、息を切らせている私達に声を掛ける。


「「大丈夫じゃありません!/大丈夫じゃねぇ!」」

「だよね。そりゃあれだけ走り回ればね」


 呆れた声を出す春日井に、ピッと指を緋凰に向けて訴える。


「信じられません! あんな怖い形相で竹刀(しない)片手に追い掛けてくる人がありますか! イジメです!! 野獣虐待の罪で訴えます!!」

「演技だろうが! 本気で闘うわけでもねぇのに逃げてんじゃねぇよ! 立ち向かって来いや野獣!!」

「お黙りなさい! 野獣の中身はか弱い女の子ですよ!? 逃げなきゃ殺されるところでした!!」


 いくら演技でもやっていいことと悪いことがあるよ!?


 城に乗り込んできたガストン(緋凰)が野獣(私)と対峙する場面でそんなことをされたもんだから、野獣(中身か弱い乙女)としては逃げる一択しかなかった。


 ホント怖かった! コイツ絶対アラジンじゃなくてそれこそジャファー! 正義感の強い麗花と役交換しろ!!


 私が台詞確認する以外は、室内を追いかけっこで走り回ることでほぼ時間消費した。足の速さが同じくらいだったもんだから、ちょっと気を抜いたらすぐに追いつかれてしまう。そりゃ必死こいて逃げ回ります。間で春日井が、


「『やめて!』……『やめて!』……台詞聞こえてる? やめてって言ってるんだけど!」


 と最後若干キレそうな声に緋凰が足を止めたことで、不毛な追いかけっこは終了したのだ。


「おっまえ……クマスク! 泳ぐのも台詞覚えんのも鈍くせぇのに、足速ぇの何なんだ!」

「そっちこそ! 台詞スラスラ言えるの何なんです!? チートですか。チートなんですか!」

「チート? よく分からないけど、一応相手役するから最低限の台詞は覚えてきたけど」

「こっちが覚えてなきゃ指導できねぇだろうが。合間にDVDで見て覚えたわ」


 うそでしょ何なのそのマジな取り組み! 違う学校の劇発表だよ!?

 まだ練習始まったばっかりだし、背景とかお面作らなきゃだし、おいおい覚えたらいっか~って考えていた私とのこのモチベーションの差!!


「うぅっ。学校で練習したい。クラスの皆とキャッキャウフフしながら、楽しく練習したいです……っ! 何が悲しくて鬼みたいなヤツに追い掛け回されなきゃいけないんですか……っ」

「誰が鬼みたいなヤツだコラ。人ん家の部屋でゴロゴロ転がるな宇宙人!」


 疲れたんだよ! いいじゃん別にスカート履いてるわけでもないし、ジャージなんだから!


「少し休憩しよう。お手伝いさんも飲み物持って来てくれたから」


 気遣いのできる白馬の王子様属性・春日井がコト、といつの間にやらグラスに薄黄色の飲み物を注いでいた。いそいそと座ソファへ座ると、わざわざ手渡してくれる。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」

「夕紀、俺も」

「はいはい」


 熟年夫婦か。


 そんな呑気な感想を抱いている間に、ドカッと緋凰が隣に座ってきた。……って、何で隣に座ってくる近いあっちいけ!

 しまった。スイミングではいつも最後に確認して春日井の隣に行っていたから、座る順番間違えた! 先に座っちゃダメだった!


 やっちまったとマスク越しに手で顔を覆うと、隣から訝しげに話し掛けられる。


「どうした。んなマスクして走るから酸欠になるんだろうが」


 うるさい違うし!


「ゴーグルはレンズのへだたりで直視しなかったので、マシだったんです。マスクですとリアルクマさんのつぶらなお目めは、顔を直視してしまいます……。お目めの防御が弱かった……」

「あ? 何言ってんだお前。……俺の顔のこと言ってんのか。ふーん」

「……っ!?」


 いきなりグイッと顔を掴まれ向けさせられた先は、今までにない緋凰の美顔ドアップ。


 ぎゃあああぁぁぁ何してくれる貴様ああぁぁ!!?


「何しっ、目が、目が潰れます! この手を離しなさあぁぁい!」

「いって! 手叩くな! おまっ、蹴るな! 曲がりなりにも令嬢だろうが!?」

「春日井さま春日井さま! 助けて下さい今度こそ殺されます! ピーポーウォールー!!」


 ジタバタ暴れていたら、「はぁ……」と溜息が聞こえ、「陽翔」と強めの呼び掛けに緋凰の美顔ドアップがすぐさま引いていった。難を逃れた私はすかさずグラスを持って、スタタと春日井の隣へ避難する。


「イジメです。イジメが発生しました! あの鬼、私のお目めを潰そうとしました!!」

「猫宮さん落ち着いて。それで陽翔はどうなの? わざわざ家にまで呼んで、猫宮さん試したんでしょ?」

「は?」


 試す? 私の何を??


「演技力ですか??? 鬼が竹刀持って鬼ごっこ始めたから、あれは本気走りです!」

「鬼ごっこにしたのはお前だろうが! ……もうそれ、部屋入ってきた時点で無しだ無し。水泳じゃ水着で分かんねぇけど、家呼んだらちったぁそういうの意識して来るかと思ったら、本当に宇宙人だった」


 座ソファに深くもたれて言われる内容に、眉間に皺が寄る。

 どういうことかさっぱり分からんぞ。


「宇宙人じゃありません人間です。どういうことですか」

「格好に一ミリも説得力がねぇな。お前、さっき俺の顔がどうこう言ってただろ? だから他の女子みたいな感覚はあんのかと思って、顔近づけて反応みただけ」

「何ですかそれ。自慢ですか。顔自慢ですか。他の女子の皆さんがどういう反応をされるのかはまぁ想像つきますが、私にも同じ手口が通用すると思ったら大間違いですよ! 私に黄色い悲鳴を上げさそうだなんて、片腹痛し!」


 黄色じゃなくて青い悲鳴なら上げたけどね!


「……何だろう。猫宮さんは僕も陽翔も普通だよね。まぁあのお兄さんがいるから、そうなんだろうけど。それでも陽翔の家で演技練習っていうことで、僕も少しだけご令嬢で来るのかなって思ってたけどね」


 「迎えに行って出てきた格好、初めからジャージだったし」と呟いてグラスを傾ける春日井の発言に、そこでようやく緋凰が何を考えていたかを理解した。


 目を細め、マスクの内側に付いている紐を引っ張ってクマの口を開ける。パカッと開いたその中にグラスを突っ込んで中の飲み物……りんごジュースを勢いよく飲んでゴンッ、とコーヒーテーブルの上に置く。



「――なるほど。何を思って家まで呼び出したのか、理解しました」


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