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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
203/641

Episode93-0 知っていること、知らないこと

 シン……と、非常口が時を止めた。

 たっくんを見ると、彼は首を横に振る。


 うん、たっくんが言ったんじゃないよね……?


 恐る恐る私達が来た方向へと首を向けると、少しして死角となる曲がり角からその声の主は姿を現した。


 ひぇっ、裏エースくん……! な、何でここに!?


 動転して思わずたっくんの背にコソッと隠れると、裏エースくんはそんな私を見てバツが悪そうな顔をして、頭をガシガシ掻く。


「ど、どうして太刀川くんが。屍のはずじゃ」

「屍って何だよ。……拓也がいつでも来いって言ったんだろ」

「うん、言ったよ。もしかして聞いてた?」


 えっ何を。どこからどこまでを!?


「……おう。聞いて、全部俺の誤解だった」

「わ、私はか弱い女の子です。とび蹴りだけは勘弁……え?」


 暴力反対と手を上げて訴えようとして、彼が言った言葉に目を瞬く。そして訴えを半ばまで耳にした裏エースくんが、微妙な表情をした。


「お前俺のこと何だと思ってんだ」

「だって。貴方が怒った時は、大体とび蹴りしているようだと」

「えっ。待って。僕そんなこと言ってないよ!?」

「怒ってもさすがに女子相手には蹴らねーよ! っと、そうじゃなくて」


 足早に歩いてきて、目の前でピタリと止まる。見上げた裏エースくんの顔はもう不機嫌でも、苛々してもなかった。気まずそうで、けれど真っ直ぐに私を見つめてくる。


「朝のこと、悪かった。いや朝だけじゃなくて、授業とかも。体育、相田にも迷惑掛けたし」

「相田さんには本当にご迷惑をお掛けしました……」


 鉄棒でペアになって逆上がりを手伝うっていう内容だったのだが、相田さんはスルリと一人でできて、補助の必要は全くなかった。問題はこの私。

 地面を蹴る時なぜか毎回運動靴をふっ飛ばすという現象が起きて、毎回靴を取りに行ってもらうという悲劇が発生した。逆上がりは一度も成功しませんでした……。


「……前に家に来た時とか、分かったと思うけど、俺ん家ちょっと複雑でさ。だから家のこととかうまく話せないし、あんまり言いたくなかったし。だから色々花蓮のこと、俺ん家の事情と重なって勘違いした。ごめん!」


 バッと頭を下げる裏エースくん。


 彼の家の事情と私のことがどうリンクしたのかは謎だが、何だかもうどうでも良かった。だって仲直りしようと頭を下げてくれたのだ。それだけで私としては十分だった。


「私のストーカー容疑は晴れたわけですね?」

「おう。もう思ってない。つかストーカーって言ってるの、花蓮だけだけどな」


 あんな言い方されたら、誰だってストーカーって言葉が出てくるでしょう!?


 そして裏エースくんの顔が私からたっくんへ。


「拓也も、怒鳴って悪かった」

「いいよ。僕は全然気にしてなかったから」

「全然」

「うん。僕、なんか分かったよ。新くんが怒る時って、好きだからなんだね。そっちにびっくりして気にならなかった」

「えっ?」


 好きだから怒る? ん?

 確かに好きの反対は無関心って言うけど。どういうこと??


 固まっている裏エースくんを尻目に、理解できていない私へとたっくんが説明してくれる。


「僕のこと好きだから、悪口言われていた時あんなに怒ったんでしょ? 他の子はでも、注意するだけで僕の時みたいに怒ってなかったし。朝の花蓮ちゃんの場合は、ちょっと言い方まとまらないけど、何て言うんだろう? 信じていたのに裏切られた、みたいな。それって好きだからでしょ?」

「裏切る!? 有り得ません!」

「花蓮ちゃん、例えだから。僕はそう思ったんだけど」


 フッとたっくんの視線が裏エースくんへと向けられて、その体がビクリと揺れる。なにその反応。え、当たりなの!?


「太刀川くん貴方、私がお友達を裏切るような人間だと!?」

「ちがっ、いや、ちが、わない」

「!!?」


 肯定されてショックを受ける私に、ハッとして裏エースくんが慌てだす。


「あの時は確かに花蓮のこと疑った! 俺と仲良くなったのも、計算があったんじゃないかって。でも、ずっと友達として隣にいて、そんなヤツじゃないってのもあって。だから俺の中でグチャグチャで、すごく苛々してた。そんなヤツじゃないのに、信じきれない俺が、すごく苛ついて」


 ギュッと眉を寄せて話すその表情は、苦しそうで。

 信じられなかったと言われた私でさえ、もういいからと、言ってしまいたくなるような。


「いくらそうだとしか思えなかった状況でも、友達を疑うなんて有り得ない。友達は守るもんだって言ったのは、俺なのにな」

「太刀川くん」

「花蓮。俺のこと、許せないか?」



 ――そんな、諦めたような顔なんてしないでよ



 たっくんの背中から出て、裏エースくんと正面から向き合う。


「私と拓也くんの会話、お聞きになっていたんですよね?」

「ああ」

「教室に戻ったら貴方に言ってやる!って言ったことも、聞いていましたよね?」

「……聞いてた」

「ですよね。最後の三つ何だとか言い返してきましたもんね。聞くならちゃんと最後まで聞いて下さい」


 「最後……?」と呟いて首を傾げているが、本当にその後に続く宣言があったのだ。教室に戻る前に本人が聞いているなんて、思ってもみなかったけど。


 私はピシィッ!と指を突きつけた。


「いいですか、耳の穴をかっぽじってよくお聞きなさい。『そうしてこう言ってやるのです。これくらいしか知らないのに、そんな私をストーカー扱いするなど笑止千万言語道断! 分かったら私への失礼な扱いを撤回し、仲直りして下さい!と!!』」

「……」


 そこは仲直りを頼む側である。だって仲直りしてくれなかったら、正直体育とか怖いもの。今日のことでよく分かった。


 だって毎回靴飛んだんだよ? 最初の一、二回はたまたまって言えたけど、それが次も次も次も次も続くと、もうさすがに言えない。靴が飛ぶ原因も不明。

 時期的に水泳のお守はなくなったが、裏エースくん以外の子にお守をされて、もう地面にめり込みたい気持ちになったのだ。

 私のお守は裏エースくんが適任だった。私のキノコ女化と屍は主に体育が原因である。


 フンッと鼻を鳴らしてキリッと言い切ったが、真顔で無言な相手の様子に、またキノコがジメジメと生えてきそうだった。


「な、仲直り……」

「仲直り、してくれるのか?」


 小さい声で驚いたようなそれに、私も驚く。


 仲直りしてくれたら、私からはもう何も言うことないんだけど。

 不問に処す!


「はい。だって拓也くんと、太刀川くんと一緒にいたいです。それに朝だって、私のこと嫌いで怒ったわけじゃないんですよね?」

「嫌ってなんかない!」

「ならいいです。ほら、仲直り!」


 降ろしている手をパッと手に取って、ギュッと握る。そしてその勢いのままにブンブンと振ってパッと離せば、呆気に取られたような顔をしている。


「ふふっ、どうですか。生誕パーティの時の私も、そんな気持ちだったんです! やり返してやりました!」

「何だよそれ……。ははっ! あーもうマジで俺、バカだった。ごめんな」

「許してあげます!」

「よかったぁ。仲直りしてくれて」


 そんな私達のやり取りを静かに見守ってくれていたたっくんから、安堵の溜息が漏れた。たっくんにもすごく心配かけちゃった。


「じゃ、教室もどろっか」

「はい! ……ん?」


 たっくんと手を繋ぎ、そして空いている方の手に温もりが触れる。


 あれ? え? 待ってこの並び、私が真ん中??


 きょとんと左右に首を振ってそれぞれの顔を見れば、たっくんはおかしそうに、裏エースくんは気恥しそうな顔をしていた。


「あの、私が真ん中ですか?」

「僕はこれが普通の形だって、いつも思っていたけど」

「……まぁ、たまにはいいだろ」


 いつも大体たっくんが真ん中だからすごく違和感……そう言えば最初は私もこれが正規の並びだって思っていたのに、いつの間にか毒されていた! 初めての女の子ポジだ! 女子なのに!


 ショックと同時に感慨深くもなるという不思議な気分で教室へと歩いていたら、すぐそこという所まで来て教室がザワザワしていることに気づく。まぁ、問題人物がいない教室はとても過ごしやすかろう。


 何となく三人で顔を見合わせてから、一歩教室へ入ると。



「「「「「仲直り、おめでとーー!!!」」」」」



 クラスメート全員が、揃ってそんな声を上げて私達を出迎えてくれたのだった。


「「……え?」」


 私と裏エースくんの声が被った。よく被るな。


 呆然とする私達を見て、「成功!」とも声を上げる下坂くん。そして楽しそうな顔をして、相田さんがこちらにやって来た。


「ネタばらし! 百合宮さんが出てってからも、太刀川くんがいるから空気最っ悪でね! でも二人が出てってからすぐ頭抱えて、『あーーっ!!』って叫んで、すぐ太刀川くん出て行っちゃってさ。ほら、朝からずっと不機嫌で苛々してたでしょ? またケンカしないか心配で下坂くんと一緒に、こっそり後追ったのね。でも非常口の方に行くから、あ、やっぱり百合宮さんのところ行くんだ!ってそのまま付けてたら、非常口の角で止まって。私達もそれを見てたら、いきなり両手で顔押さえてしゃがみ込むから、何事!?って思ったよ。うなだれて、『マジかー……』って呟いているのも聞こえて。あ、これ大丈夫だなって思って、帰って皆に報告したの。もう大丈夫だよーって!」


 怒涛のネタばらしに、口を挟む隙もなかった。

 裏エースくんなんか口をパクパクとさせている。


 何だ。裏エースくん、すぐ私達のところに来ていたのか。初めから話聞いてたヤツか。


「ふふっ」

「何だよ」


 ぶすくれた顔で言う彼に、それにもおかしくて笑う。


「やっぱり私のこと大好きじゃないですか。すぐ追い掛けてくるなんて」

「っ。悪いか!」

「いーえー?」


 けれどそんなぶすくれた顔も長くは続かず、仕方なそうに笑い始める。それを見て皆も笑い、私もまた笑うのだった。



 そんな怒涛の一日。

 

 私と裏エースくん家の事情がまたリンクして、彼が()()()()をするのは、この四年後――……。


次回予告!

聖天学院の運動会編とその後を、前に麗花の視点で出てきたあの子の視点からでお送りします!

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