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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode91-3 聖天の運動会

 この時、私と麗花の顔は同時にスンッとなった。


「立てる? 立てるよね? ほら立って」

「耳障りな声ですわね。さ、お掴まりになって」

「え、あ、はいっ」


 私達の間に漂う空気を感じ取ったのか、それまでの立てなさは何だったのかと言うほどパッと立ち上がった。

 そして落としていた白バトンを拾い、その子と手を繋ぐ。次いで、その子の反対側の空いている手を麗花が繋いだ。


「あの、えっと……?」

「一緒に走ろ。もう三人で注目集めたままの方が気も楽でしょ」

「ケガをなさっている以上、私ももう先程のように走れませんわ。かっちゃん、バトンは同時に渡すことにしましょう」

「オッケー。じゃあいっせーので、右足からね」


 いっせーのっと同時に走り出した私達。


 走ると言うよりはお互いに足出すタイミングを見て揃えている感じなので、紐で結んでいないだけの二人三脚みたいな感じである。そんな感じだからスピードはゆっくりで、何となくお口が開いた。


「ねぇねぇ。私学院からなんか怒られる?」

「競技中の乱入ですもの。本人にはいかなくても、保護者に注意がいきますわね」

「あ~。私の場合どっちになると思う?」

「……難しいところですわね。というか何でこっちに来ましたの。余計に注目を浴びるのは避けたかった筈でしょう」


 そうなんだけど。

 回答はただ一つだけである。


「見学してる大人の話がムカついた」

「……」

「む、ムカついた、んですか?」


 麗花が何も言わなかったからか、間の子が聞いてきた。


「ムカついたし、転んで立てないのに誰も助けに行こうとしないし。だったら私が行っちゃえって」

「考えなしの典型ですわね」


 なにおぅ!?


「学院では何か問題が起こった場合、可能な限り同学年で解決する決まりがありますの。自立心と問題解決力を磨くための、学院の教育方針ですわ」

「……あ、な~る」


 お兄様他、教師が動かなかった理由が分かった。

 えー、でもだったら麗花以外にも誰か一年生動こうよ。冷たくない?


「麗花はすぐに引き戻ったのにね~」

「あの、薔之院さま。あり、ありがとうございます……」

「……別に、お礼を言われるほどのことをした覚えはありませんわ。ファヴォリとして当然の行動をしたまでですもの」

「あ、これ照れているだけね。麗花素直じゃないから。可愛いよね~?」

「かっちゃん貴女その軽過ぎるお口を今すぐ閉じやがりなさいませ」

「はい」


 危機管理能力が察知した。

 これ以上は絶対にお口を開いてはならない。


 お口チャックを余儀なくされたものの、お喋りをしている間に次の走者との距離は縮まっていた。何だか何とも言えなさそうな顔をしている第二走者へと麗花が赤のバトンを、私が白のバトンをそれぞれへ同時に手渡して、改めてスタートする。


 しかしその走りも第一走者のことを引きずっているのか、精彩に欠けていた。ありゃ~。


 出番を終えた麗花と転んだ子が待機場所に留まるのは当然のことながら、何となく流れで私も一緒に居座っていると。


「かっちゃん」


 ぬっと影が差して、聞き覚えのあり過ぎる声に恐る恐ると見上げれば。


「一緒においで」


 とってもにこやかな顔をされているお兄様に、同行命令を下された。


 お、お兄様アンカーでは? 男子の出番はもうすぐですよ!?


「も、問題が起こった場合、解決するのは同学年という。私をここから動かせるのは一年生のみ!」

「うん、それね。余程のこと以外はね。いま余程のことだからね。あと口調迷子になっているよ」

「おおう……」


 私に拒否権はなかった。


 ギュウゥと強めに繋がれた手を引かれて連行される姿は、さながら迷子の補導のようだったとは、麗花の後日談である。

 最後の種目だと言うのに選手よりも注目を浴びる私が連れて行かれた先、救護テントの中にいたとある人へと私は預けられた。


「目を離さないでちゃんと捕まえていて」

「あはは。もうさすがに何もしないでしょ。ね、花蓮ちゃん?」


 そう言ってニコリと笑うその人は、遠足の時以来のお兄様のご友人・佳月さまだった。って、名前呼ばれた! いいの!?


「じゃ、あとで迎えに来るから。遠山くんが」

「分かった。リレー頑張ってね~」


 そう言って戻って行くお兄様を見送り、にこやかな佳月さまとサングラス越しに顔を合わせる。


「事情は聞いているよ。久しぶりだね」

「お、お久しぶりです。あの、どこかおケガされたんですか?」

「ああ違うよ。元々体が弱くて。ドクターストップかかっているから、今日一日保健委員なんだ」

「えっ。大丈夫ですか!?」


 心配して聞くと、「大丈夫だよ」と言って肩を竦める。


「って言っても、本当に最近調子良いから、少しくらい動いても大丈夫じゃないかと思っているんだけど。本当皆過保護でさー」

「お医者さまの言うことは絶対です! 私のあのケガも、本当に二週間できっちり治りましたもの!」

「うん。きれいに治って良かったね」

「はい!」


 と普通に佳月さまと仲良く会話している間に、いつの間にか男子の方のリレーが始まっており、気づいた時には佳境に入っていた。


 あ! また忍くんの活躍見逃した!!


 そんなショックな出来事があったせいで以降はリレーに集中し、アンカーのお兄様がバトンを受け取る頃には結構差があったものの、何の問題もないという感じであっという間に追い抜き逆転勝利を白組にもたらした。


「「さすがお兄様/さすが奏多」」


 救護テント内で揃った声も、運動場内に響く大歓声でかき消されるほどであった。


 その後はリレー選手が退場した直後に言いつけ通り遠山少年に回収された私は、無事何事もなく元いた見学席へと戻され、しかしその時お隣さんが二人ともいないことに首を傾げた。


 こうして、私立聖天学院の運動会は幕を降ろしたのだった。


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