Episode89-1 聖天の運動会
はい! ということでやってきました、私立聖天学院の運動会。いや~中々雨って降らないね。一週間ずっと快晴だったよ! ハッハッハ。
私が運動会を見学するに至る対策その①。
麦わら帽子にサングラス、Vネックシャツワンピ腰巻きベルト仕様にネイビーのクロップドパンツという、一週間前の誰かさんを彷彿とさせるコーデ。
ちなみに髪型は編み部分を所々引っ張り出して、ふんわりとさせた三つ編みスタイルです。やっぱり誰かさんと若干被っている。
私が運動会を見学するに至る対策その②。
目的地に到着した車から降り、ここまでずっと一緒だった隣の子の小さな手を繋いで、一緒に降りる。
「わぁ! すっごくおおきなおしろー!! ね、かっちゃん!」
「そうだね~。大きいね~」
「光子、慣れ慣れしいですよ! すみません、花蓮さん」
冷や汗をかいてそう言うご婦人に、にっこりと微笑む。
「いえ。私は本日、遠山家の親戚の女の子ですから。これくらい仲良しなのが普通です」
「それなら良いのですけど」
「なかよしだもん。ね~?」
「ね~」
――ということでもうお分かりかとは思うが、詳しい説明をすると私は百合宮家の令嬢としてではなく、お兄様と同じクラスの遠山家の親戚として本日お呼ばれしている設定だ。これも全ては素性と顔が割れてしまっている、水島兄のせいである。
何故遠山家に白羽の矢が立ったのかと言うと、前にお兄様と一緒にご挨拶して面識もあるし、何よりお兄様が遠山少年を見込んで依頼し、彼の人も「オッケーオッケー問題ないよー」とあっけらかんと請け負ったという。
普通家族に相談しないか?と遠山少年に対し思ったものの、お兄様の見立てに間違いはないだろう。
そんなわけで百合宮家を出発した私は一旦遠山家まで連れて行かれ、ご家族に挨拶した後、遠山家の車で学院まで一緒に乗ってきたということなのである。
ちなみに手を繋いで学院を「おしろ~」と言って目をキラキラさせてはしゃいでいる子は、遠山少年の妹の光子ちゃん。以前に遠山少年は彼女のことを素直じゃないみたいに言っていたが、十分素直な可愛い子だ。
「光子ちゃん。あれは光子ちゃんのお兄ちゃんがお勉強をしている、学校っていうところだよ。光子ちゃんももう少し大きくなったら行けるようになるよ」
「ほんとう!?」
「そうですよね、伯母さま?」
「そうよ、光子」
「きゃ~!」
やったぁーとはしゃぐ光子ちゃん、可愛い。
私の口調もノーお嬢さまスタイル。
正体がバレないに越したことはない。
本日の運動会は遠山家では、夫人と光子ちゃんだけの見学だそうだ。
息子の小学校最後の運動会ではあるものの、「中学でも高校でも運動会はある。オッケーオッケー問題ないさー」と言うのが遠山父の言。この父にしてあの息子である。
遠山夫人と光子ちゃんと色々お喋りしながら指定の保護者席まで歩いていると、それを見た私の目は点になった。
なにあれ。何かなんの違和感もなく、給仕されている人達がいるんですけど。
さすが屈指の上流階級富裕層の子息息女が通う学院。席の間隔や位置など、まさにパッと見ただけで家格差が歴然としている。これがスクールカーストというものか。(※違う)
後ろの方の人達は普通に座っているのに対し、前に席を用意されている家族には飲み物や軽食の用意がなされ、双眼鏡の用意までされている。恐らく特権階級・ファヴォリに対する学院側の配慮であろう。
……あっ、前方に百合宮家発見! ただいまお母様が若い男性にお茶を給仕されて微笑んだ! それを受けた給仕の男性の顔が赤くなる!
お父様、お父様はどうした……ビデオカメラの準備をするなガリヒョロ!!
「かっちゃん……?」
サングラスで見えない筈だが目の吊り上がりを察知されたのか、心配そうに呼ぶ光子ちゃんにニコリと微笑む。
「ふふふ。暑いね、光子ちゃん。涼しいところに行こっか」
「うん!」
にぱっと笑う光子ちゃんの手を引きながら、夫人と一緒に遠山家の席を探す。
夫人は後ろの方をキョロキョロと探していたが、「遠山さま」と前方から呼ばれる声にそちらへ行くと、まさかの。
「本日はとてもお世話になりますわ。よろしくお願いしますね」
「は、はい。とんでもございません。こちらこそ、よろしくお願い致します」
お母様がふわりと遠山夫人に微笑んだ。遠山家の見学席は、何と我が百合宮家のお隣に用意されていたのである。……我が家の仕業だな。
それが不自然だというその証拠に、他の六学年の見学席から向けられる視線の多さったら。本日以降、百合宮家と遠山家に関する様々な憶測が他家で飛び交いそうだ。
光子ちゃんは良く見えると喜んでいるが、夫人は恐縮しきりだ。
ご迷惑をお掛けしてすみません……。
「ねーねーかっちゃん。おにいちゃん、いつでばんかなぁ~?」
「え~っとね。確かプログラム表、プログラム表…」
「かっちゃん」
サッと差し出されたそれを辿ると、白く細くたおやかな百合宮夫人が。周囲の席がザワッとする。
「これを使って」
「……あの。ご厚意はありがたいのですけど、探せば見つかりますので」
「大丈夫よ。私達は何枚でもプログラム表を頂けるから」
本日以降の遠山家が大丈夫じゃないと思います!




