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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode87-1 清泉の運動会

 スパルタ方式の先生が二倍になって、時折出番の大玉転がしを挟んで続いたスタート特訓は、何とか午前の全種目を終える頃には走り出しても転ばなくなるまでに成長した。


「五・六年生のマスゲーム見たかった~!」

「仕方がないでしょう。花蓮が転ぶんですもの」

「仕方ないよな。最後に悪夢見るよりマシだろ」

「二人ともひどい!」


 普段と同じくお昼休憩が一時間の後、午後の部が始まる。

 今は麗花と裏エースくんと一緒に、保護者席へと向かっている最中である。


「そう言えば今日は太刀川くん家って、どなたか来られているんですか?」

「母さんだけ。親父には来るなって言った」

「え! どうしてですか。今日こそはご挨拶!って思っていましたのに」

「来たら騒がれるだろ」


 聞いてあ、なるほどと思った。


 そりゃあれだけ実年齢より若く見られる、三十六歳の美青年なパパさんだ。世の奥様方に一躍アイドル扱いされることは目に見えている。

 仕方がない。お母さんにだけはお友達だと、大変お世話になっていることをご挨拶しなければ……!


「騒がれると言えば、咲子さまにもお父様方からの視線がうるさかったですわよ。私もよく人から見られる方ですので、ああいう視線はすぐ分かりますわ」

「何ですって!?」


 確かにお母様も実年齢より若く見られがちだけど! 複雑! お母様がそんなに男性の熱視線を向けられるの、とっても複雑! お父様は何をしている!!


「安心なさい。坂巻さんとウチの西松でにこやかにガードしておりますわ。奏多さまも合間に微笑まれて、牽制されておりますもの」

「お父様は」

「貴女の活躍をビデオカメラに残されていましたわ」


 ガリヒョロ!!

 そういうのは坂巻さんに任せてお母様を守れ!


「麗花ちゃん」


 我がクラス限定簡易ウッドデッキの近くまで来たところで、お兄様が手を挙げて立っているのが見えた。わざわざ迎えに出てきてくれたようである。


「奏多さま!」

「どう? 花蓮もう大丈夫?」

「少し心配はありますけど、取りあえずは大丈夫だと思いますわ」


 何の報告会だやめて。

 むぅーとしていると、お兄様の顔がそんな私を通り越して裏エースくんへと向けられた。


「太刀川くん。久しぶりだね」

「お久しぶりです!」

「夏休みの時、花蓮のことありがとう」

「! ……友達なんで」


 少し照れくさそうに言う裏エースくんに頷き、お兄様は私達を連れて両親たちがいる席へと歩く。

 途中お母さんを探そうと別れようとした裏エースくんだが、「君のお母さんもウチのところに一緒だよ」と言うお兄様の言葉を受けて一緒のままだ。そうして席に辿り着いた私の目は、点になった。


「まぁ。それであの時花蓮ちゃん、ああ言ったのね」

「新ってば全然そういうの言わないんだから。やんちゃするのも程々にさせないと」

「いえいえ。拓也こそお子様達にお世話になっているようで、恐縮です」


 同じテーブルを囲んで、ご婦人方がきゃいきゃいしていた。


 お母様と活発そうな印象の女性と、丸眼鏡をかけたふっくらとした女性。プラス困った様子で、キョロキョロとせわしなさそうに何かを探している様子のたっくん。と、そんなたっくんと目が合った。


「あ! 花蓮ちゃんと新くん! 助けて!!」

「「お母様! 拓也くんに何しているんですか!/母さん! 拓也に何してんだ!」」


 助けを求められた私と裏エースくんの発言が被った。


「「花蓮ちゃんのお話を聞いていただけよ/新の話を聞いていただけよ」」


 お母様と活発そうな女性の発言も被った。


 発言被りした私達生徒組はすぐさまたっくんへと駆け寄り、同じく発言被りした婦人組の間から彼を救い出す。


「「大丈夫ですか拓也くん/大丈夫か拓也」」

「うぅ。色々質問攻めにされて怖かった!」


 何てことだ。私が徒競争でクラウチングスタートができなかったばっかりに、たっくんを一人にして怖い思いをさせてしまっただなんて。


「お母様! いくら拓也くんを気に入ったからって、あれこれ話し掛けないで下さい! 拓也くんにも心の準備というものが必要なんです!」

「母さんもだぞ!」


 抗議する私達に婦人方は、「え~?」と揃って肩を竦める。

 え~じゃない!


 と、ここでハッとした私は保護したたっくんを裏エースくんに預け、お母様と同席している婦人方のところへとテテテと向かった。


「私、百合宮 花蓮と申します。拓也くんと太刀川くんにはいつも良くしてもらっていて、とてもお世話になっています」


 ペコリと頭を下げて挨拶すると、「「あらまぁ。これが本物のご令嬢」」とまたもや被った発言が返ってきた。


「ご丁寧にありがとう。太刀川 新の母です。新が色々やんちゃしているみたいで、ごめんなさいね」

「柚子島 拓也の母です。いつも拓也と仲良くしてくれて、ありがとう」

「はい。二人とはずっとお友達です!」


 活発そうな女性が裏エースくんのお母さんで、丸眼鏡のふっくら女性がたっくんのお母さん。


 よし、学校のお友達のお母さん達にはご挨拶できた! 次はたっくんのお父さん……あれ?


 探すと隣のテーブルにお父様と一緒に男性が一人いらっしゃるのだが、さっきのたっくんと同じで何か困っているように見える。


「ダメだな、父さんは。あれ程言ったのに」


 隣に立ったお兄様が小さく息を吐いてそう呟いた。


「あれ程?」

「迎えに行く前に、娘自慢も程々にねって言って出てきたんだけど」

「……」


 よく目を凝らして見れば、その手にはビデオカメラがある。それを指してデレデレとした顔をしていることをあわせて考えれば、困った様子の男性相手に何をしているかなど一目瞭然だった。


 あのとんだ張り切りのガリヒョロが!!


 目を吊り上げズンズンと近づく私に気づいたお父様が、そんな私の顔を見た瞬間にザアッと音を立てて血の気が引いたように、一瞬にして顔色が悪くなった。


「お父様!!! 私の大事なお友達のお父様を困らせるのは、今すぐやめて下さい! 坂巻さん、お父様のビデオカメラを没収して下さい!」

「そ、そんなこれだけは! あっ、坂巻くん!?」

「すみません旦那さま。奏多坊ちゃんからも先程同じことを頼まれました」

「奏多……!」


 さすがお兄様。兄妹考えることは同じである。

 そうしてビデオカメラを没収されてがっくしと肩を落とすお父様を放り、もう一人の男性へと向き直る。


「お父様がご迷惑をお掛けしてしまいました。すみません。私、百合宮 花蓮と申します……」


 恥ずかしさに名乗る声も小さくなった。


「えぇっと、柚子島 拓也の父です。いやあ、お父さんの言う通り、可愛いお嬢さんですね」

「拓也くんとは、いつも本のお話で楽しく過ごしています……」


 婦人テーブルのメンバーでそうだと思ったよ……。


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