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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode85-0 水泳を手伝う理由

 私の水泳を手伝う?

 緋凰が? ……緋凰が!!? 何で!??


「えっ。ど、どうして緋凰さまが。そ、そんなに春日井さまを私に独占されるのが許せないんですか!?」

「そっから離れろ!! ……チッ。何で俺がこんな亀のために」


 ぶつくさ言いながら深くビーチチェアに座り直した緋凰が、眼光鋭く私を見る。怖っ。


「俺はな、ちゃんと学院では女子に対してもっと口調ちゃんとしてんだ。お前が最初不審者してっからそのまま話してるけど、俺が緋凰の人間って分かっても態度が変わるわけでもねぇ。前の時もド下手くそ過ぎて、つい時間いっぱいまで教えたけど、確かに泳げるようになりてぇんだなっていうのは分かった。言葉キツくてもちゃんとついてきたし。根性あるんだったら、あのまま中途半端なのは俺も性に合わねぇ。お前が泳げるようになるまで俺も付き合う」

「素直に仲良くなりたいって言ったらいいのに」

「……夕紀」

「私と仲良くなりたいんですか」

「違ぇよ亀! 今までなに聞いてたんだ鳥頭!!」


 春日井との態度の差がひど過ぎませんか?


 私か弱い女の子よ? 私以外の女の子にそんな暴言吐いたら、普通に泣くからね? ……麗花は言い返しそうだな。


「まぁ仲良くなりたいどうのは置いておいて。水泳のお手伝いに、どうしてストップウォッチなんですか? 私まだ泳げませんよ?」

「普通にスルーするのが猫宮さんだよね」

「くっそ調子狂うなコイツ。お前が泳げねぇことなんか分かってんだよ。これは泳ぎのタイムを計るためじゃなくて、動きの間隔を計るためのものだ」

「動きの間隔?」


 首を傾げたら春日井が説明してくれた。


「さっきクロールの息継ぎあり版のフォーム練習したでしょ? ちゃんと一定のリズムで動けているかを陽翔は計ってたんだよ」

「まさかさっきの二秒どうのっていうの、それのことですか!?」


 人が一生懸命腕と顔を動かしている横で何かピッ、ピッ、ピッ音がすると思ったら!


「えええ? 前にフォーム練習必要かって言われましたけど、それこそ必要ですか? 泳げるようになりたいだけで、速く泳ぐとかそういうの目指していませんよ?」

「甘ったれたこと言うな。やるんだったら上を目指してナンボだろ」

「えええええ!?」


 何なのコイツ完璧主義者なの!?

 それとも単純に熱血野郎なの!? どっち!?


「イヤです! 夫人で間に合ってます!」

「イヤだと!? お前のためにわざわざ時間割いてやってんだぞ!」


 恩着せがましい! そんなもん頼んでないわ!

 こちとら学校の水泳他でも裏エース先生っていう、夫人と指導方針一緒の偉大な先生がついているんだ。


 まだお守解放までの道のりは遠いが、スパルタでもちゃんと優しいし、厳しいだけの緋凰とは雲泥の差。月とスッポン!!


「生徒にだって先生を選ぶ権利があります。夫人は大人で丁寧で、優しくて良い匂いがします。それに比べて前の貴方はどうですか。口を開けばバカとかアホとか鳥頭とか! 生徒のモチベーションも下がるってものです」

「何回言っても腕動かして、息継ぎするために顔上げないからだろうが!」

「待って猫宮さん。良い匂いってなに」

「正しく腕を動かすのに必死なんです。息継ぎまで頭回りません。夫人は水に入っていても、何かフローラルな香りがします!」

「黙れ変態! 水泳に集中しねーで何やってんだ、息しねぇと人間死ぬぞ!? つか匂いって今度は犬かよ!?」

「猫宮さん。ねぇ猫宮さん」


 薄ら微笑む春日井からのどこか不穏さが滲む声に、私と緋凰の言い合いがピタリと止まる。


「まさかとは思うけど。忘れた頃に息継ぎのタイミング間違えるの、そのせい?」

「えっ」


 声を出したのは緋凰だ。

 私はビクッと肩を跳ねさせた。


「いえまさかそんな。さすがに匂いに釣られて、間違えるなんてことは」

「猫宮さん?」

「……お、お花とか家にたくさん咲いていて、見るのも好きですし、香りを嗅ぐのも好きなんです。近くに良い香りがしていたら、何だろう?って気になりませn」

「猫宮さん」

「その通りですすみませんでした」


 あの春日井からしかも真顔で話を遮られての呼び掛けに、観念せざるを得なかった。


 だって、だって本当に良い匂いなんだもん!

 お兄様のお日さまの香りが今のところ一番だけど!


「良い匂いは落ち着くんです……」

「しょんぼりしながら言うことか」


 はぁ~と春日井が溜息を吐く。

 何だか、こうして彼の溜息を聞くのも回数が増えた気がする。


「あのね、猫宮さん。前にも言ったと思うけど、笑うのと同じで他に気を取られてそれができないと、本当に危険なんだよ? 猫宮さんの場合はそれが重点的に息継ぎで、一歩間違えたら取り返しがつかないことになるかも知れないのは、ちゃんと分かるよね?」

「はい……。仰るとおりです……」

「間違えるのは忘れた頃で、本当に息継ぎだけならそれだけなんだ。フォーム練習だって形もきれいになってきたし、ちゃんとやればできる子なんだよ。真面目に……真面目にやっていたよね?」

「やっていました間違いありません」

「うん、ずっと見ていたから分かるよ。確認しただけ。学校でも水泳の授業、まだ彼についてもらっているんだよね?」

「……うぅっ」


 グサッ!と心に直球でダメージがきた。


 言いたいことがもの凄く伝わり過ぎて満身創痍まんしんそういです……。水泳だけじゃなくて体育全般です……。

 本当、本当に分かりやすく懇々と説明してくれる春日井には、今後何も言えません……。


「あ~夕紀。か、亀子も反省しているみてぇだし、もういいだろ?」


 何か緋凰にまで気を遣われてしまいました……。

 初めてちゃんと名前で呼んでくれた……(亀子だけど……)。


「陽翔もだよ。猫宮さんと色々話したいのは分かるけど、彼女も女の子なんだから言い方優しくして」

「わ、悪い」


 あぁっ、庇ってくれた緋凰にまで飛び火してしまった! 私が言うのだったら絶対言い返しただろう内容にも、春日井大好きっ子だから素直に応じているじゃないか!


「あの、えっと、お口悪いのはダメだと思いますが、緋凰さまらしくて良いんじゃないでしょうか。何というかその、逆にそういうズバッと言って下さる人って、中々いませんし」

「亀子……」


 庇ってくれてありがとう。

 私も庇ってあげたからね!


 緋凰にグッドサインを出したら、彼もちゃんとサインし返してくれた。しかし出していた私達のグッドサインは真ん中にいる春日井の手によって、掴まれて静かに降ろされた。


「変なところで意気投合しない。猫宮さん、ちなみに僕と陽翔から猫宮さんの言う、集中できなくなるような香りってする?」

「……。いえ、全くしません。強いて言うならプールの水の匂いがします」

「じゃあ問題ないね。今後息継ぎが関わる場合は僕と陽翔で、そうじゃない場合は母と一緒に教えることに変えよう」

「えっ」


 夫人に習いに来ているのに、それってアリなの!?

 というかナチュラルに今後も緋凰が来ること決定してる!


 とっても嫌そうな顔をしていたら、春日井がニコッと微笑んだ。


「ゴーグルしたままなのに、分かりやすいね? 何か言いたいことあったら言ってくれてもいいよ」

「何もありません今後ともよろしくお願いします」


 緋凰、首を横に振らなくても今は大人しくするべきなのは分かっているから! 大丈夫!

 

 全て私による自業自得なので、何かあっても言えるわけがない。今後春日井には何も言えないって、さっき反省したばかりです……。


 こうして春日井スイミングスクールのメンバーに先生役として、新たに緋凰が追加されることとなったのだった。


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