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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode79-1 2つの約束

 どれくらい泣いていたのか。

 涙が枯れ果て、スン……スン……と鼻をすする段階になって、水の流れる音しか聞こえないことに急に不安になる。


「太刀川くん」

「うん」


 すぐに返事があったことにホッとする。ホッとしたら、あれだけ泣いたのにまた目尻からポロっと涙がこぼれた。


「どうして、ここにいるって、分かったの?」

「……水島の令嬢と一緒にいたのに、一人だけなの見て別れたんだって思った。ベンチに行っても花蓮いないし、どこウロチョロしてんだって思って。けど探してもいなくて、そうしたら会場にいなきゃいけないヤツもいないことに気づいて、何か嫌な予感がした。水島の令嬢にお前のこと聞いたら、泣き出してさ。庭園の方指差して何も喋んないから、ヤバいこと起きてんだって分かった。お前迷路気にしてたし、入ってんのかと思って探してたら、悲鳴が、聞こえてきて」


 そこで言葉を切ったが、もうそこから先は説明がなくても分かる。入っちゃいけないって言われていた迷路に入ってくれてまで、探してくれた。

 裏エースくんが探してくれなかったら、きっともっと酷いことされていた。


「太刀川くんが、言ったから」


 鼻声で聞き取れないかもって思ったから、酷い顔をしていてもちゃんと顔を上げて彼を見た。眉を下げて、彼も泣きそうな顔をしている。


 何で君もそんな顔をするの。


「太刀川くんが言ったの。イヤなことはイヤなことだって。我慢するなって。いつもみたいにぶーぶー言えって。だからずっと言ったの、いやって。何回も。あの人は聞いてくれなかったけど、でも太刀川くんには聞こえてた。来てくれた。助けて、くれた」

「か、れん」

「ありがとう。助けてくれて、ありがとう……っ」


 笑えただろうか?

 何とか笑顔で言おうと頑張ったけど、多分不細工になっちゃってるだろうな。


「……笑うなよ。そんな顔で笑うな!」

「へぁっ」


 間抜けな声が出たけど、仕方ないと思う。

 グシャリと顔を歪めて抱きつかれて、パチパチと瞬きする。


 あれ、どうなってるのこれ。


「太刀川くん?」

「当たり前だろっ。友達なんだから、助けるに決まってる。お前ただでさえどっか抜けてて運動音痴なのに、変なことに巻き込まれんなよ! 顔だって可愛いんだから、ほいほいどっか付いていくなよ!」

「ごめんなさい」

「……つっこめよ」

「……ごめんね」


 心配かけて。


 震える声に、自然に言葉が滑り落ちる。

 抱きつかれても、可愛いって言われても感じることはまったく違う。温かくて、優しくて。ホッとする。


 しばらくそのまま温もりを享受していたら、ビクッと揺れてパッと離れられた。


「わ、悪い! あんなことあったのに無神経だった!」

「え? ううん。全然違うから逆に安心したよ? えへへ」

「えへへってお前。……本当はそんな喋り方なんだな」

「ん? あっ。気が緩んじゃったらつい。また令嬢らしくないって言う?」

「いや。花蓮らしいよ。……もう、立てそうか?」


 すっかり涙も止まって落ち着いている。言われて普通に立ち上がれたことに裏エースくんもホッとし、「じゃ、親父さんのところに帰るぞ」と言ってゆっくり歩き出す。


「あっ、太刀川くん!」


 普通に歩き出されてしまい、慌てて彼の手を取って繋ぐ。


「え」

「もう、置いていくなんてひどいです。一緒に戻ります!」

「は。置いてくつもりないけどって、手……繋いで大丈夫か?」

「太刀川くんなら大丈夫です!」


 にっこり笑って言うと「そっか」と微笑まれ、そうしてまたゆっくりと歩き出した。

 二人で一緒に歩いていると、景色も何だか違って見える。生垣の葉っぱもキラキラ輝いているよう。口数はいつもより少なくて会話もなかったけれど、それでも楽しいと思った。


 ゆっくりだったから結構時間が掛かった筈なのだけれど、迷路の切れ目が見えて意外に短かったなと感じるほど行きと帰りの感覚が違った。出た先は入った場所と同じ庭園で、人っ子一人いないのも同じ。


「そういえば一度も止まらなかったですけど、迷いませんでしたね」

「来る時と同じ道通ったからな。そりゃ迷わないだろ」

「えっ。一度で覚えられたんですか?」

「おう」


 裏エースくんのポテンシャルどんだけ。

 出来過ぎくん改め、出来過ぎ大魔王に改名を重ねてもいいだろうか?


 庭園から会場までをまた歩く。柔らかな芝生の上を歩き、風が涼しさとともに会場の方から聞こえてくる、人の声を運んできた。その瞬間。


「……」

「花蓮?」


 ピタリと足を止めた私を、裏エースくんも足を止めて呼び掛けてくる。


「どうし……、花蓮!?」

「……えっと、ひっ、なん、なんででしょ。なんかっ、勝手に、ひっく、出てきて……っ」


 枯れ果てたと思った涙が、会場からの笑い声が聞こえてきた瞬間にあふれて出てくる。手がプルプル震える。


 落ち着いた筈なのに。裏エースくんと一緒なのに。

 目の前がぐるぐるする。笑い声が気持ち悪い。


「……あっち行くぞ。歩けるか?」


 会場の方じゃないところに体を向けさせられ、どこか見えなかったけどコクンと頷く。

 目をくしくし擦りながら歩き、「座れ」って言われてベンチに座らせられる。その間もポロポロと涙が溢れて止まらない。


「俺、親父さん呼んでくる。ここから動くなよ」


 その言葉に一人にさせられる恐怖が突如として湧き、衝動のまま、繋いだままの手をギュッと握りしめた。


「や! やだ行かないで!」

「でも。ほら、目を閉じて。そう。何もない。何も見なくていい。すぐ戻ってくるから」

「うぅ~……っ」


 それでも手を離せない。

 裏エースくんが困惑していることくらい分かる。


 でも、でもっ……!



「何かあったのか?」


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