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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode62-2 社会科見学とお父様の真実

 マニアック花講座のせいで一度は目の輝きを失くしたクラスメートたちだったが、気を取り直して温室を見て回る内に自然と輝きを取り戻していったので一安心だ。


 ……一安心なのだが、ちょっと不安な様子の子がいたので声を掛ける。


「西川くん」


 呼ばれた彼は終始変わらぬキラキラの目をして、私を振り返った。


 そう、マニアック花講座を聞いている面々の中に彼もいたのだが、彼だけはずっと目の輝きを失わず話を聞いていたのだ。

 そして声を掛けたのは私であるのに、西川くんは興奮を隠しきれない様子で話し始める。


「百合宮さん! やっぱり百合宮社長ってすごい人ですね! あんなに色んな花のたくさんのことを知っているなんて、尊敬します! 後半の話はさすがに分からなかったけど、社会科見学なのに見学先のことを調べていなかった、俺の落ち度を痛感しました!」

「いえ、社会科見学にそこまでの知識は全く必要ないと思います」


 何だろう、西川くんには特別なフィルターでも掛かっているのだろうか? いや、お父様を褒めてくれるのは単純に嬉しいんだけど。


 そうして温室を一通り見て回り、生花から香料となる精油を抽出されていく工程を見学する。

 工場とは言うが、たくさんの機械がゴチャゴチャあって冷たいあの工場といったイメージは全くなく、所々に木材を使用しており、抽出は耐熱ガラスを使用している大容器のために見た目にもカラフルで、目を楽しませてくれる。


「このように中身が見えることにより、生花から取り出した精油の濃さが見て分かるようになっています。このアイディアは社長がご提案され、我々工場員たちにも良い環境となりました」

「うむ」


 そんな工場長の説明と賛辞に、お父様が鷹揚おうように頷いている。


 へー。てことはお父様が従来の工場っぽさをなくして、見た目にもこだわった工場に変えたのか。そっか。ちゃんと能率とか社員のことも考えて、色々しているんだなぁ。


 百合宮の事業内容はこの香水・フラグレンス部門だけでなく、化粧品部門やら染色部門と多岐たきに渡る。

 そんな中で商品開発や新部門立ち上げといった新しいものばかりを追うのではなく、こうした昔からあるものを少しずつ変えていくことは、代表者という立場であれば中々見落としがちな部分であると思う。


 研究家を志していたお父様がお母様と結婚して百合宮の家に婿入むこいりし、そこから経営者に転身することは、そう簡単なことではなかった筈だ。


 ……あぁ、だからあんな仕事人間になったわけか。


 必死にならなければ、受け継いだものを守りきれなかったのだろう。植物研究家と生花を取り扱う会社で中身は似ているが、研究者と経営者は全く違うものだ。

 

 家を守ろうとして、結果その中身である家族をかえりみることを忘れ、仕事しか目に入らなくなったのだ。


「花蓮」

「太刀川くん?」


 肩を軽く叩かれたので見れば、裏エースくんが私を見つめていた。


「いや、何か変な顔してたから」

「変な顔って何ですか失礼な。……ちょっと、色々考えていたので」

「そっか」


 深くは聞かずに、ただ相槌あいづちを打つ彼。

 ……もう、こういうところは本当に裏エースくんだなぁ。


 くすりと笑い、アクリル壁越しの抽出容器を指差す。


「見て下さい、あの桃色の精油。美味しそうな色してますよ!」

「え。普通きれいって思わないか、桜みたいな。……まさか、ずっと色見て食べ物のこと考えてたのか!? お前それでもこの会社の社長令嬢かよ!?」

「自分の感性は大事にするべきです」

「さすがに今その感性出すべきじゃないだろ」


 見学中なので小声でやいのやいの言い合っていたら、ぬっと影が差した。


「花蓮」


 見るとお父様が何やら眉間に少々(しわ)を刻んで、私達を見下ろすようにして立っていた。

 お父様が突然出現してピタッと動きを止める裏エースくんと、何だそんな変な顔してとポケッとする私を交互に見て、その口がゆっくりと開く。


「随分楽しそうだな」

「はい。色んな精油のきれいな色が見られて、とても楽しいです。お父様のアイディアなんですよね? すごいです」

「うむ……」


 ん、どうした?

 今度はちゃんとお父様を褒めたのに、全然得意げな顔にならない。


「その子が柚子島くんかね」

「え?」

「あ、いや俺は」

「いくら仲が良いとは言え、そのように顔を近づけ合って話すのはどうなのだろうか。確かに仲が良いのは良いことだが、それでも男女の節度はしっかりと守らなければ」

「お父様」

「うむ……。確かに、咲子や奏多が気に入るのも頷けるくらいの顔立ちをしているが……。いいかね、君たちはまだ小学生だ。お付き合いをするにはとてもじゃないが、早過ぎると…」

「お父様!!!」


 なんっの話をしているんだこのガリヒョロは!


 またもや目を吊り上げ怒りの呼び掛けをした私に、またもやお父様の額から冷や汗が垂れた。


「見学中なので大きな声で話すわけにはいかないから、顔を近づけていただけです! それにこの子は柚子島くんじゃなくて太刀川くんです! 私のお友達に変なケチつけないで下さい!!」

「ケ、ケチなんてつけていないぞ!?」

「菅山さん! お母様への連絡②です! 行きましょう太刀川くん!」

「お、おう」

「か、花蓮! あっ待て菅山!」


 手を伸ばして止めようとするお父様をかわし、裏エースくんの袖口を引っ張って工場長さんの近くまで行く。後ろの方で菅山さんの、「待ちません」という声が聞こえた。


 プリプリ怒る私に、恐る恐る裏エースくんが話し掛けてくる。


「あの、いいのか親父さん」

「いいんです! まったく、ちゃんと見学していた私達に変なことばっかり言って! ……すみません。お父様が変なことばっかり言って、イヤな思いしましたよね……」

「いや。さすが花蓮の親父さんだなとは思ったけど、イヤな思いなんかしてないぞ。すごく大事にされてるな」


 笑ってそう言う裏エースくんに、ちょっとだけ気持ちが落ち着いた。イヤな思いしてないならいいけど。


 彼からもたっくんと同じく、お父様を褒められて少しムズムズしてしまう。


 家でのお父様しか知らなかったから、こうして仕事ぶりを見てそれを知り、褒められるのは何だかんだ言っても嬉しかった。


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