Episode61-1 初ドッジボール特訓と学校行事
私の浮かれポンチのせいで思わぬ初対面を果たすことになったたっくん、麗花と瑠璃ちゃんだが、とても初対面とは思えないほど仲良くなった。
たっくんは私のお勧め本である『こはるびより』を借り、瑠璃ちゃんは新作お菓子への意見を貰ってホクホク。そして麗花といえば、彼女は何やら気になることを最後に言っていた。
「お友達のことを報告しましたけど、そう言えばお友達(仮)なんてのもできましたの……」
「お友達(仮)? 何その(仮)って」
聞くと、彼女はとても嫌そうな顔をして語り始めた。
「私、前にその子にとてもイヤな思いをさせられて以来、とても苦手ですの。何を考えているのか分かりませんし、顔見知り程度ですのに馴れ馴れしいですし。ふてぶてしくも勝手に私のこと、友達とか言ってきますのよ!? 信じられませんわ!」
「うわー……。で、それなのに何で友達(仮)に?」
「……何か知りませんけど、急に態度を改め出しましたの。真面目な顔で『俺、本気で薔之院さんと友達になりたいし、薔之院さんのこと助けたいって思ってる。だから、お願いだから俺と友達になってよ』って言われた日には、もう仕方がなくなりましたわ。そんなことを言われてしまったら、さすがにお断りできませんもの」
「えっ。俺って、その子も男子なの!?」
「そうですの。でもそう簡単に友達らしくなんてできませんわ。ですから渋々言いましたの。お友達(仮)からお願いしますわって」
語り終えた麗花は、変わらず苦虫を噛み潰したような顔をしている。
あれだけ友達作りを頑張っていた彼女をしても、友達拒否する人物とは。しかも薔之院家のご令嬢に対し、顔見知り程度で馴れ馴れしいとは。
とんだ能天気野郎なのか、それとも大物なのか。
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
と、壁から跳ね返ったボールが顔面に直撃した衝撃で、ふとそんなことを思い出した。
顔から落ちたボールがテンッ、テンッ、テテテンッ……と地面を軽快に跳ねて行く中、日をそう置かずして空気が凍るという体験は中々に珍しいのではないだろうか? ただの現実逃避である。
「だ、大丈夫? 花蓮ちゃん」
隣で同じく跳ね返りボール特訓を行っていたたっくんから、気まずくも心配そうな声を掛けられて、それにニコッと笑って返す。
「大丈夫です。こんなの屁でもありません」
「鼻真っ赤にしといて何言ってんだ。てか初めから強く投げるヤツがあるか! 軽く投げるところから始めろ!」
「すみません」
裏エースくんに怒られ、同じく特訓をしている子に拾ってもらったボールを受け取り、言われた通りに今度は緩く投げる。しかし壁から跳ね返ったボールは何故か私の方ではなく、他の子を見ていた裏エースくんの頭に当たった。
「……わざとかお前」
「違います! 今のは完全なる不可抗力です!」
「ぼ、僕見てたよ! 花蓮ちゃん、ちゃんと壁に投げてたよ!」
疑いの眼差しを向ける裏エースくんに、たっくんから擁護が入って何とか容疑は晴れたものの、私のあまりの下手さに彼は溜息を吐いた。
「本当、サッカー誘ってた時に断ってくれて良かったわ。こんなに運動音痴だと思わなかった」
「う、運動音痴じゃありません! たまたまボールが変な方向に行っただけで」
「自覚しろ。お前は運動音痴だ」
そんなバカな!
こ、この百合宮家の長女たる私が、運動音痴……!?
両手で頬を押さえてふらつく私を見据え、更に裏エースくんは告げる。
「このまま上達しなかったら、今後ボールを使った競技は見学な」
「状況が悪化している!」
そんなバカな! ボールを使わない競技……リレーとか組み体操ぐらいしかなくない!?
「そんなのイヤです! 太刀川先生、どうぞこの私にボール競技の極意を……!」
「やめろ揺するな! 極意なんてものはない。ひたすら練習あるのみだ!」
「分かりました先生!!」
一旦跳ね返りボール特訓は置いて、裏エースくんと緩く投げ合いっこすることに。
……おっ。取れる。取れるぞ!
「先生! 私、ボール取れてます!」
「そりゃ取れるように投げてるからな。これで取れなかったらもうどうしようもない」
そうしてひたすら投げ合いっこし続け、ほんのちょこっとスピードアップも許可された頃、指導者側の西川くんが私達のところへとやってきた。
「そろそろ休憩時間も終わるし、もう上がろうと思うんだけど」
「そうだな。花蓮、明日も俺と今日の続きからな。俺がいいって言うまで壁投げ禁止」
「分かりました先生」
「あ、そういえば今度の社会科見学、百合宮さん家の工場なんですよね?」
「え?」
確かに授業の一環で、今月に社会科見学があるのは知っていたが、それがどこかまではまだ私達生徒は知らない。そしてその見学先が、私の家が所有している工場? 何それ初耳なんだけど。
「場所決まったのか?」
「たまたま五十嵐先生と他のクラスの先生が話してるの聞いてさ」
「いえ、私も知りませんでした」
お父様、今までそんなこと一言も言っていなかったぞ。……あの仕事一環だったお父様のこと。
取りあえず定時に上がって家で共に夕食を摂るくらいには変わったが、そんな人がわざわざ学校の子供たちのために協力を申し出るだろうか?
うーんと首を傾げるが、西川くんはワクワクとした顔で話し出す。
「百合宮さん家のような大きな会社の見学って滅多にないから、俺すごく楽しみです!」
「そう言って頂けて、私も嬉しいです。帰ったら父に聞いてみますね」
はい!と元気に返事をする西川くんへ微笑み、初日のドッジボール特訓を終えた。




