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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode59-2 男の子の友達と女の子の友達

 釣られて笑い返して部屋の中に招くと、麗花にも笑いかけた彼女はたっくんもいることに気づいて、そのクリクリとした瞳を丸くした。


「あら? えっと」

「あの、僕花蓮ちゃんと同じクラスで、柚子島 拓也って言います。今日は花蓮ちゃんから本を貸してもらうために、お呼ばれしていて」

「え、花蓮ちゃんのあのお友達の? 初めまして、私は米河原 瑠璃子です」


 麗花と話している内に緊張もやわらいだたっくんが自ら自己紹介をして、瑠璃ちゃんも紹介を返すと、またもや彼はポカンと口を開けた。


「……米河原。今や食品製造業界で敵なしのところ……」

「いえそんな。花蓮ちゃんや麗花ちゃんの家と比べたら、私の家なんてまだまだです」

「比べる次元がもう何て言うか……。僕ついていけない……」


 がっくりと肩を落とすたっくんにヨシヨシと頭を撫でれば、どんよりとした視線が返ってくる。


「本当にどうして忘れたの……。僕なんてただの本屋の息子なのに……。というかこんなすごい家の子たちと友達なのに、何で僕も花蓮ちゃんの友達なの……?」


 何やら不穏なことを言い始めたたっくんに慌てて弁解する。


「麗花と瑠璃ちゃんは女の子です! 拓也くんは男の子ですよ!」

「何なのその原始的な分け方! 花蓮ちゃんの認識って一体どうなってるの!?」

「出ましたわ花蓮(ぶし)が。ほら、瑠璃子はこちらに座って」

「うん。ふふ、花蓮ちゃん相変わらずだね」


 私がたっくんをなだめている間、他二人はほのぼのと、そんな私達の様子を苦笑して見守っていた。

 そして何とか宥めることに成功したタイミングで、麗花がたっくんに話し掛ける。


「でも花蓮が学校でお友達になった子とは、私もいつかお会いしたいと思っておりましたから。逆に今日お会いできて良かったと思いますわ。学校での花蓮のこと、よく知りたいですもの」

「私も! 花蓮ちゃん、柚子島くんのことをよく話しているから、本人に会えて嬉しいわ」


 麗花に言われてちょっと照れたものの、その次の瑠璃ちゃんの言葉に何故かたっくんの頬が引きつった。


 そして恐る恐るというように彼女達に聞く。


「そう言えば、花蓮ちゃんのあのお友達の?って言ってましたよね? 花蓮ちゃん、僕のこと何か話してるんですか?」

「そうですわね。学校の話では、たいてい貴方がどうしたとかこうしたとか。中庭にいたバッタに驚いた顔が可愛かった、算数が解けなくて困っている顔が可愛い、トランプのビリ争いに勝った時の嬉しそうな仕草と顔が可愛かった、とかよく言ってますわ。トランプに関しては自分が負けてるくせに、何言ってるんですのと思いましたけど」

「髪の毛の天使の輪キューティクル好き、頭の触り心地よくて好き、手をよく繋いでくれるの好きっていうのも言っていましたよ? 柚子島くんのこと大好きだなぁって、ちょっと妬けちゃうくらい」

「本当ですわよ。『聞いて下さい! 柚子島くん……あぁもう拓也くんって呼んでるんですけど、拓也くんが私のこと花蓮ちゃんって、遂に呼んで下さりました! 今日という日は、花蓮ちゃん記念日と名付けましょう!!』って、私がお友達もできないのを忘れて電話してきた日は、本当にどうしてやろうかと思いましたわ」

「あぁ。だから花蓮ちゃん、嬉しそうだったのにちょっとへこんでたんだ。『未だお友達もできない麗花さんには悪いことしました……』って、あれもう麗花ちゃんに怒られた後だったのね」

「……花蓮?」


 麗花からニコッと薄ら寒い笑顔を向けられるが、それよりも私は話を聞く内に頭が下がって、今やどんな表情をしているのか不明なたっくんの方が気になる。


 な、何かおどろおどろしいオーラが立ち上っているような……?


「花蓮ちゃん」


 固く平淡な声が私を呼ぶ。

 今まで聞いたことのないたっくんのその声に、自然と背筋が伸びた。


「はい」

「僕のこと、大事な友達って思ってくれるの、すごく嬉しいよ? でもね、それ色んな人に言いふらすのってどうかと思う」

「あの、不特定多数に言ってませんよ? 麗花と瑠璃ちゃん、あとは私の家族くらいで」

「ちょっと黙ってくれる?」

「はい」


 私の危機管理能力が告げる。今、彼に逆らってはならないと。

 すぐさまお口チャックする。


「今まで言いたいこと遠慮してた僕って、何なんだろう。前に教室の中心で叫べるとか言ってたの、冗談って思ったのに遠足で僕のこと、新くんとす……好き、とか言い争ってたし。僕、あの時皆の前で言われてすごく恥ずかしくて、あれがピークだって思ってたのに。まさかそれを越えてくるなんて、やっぱり花蓮ちゃんすごい」

「……」

「僕、可愛いしか言われてない。新くんには格好良いって言ってたのに」

「いえ、可愛いだけじゃなくて、魅力的とか素敵だとも言ってます!」

「黙って」

「はい」


 たまらず否定すれば、即閉口(へいこう)命令が飛んできた。

 再びお口チャックする。


「本当に最初は次元の違うお嬢さまって、思ってたんだよ。百合宮家ってとんでもなく由緒あるお家で、初めて花蓮ちゃん見た時、雰囲気とか全然他の子と違って本物のご令嬢だ!って。話し掛けられた時もどこか浮世離れしていて、何かちょっとした圧も感じたし。何でこんな本物のお嬢さまが、僕に話し掛けてくるんだろうって自信なくて。そうしてたら新くんと仲良くなれて、下坂くんと西川くんとも仲直りして友達になれて。あんなに緊張してた花蓮ちゃんとも、一緒にいるのが普通になってきて。僕、花蓮ちゃんにはすごく感謝してるんだ」


 語られる私への気持ちを静かに聞く。

 感謝していると口にされて一気に瞳が輝くも、「ただね、」と続く言葉でようやくたっくんが顔を上げて私を見たその表情に、ハッと固まった。


 固まってそして、私の中の閉口命令が木っ端微塵に吹っ飛んだ。


「こと「かっ、可愛いいぃぃ!!」…………」


 衝動的に叫んだ後、その場がシーンと静まり返った。


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