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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode57-1 そこに至る回想の始まり

「誰ですの」

「え、えっと……?」


 タラーと、冷や汗が一筋ひとすじ頬を流れた。

 上記の台詞に私の発した言葉はない。


 この場にいるのは私含め、三人いる。ちなみに現場は私の部屋。

 私は部屋の中ではなく、慌てて登ってきた階段からそれを目撃している形になる。


 やっちまった……!!


 ヒクッと上げた口角こうかくが引きつった。


 これは誰のせいか。

 もちろん浮かれポンチの私のせいである。



 事案じあん発生に至る、本日の二時限終了後から現在までの回想――……。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 二時限目の授業を終えて、十分後に始まる授業のための教材を準備していると、前の席のたっくんが振り返った。


「花蓮ちゃん、次って算数だっけ?」

「そうですよ。その次は体育です」

「体育かぁ。ドッジボールだよね。僕、イヤだなぁ」


 憂鬱ゆううつそうな顔をするたっくんに苦笑する。


「拓也くん運動苦手ですものね。大丈夫です。私が拓也くんをボールから守ってあげます!」

「だっ、ダメだよ! 僕が花蓮ちゃんを守るよ!」

「俺が二人とも守ってやるから心配すんな」


 力強く宣言する私に慌ててたっくんが守ってくれると言ってくれるが、更にその上位宣言が後ろから飛んできた。見ると、何か本を持った裏エースくんがこちらへと近づいてくる。


 そして私達の傍まで来ると、持っていた本をたっくんへと差し出した。


「サンキュ、拓也。これ意外と面白かった」

「良かった。読むの早かったね」

「続き気になって、ページめくるの止まらなかったからなー」


 そのやり取りに私の目がキュッと吊り上がる。


「何ですか」

「あ、これね。『コージーとてっちゃんの金策術』っていう本で、本書いている人がドクドクローの人と一緒なんだ。その人の新作本ですごく面白くて」

「……太刀川くん! 貴方、また抜け駆けしましたね!?」


 キッと裏エースくんを睨みつければ、ニヤリとした笑みを返された。


「えー花蓮まだだったのかよ? いやー悪いなー」

「その顔全然悪いと思っていません! そうやってすぐ抜け駆けするくせ何なんですか!? スケコマシ!」

「スケコマシ定着するだろうが! やめろ!」

「抜け駆けって、癖って言うの? 花蓮ちゃん、貸してあげるから落ち着いて」


 睨み合う私達を苦笑してたっくんが間に入るが、私はたっくんにもジトっとした目を向ける。


「イヤです」

「え?」

「お借りしたいのは山々ですが、太刀川くんのすぐ後なのはしゃくです。ですので、他のお勧めの本をお借りしたいです。抜け駆け反対!」


 両頬をプックーと膨らませてたっくんを見つめる。

 頬を掻きながら悩む素振りを見せた彼は少しして、「それじゃ、」と言葉を発して。


「僕も、花蓮ちゃんからお勧めの本借りてもいい?」

「へ?」


 思わぬ提案に目を丸くすると、クスッと笑われた。


「だって僕が新くんに貸したのが抜け駆けなら、僕が花蓮ちゃんから借りておあいこでしょ? 僕、誰かから本借りたことないから」


 何と。それじゃあ、たっくんの本初借りはこの私……!?


 パァッと顔を輝かせ、コクコクと大きく頷く。


「いいです! 分かりました。百合宮家の長女たるこの私の名誉にかけて、拓也くんが大満足する本を必ずやお勧めしてみせましょう……!」

「え。あの、別にそこまで頑張らなくていいよ」

「いいえ。本屋のご子息である拓也くんは今まで沢山の本、色々なジャンルを読破されている筈です。生半可な本などお勧めできません」

「好きな本。花蓮ちゃんの好きな本でいいからね。僕、花蓮ちゃんの好きなもの知りたいな」

「拓也くん!」


 と、裏エースくんが近づきたっくんに耳打ちする。


「お前、花蓮の扱い方うまくなったな」

「花蓮ちゃんにははっきり言わなきゃ、うまく伝わらないって分かったから」


 ニコッと裏エースくんに微笑みを向けるたっくん、可愛い。

 ポヤ~とだらしない顔でたっくんを見つめていると、ピンっと裏エースくんにデコピンされた。痛い!


「何するんですか!」

「そういやさっき体育の話してたろ? お前、前みたいにボールの前に飛び出すなよ」

「え? 別に考えなく飛び出したわけじゃありませんよ? あのままだったら木下さんに直撃するから、代わりに近くにいた私が華麗に取ろうとしただけで」

「それで華麗に顔面に直撃して一瞬でクラスの空気凍ったの、忘れたとは言わせないぞ」


 あ~……。そう言えばそうだったような……。

 ボールが顔に当たったくらいで皆大げさなんだよね。ボール投げた子は青褪めて土下座かますし、他の子は担架たんか! 担架!って大騒ぎするし。


「全治二週間に比べたらかすり傷一つなかったんですから、良かったじゃないですか。顔面ボール取りはドッジボールの醍醐味だいごみですよ」

「そんな醍醐味あってたまるか。とにかく、花蓮はボールの前に出るな。お前も拓也も俺が守る!」


 そう言って私達に宣言した裏エースくんだったが、いざその時になってみると、彼は私達とは別チームで敵になった。


 そしてさすがに運動神経が良い。裏切り者である彼はどんどんこちらの人数を減らし、味方である相田さんも奮闘ふんとうしてお互い順調に減らしていったが、私は面白くなかった。


 何が面白くないって、全然ボールが私の方に来ない。完全に避けられている。最早腕を組んで仁王立におうだちしても、誰も当てやがりゃしない。


 ちなみにたっくんは始まって早々、流れ弾に当たって外野にいる。

 もうこうなったら、自分で取りに行くしか参加する道はない……!


 そう思い投げられそうな子の近くへ行くと、さっきまでは当てにいきそうだったのに外野へパスされた。


 ちょっと!?

 何で投げてくれないの!?


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