Episode56-2 ケンカの真相と仲直り
えぇっ、と驚く私とは対照的に、指摘されたたっくんは拗ねたように口をへの字に曲げた。
「別にそんなこと、ないけど……。花蓮ちゃんが皆から良く思われるの、僕だって嬉しいし。花蓮ちゃんに友達ができるの、良かったなって思ってるし。……ただ、それで僕と話すのも少なくなるのかなって思ったら、すごくイヤだっただけで……」
「ほら気に食わないじゃん」
「……新くんは人気者だし花蓮ちゃんは明るくて可愛くて、あんな噂がなかったら、皆友達になりたいって思うよ。ファンレターってそんなの、今更何なの。皆、僕から花蓮ちゃん取るような、そんなことしないでよ。新くんだって、たくさん花蓮ちゃんから良いところいっぱい言われてて、さっきだって好きって言われてたじゃないか! ずるいよ!」
「はぁ!?」
裏エースくんが素っ頓狂な声を上げるが、私はたっくんを見つめたままドキドキと胸を高鳴らす。
つまり、たっくんは私をその他大勢に取られるのがイヤで、ファンレターにも嫉妬をしていたってことで。たっくんが私のこと、大好き過ぎる……!!!
「ばっ! あんなん、お前が話し掛けてくるまでの振りっつーか」
振り?
ふと耳に飛び込んできた言葉を疑問に思い、何かワタワタしている裏エースくんを見つめる。
「振りって何ですか?」
「は? え、振りだろ?」
「……拓也くん、ちょっと」
席を立ち、たっくんの袖を引いて裏エースくんから距離をとる。
「花蓮ちゃん?」
「拓也くん。太刀川くんは激鈍チン野郎です」
「げき……!?」
「信じられません。激鈍チン野郎、この私の言ったことをうそだと言いやがりました。私と拓也くんがどうして激鈍チン野郎にあんなにも嫉妬したのか、根本的なところを理解していないからあんなことが言えるんです!」
「根本的? ……あ、何となく言いたいこと分かるかも」
「理解してくれる拓也くん大好きです!」
と、そこで二人同時に裏エースくんへ顔を向ける。
向けられた当人はいきなり仲間外れにされたせいか仏頂面をしているものの、いつものように私達の間に入るようなことなく、席に座ったままだ。
「激鈍チン野郎、らしくもなく遠慮してますよ」
「……花蓮ちゃんは、僕も、新くんも好き?」
「もちろん! あ、ファンレター頂いても拓也くんとの友情は変わりませんよ!」
ニコッと即答して答えたら、少しの間を置いてたっくんも笑顔になった。
「「太刀川くん!/新くん!」」
「な、何だよ」
「立って。ほら鞄も!」
「下坂くん西川くん、ご協力ありがとうございました。二人も帰りましょう? 長い間お待たせしてすみません」
「いえ、柚子島と仲直りできて良かったっス!」
「昼休憩の時アイツすごく二人のこと気にしてたくせに、意地張って全然動かなかったからな~」
ずっと様子を見守っていてくれた二人に駆け寄ってお礼を言えば、苦笑して西川くんが密告した。裏エースくんの方もたっくんが腕を引っ張って、廊下へと連れ出している。
私も自分の席から鞄を手に取り、先に出た彼等を追って――――勢いよく裏エースくんの腕にしがみつく。
「うわっ! え、花蓮!?」
「何ですか」
「何ですかってお前、なに……拓也!?」
「なに、新くん」
私がしがみついた反対側の腕に、たっくんもしがみつく。その並びはたっくん、珍しくキョドる裏エースくん、私という順番。
「何だよお前ら! 普通、拓也真ん中で俺と花蓮が端だろうが!」
語気強めに言われるが、しがみつく私達は素知らぬ顔をする。たっくんに至っては、「何で? ダメなの?」とか彼にしては意地の悪い質問を返し、それにまごついた裏エースくんに更に私は止めを刺してやろうと追撃した。
「ダメなんて言いませんよね~? 太刀川くん、私達のことだ~~い好きですもんね~? はい、シャラップ!」
すぐさま反論しよう(断定)と口を開こうとしたそれに、先制攻撃をかます。
ふん、私からの好意は何か知らないけど悉く反論されているからね。君の行動はお見通しだよ!
「先程は私のことをポンコツとか言ってくれやがりましたが、貴方だって自分のことに関してはポンコツじゃないですか。何で私達がお互いに、太刀川くんに嫉妬したと思っているんです」
「……そりゃ、俺の方が仲が良いって思われていたからで」
「何でそこまで分かっていて解らないんですか、バカ太刀川くん。私も拓也くんも、自分よりも太刀川くんと仲が良いと感じたんです。つまり拓也くんは太刀川くんと、私は太刀川くんと本当に仲良くないと、お互いそう見える筈がないんですよ」
そこまで言ってハッとした顔をする彼。
「私と拓也くんが話していると、間に入ってくる寂しがり屋の太刀川くん。拓也くんの好意は素直に受けるくせに、私の好意はハネるとかどういうことですか。私も拓也くんも、貴方と仲良しです。振りじゃありませんよ。私は太刀川くんが好きです! 大事なお友達です! 今度私の貴方に対する好きの気持ちを振りとか言ったら、はっ倒しますからね!!」
「……はい」
ポッカーンとする顔から気の抜けた返事が出たが、まぁ許す。
たっくんからは「ふふふっ」と堪え切れない笑い声が漏れているが、可愛いのでもっと聞かせてほしい。
「僕、新くん好きだよ!」
「私も太刀川くん好きです!」
「~~~~っ、だーーっ!! いい加減にしろお前ら!!」
「太刀川うるさいぞー。俺も太刀川好きだぞー」
「俺も好きー」
「下坂!! 西川!!」
私達三人の後ろから男子二人の好き好き攻撃も加わり、最早顔を茹でダコのように真っ赤っかにした裏エースくんは怒鳴りながらも、しがみつかれた腕を振り払おうとはしなかった。
そのまま五人で廊下を歩いている中で私はふと思い出し、堪らず笑顔がこぼれる。
「花蓮ちゃん?」
「花蓮?」
「私達、前もこうして帰りましたよね。並び方も一緒です。何か、前と同じことしてるって思ったらおかしくて。変わってませんね私達」
「……そんなことないだろ」
呟かれた言葉に隣を見ると、顔の赤さは変わらないものの、柔らかな笑みを浮かべていた。
それはいつも見るニカッと笑う彼らしい笑みではなく、どこか落ち着いた笑い方で。
「あの時は始まったばっかりだったろ。今じゃこんな、好きとか言えるような関係になってる。進歩してんだろ、俺達」
何だかそんな笑い方を彼がするのは意外な気がして、思わずその顔を見つめてしまう。返答もせず見入っていたら、ふとパチッと視線が合った。
「どうした?」
「ハッ! な、何でもありません! 進歩、そう進歩しています! このまま下駄箱まで前進です!!」
「さすがに階段は危なくないか」
冷静な突っ込みが入るものの、何だかやけに顔周りが暑い気がしてサッと手で髪を払う……あっ!
「髪! ちょっと、このまま外に出たら大変じゃないですか! 本当に何てことしてくれたんです! 百合宮の令嬢が髪の毛鳥の巣なんて……!!」
「あっ。悪い」
大惨事になっている髪の毛の存在を思い出した私はその後自身の手櫛に加え、たっくんも手伝ってくれたおかげで何とか見れる状態にまで回復し、他の子に見られて不名誉な印象を与えることを阻止できた。
プンと頬を膨らませる私とおかしそうに笑う裏エースくん、そんな私達を見て苦笑するたっくんと、後ろでコソコソ話し合っている下坂くん西川くん。
揃って歩く私達五人の賑やかな話し声は、校門を出てすぐのスクールバス停まで続くのだった。




