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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode55-2 勝負の放課後

 硬い声にハッと見れば、眉間にグッと皺を寄せたたっくんが近くに立っていた。


 たっ、たっ、たっくんが話し掛けてきた!


 今すぐにでも要望に答えようと口を開こうとしたところで、裏エースくんの言葉が脳裏を過ぎる。



『昼休憩の時にも言ったけど、話し掛けてきても今まで気にしてたような素振りは見せるなよ。そっからの話も俺がリードするから、うまく合わせろ』



 裏エースくんの言う通りに仲良く(?)していたから話し掛けて来てくれたのだから、言う通りにしないと……!


 すぐにでもその手を握って許しをいたいのをグッと押さえ、令嬢の威厳を以って取り澄ます……も、とあることに気づく。


 令嬢然としても頭が鳥の巣じゃん!

 格好つかないよ!


 内心アワワと慌て、初動しょどうはどうするのかと裏エースくんを見れば、一体どうしたのか、彼は呆気にとられたようにたっくんを見つめていた。


 ……ちょっと!? 俺がリードしてくれるんじゃなかったの!?


「花蓮ちゃんの髪、こんなにして。女の子の髪ぐしゃぐしゃにしたらダメだよ」


 私と裏エースくんが何も言わないせいで、たっくんが続けて話し掛けてくる。それでも私に向けての言葉じゃなく裏エースくんに向けての注意なので、実質話し掛けられていない状況は変わらない。泣きそう。


「……いや、花蓮にしかしないし」


 ボソッと呟かれたそれに、更にたっくんの眉間に皺が寄る。


 しかしそれから二人の間で会話が発生せず、未だ鳥の巣頭のまま令嬢然とするしかない私はそっと影の協力者へと視線を向けると、彼等は昼休憩と同じようにグッと拳を握って応援してきた。どう頑張れと。


 ……ええいっ、何か喋らないと進まないでしょうが!


 意を決し、たっくんへ顔を向けて微笑む。


「心配してくれてありがとうございます、拓也くん。ひどいですよね。私の頭、鳥の巣にされてしまいました」

「……」

「太刀川くん。こんなにされたらくしもないのに、戻すの大変なんですよ」

「……」

「スキンシップ。スキンシップなんです」

「「…………」」


 おいいいいぃぃぃっ!

 二人して無視しないでよおおおぉぉぉ!!


 何で!? 私とたっくんの仲違いだったよね!?

 何でこの二人の間でもちょっとおかしいことになってるの!


 初めから瀕死(ひんし)状態で、更に思い出しダメージまで受けた上でなけなしの勇気を振りしぼって喋ったのにシカトされて、もう限界がきそうだ。


 端微塵粉ぱみじんこになりそうな令嬢の仮面を、必死に維持していると。


「てゆーか、何で拓也が注意してくるわけ? 花蓮だってスキンシップって言っただろ。いつもと変わらない、俺らのスキンシップ」


 どこか挑発の気配がにじんだ裏エースくんのその言葉に、内心驚く。

 彼がたっくんにこんな言い方をするなんて。


 そして対するたっくんの次の発言にも、私は驚きと動揺を覚える。


「今までそんなスキンシップしてるの見たことないけど。それに今日、ずっと距離近いよね。いくら新くんが社交的でも、さすがに近過ぎだと思うけど」

「そうか? いつもと変わらないだろ。普通だって。普通」

「お昼休憩の時だって、ずっと一緒だった」

「それこそいつもじゃん。……あぁ、そういや拓也はいなかったよな。来いって言ったのに、来なかったのは拓也だろ」

「っ。でも、戻ってきてからも離れなかったでしょ! 新くん、いつもは他の子とも話したりするのに!」


 たっくんが、裏エースくんに向かってどんどん言いたいことを遠慮なく言っている。

 おかしい。彼の相談案件では、『新くんに言いたいこと言えてていいなぁ』だった筈。


 これに関しては裏エースくんも首を傾げていたが、今のやり取りを目にして更に訳が分からなくなる。どう見てもたっくんは遠慮なんてしていない。じゃあ何であんなことを…………まさか!


「いつもはな。でも今日は花蓮、すごく落ち込んでたし。何とかしてやりたいって思うだろ。ま、それで俺らかなり仲良くなったけど」

「新くんにとっては、他の子でも何とかしてあげたいって思うでしょ。そう思うの、花蓮ちゃんだけじゃないよね。前にも新くん言ったじゃないか。友達に優劣つけれないって!」

「っ! 言ったけど、じゃあ今は違うって言ったらどうするんだよ!!」


 ハッとして固まるたっくんに、裏エースくんが畳み掛ける。


「ずっと変わらない筈ないだろ。拓也、お前だってそうだろ! だから花蓮に八つ当たりしたんじゃないのか!?」

「あ……」

「遠慮なく言いたいことを言いたいの、俺じゃなくて本当は」

「もう止めて下さいっ……!!!」


 悲痛な叫びに、二人の言い争いがピタリと止む。

 ゆっくりと、静かに二人の顔を見つめる。


 そして彼等は同時にえっ、と言葉にならずとも、表情を驚愕の色に染めた。


「もう、もういいです。私に八つ当たりって言われて、確信しました」

「花蓮」


 心配を乗せて掛けられる言葉にフルフルと首を振り、ポタッと我慢しきれなかった涙がまなじりからこぼれ落ちた。


「花蓮ちゃん」

「拓也くん……っ」


 今まで無視していたのに話し掛けてくれて、やっぱり優しいなぁって思う。だからこそ。


「ごめんなさいっ、拓也くん。今まで、気づかなくて。私……、私っ」


 ひくっとのどの震えを抑え、言葉を絞り出す。


「拓也くんは太刀川くんともっと仲良くなりたいのに、私がずっと邪魔をしていたって、気づかなくて……!!」


「「え」」


「私、今までずっと拓也くんと教室に入ってから帰るまで、一緒にいました……! 太刀川くんが拓也くんに話し掛けてきても、ずっと私が傍にいました。ふ、二人で話したいこともあったでしょうに、私、太刀川くんに拓也くんを取られるのがイヤで、片時も離れませんでした! まさか、拓也くんに邪魔に思われていたなんて……!!」


 私がずっと傍にいたから、言いたいことも言えないで。今は我慢が限界突破して、私がいても遠慮することなく言えたんだと分かる。


「それなのに、太刀川くんと仲良くしたいのに、私が太刀川くんを独占してっ。拓也くんが、太刀川くんだ、大好きなのに、私、今度は太刀川くんとずっと一緒で、ごめんなさい! だから、だからっ、貴方が大好きな太刀川くんにもう八つ当たりしないで下さい! 二人がケンカしないでっ……」


 嫉妬されているなんて思わなかった。

 いつも、いつも優しくて、一緒にいることが本当に好きだったから。


 ポロポロと涙が落ちて、裏エースくんの机を濡らしていく。


 こ、これも、嫉妬の対象になるのかな……?


「あーあ。泣ーかした泣ーかした。本当のことはっきり言わない拓也のせいで、泣ーかした」

「うっ」

「ファンレターを抗議文だの自分を役立たずだの言う思考回路のヤツが、そのまま素直に正解に辿り着くわけないだろ。お前の負けだ、拓也」

「……うん」


 ……?


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