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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode55-1 勝負の放課後

 待ちに待っていたような、いないような微妙な心境でやってきた、決戦の放課後。

 鞄を手にして教室を出ようとしていたたっくんを下坂くんと西川くんが会話で引き留めている間、私は裏エースくんに呼ばれて彼の席へとせ参じている。


「あの、いやに男子のチームワークがいいんですけど……」

「掃除の時に、拓也が行動起こすまで引き止めろって言ったからな。で、だ」


 裏エースくんの前の子の席を借りて座ったのを見計らい、彼がずいっと前のめりに座ったまま私との距離を縮めてきた。


「拓也が花蓮か俺に話し掛けてくるまで、俺らはメッチャ仲良くするぞ!」

「メッチャ仲良く」

「そう。昼休憩の時にも言ったけど、話し掛けてきても今まで気にしてたような素振りは見せるなよ。そっからの話も俺がリードするから、うまく合わせろ」

「わ、分かりました」


 メッチャ仲良く、というのがイマイチ具体的でないためどうすればいいのか分からないが、取りあえず裏エースくんに合わせるということでいいのだろう。

 さっそく真似してずいっと顔を近づけてみたがしかし、「バカ近いっ!」と逆にけ反られて離れて行ってしまった。


 何故怒られた。解せぬ。


「どうしてですか。貴方が近づいたから、同じことしましたのに」

「……あー。そういうことじゃなくてだな。ほら、いつも花蓮が拓也と話すような感じで、俺とも喋ってみろ」

「えー、拓也くんと話すような感じですか?」

「えーってお前な。普段の俺とだと絶対に拓也反応しないからな」


 マジでか。裏エースくんにたっくんの時と同じ感じで話すの、何か恥ずかしいんだけど。


「えっと、き、昨日は良いお天気でしたね」

「会話下手くそか。絶対天気の話しないだろ。んー、じゃ拓也の好きなところ十個は?」

「優しいところ。笑うと可愛いところ。髪の毛ツヤツヤなところ。頭の触り心地がいいところ。ドクドクロー好きなこと。手を繋いでくれるところ。物知りなところ。ここぞという時に諦めないところ。素直なところ。ちゃんと気持ちをはっきり伝えられるとこ、ろ……」


 言ってズウウゥンっと裏エースくんの机に顔を伏せた私の頭上から、呆れた声が降る。


「……すっげーキラキラした目で嬉しそうにスラスラ言ってたのに、最後何で沈むんだよ」


 だって、だって……っ。


「嫌いって、はっきり、言われたの、思い出しました……っ! うぅっ」

「思い出しダメージやめろよ。あー、ほらいい子いい子」


 伏せた頭にポンポンと手が軽く乗り、そこからナデナデと撫でられる。


 何かすごい子供扱いされている。……百合宮の令嬢である私にこんなことができるの、裏エースくんくらいだな。


 頭を起こす気にもならなくて、暫くそのままされるがままでいたら、今度は戸惑うような声が降って来た。


「花蓮? 起きてるか?」

「何ですか」

「何ですかって。だってこういう時にお前、『令嬢の髪に勝手に触れるとは言語道断! 恥を知りなさい!』とか言って跳ねのけそうだし」


 言わないけど。

 それ言いそうなの、髪型縦ロールの麗花だけど。


「ふふっ。もう、想像しちゃったじゃないですか! ふふふ!」

「なに想像したか知らないけど、楽しそうで何より。……回復したか?」


 どことなく柔らかい声に、伏せて視界が暗いこともあって、クラスの男の子に頭を撫でられている状況でも恥ずかしいという気持ちは湧かない。

 それよりも、久しぶりに頭を撫でられる心地良さの方が圧倒的に強かった。頭を横に傾け、瞬間離れそうだった手をはしっと掴む。


「もうちょっと」

「……」


 再度頭に戻されて撫でてくる手に、嬉しくなって小さく笑う。


 お兄様に撫でられるのは可愛がられてるって感じで好きだけど、裏エースくんに撫でられるのも落ち着く。いつも、すぐに気づかないところで助けてくれてるもんなぁ。


「太刀川くんも、優しいです」

「!」

「全部受け止めてくれるから、何でも言ってしまいます」

「……」

「言い過ぎちゃうこともあるかもしれませんが、許して下さい。それは私が甘えてる証拠です」

「……へぇー」


 返事の単調さを疑問に思うこともなく、“甘やかされている”ことが嬉しくて、ニコニコと笑みが溢れる。



 たっくんにいつも見せている笑みを、裏エースくん自身に向けられたのは彼にとって初めてのことであることに気づかない。

 ついでに所作に関しては令嬢然としている彼女が、楽しげに足をプラプラと揺らし始めていることにも彼女自身、気づいていない。


 更に言えば、忘れてはいけないのだがここは教室。

 たっくんや下坂くん、西川くんもある意味彼女のためにまだ居残っているという状態。


 いつになく彼女が素直になり過ぎている、そんな中で。



「好きです、太刀川くん」



 ――友達として



 手が止まるのと、教室がシン……と静まり返るのは同時だった。


 撫でる手の動きが急に止まったことを疑問に思い、そのまま目線を上げるように顔の向きを変えると――――昼休憩の時の赤い耳よりも、顔を真っ赤に染め上げた裏エースくんと目が合った。


「え」


 何で。すごい、顔真っ赤……。


「え、じゃないだろ。お前……こっち見んな! なに不思議そうな顔してんだバカ! 自分が何て言ったか覚えてないだろ、その顔!!」

「太刀川くんが好きって言いました」

「おまっ……! 不思議そうな顔しながら言うな! こうしてやる!!」

「わわっ。ちょ、何するんですか!」


 頭の上にあった手がいきなり髪をグシャグシャに掻きまわし始め、慌てて身を起こしてその暴挙から逃れる。


 あぁっ、私の艶々でフワフワな髪が鳥の巣に!!


 手櫛てぐしで一生懸命戻そうと頑張るも、あちこち絡まってほどけない箇所がいくつかあり、大惨事である。


「乙女の髪に何てことするんですか! 好きって言っただけなのに!」

「お前もう喋るな!!」


 怒鳴らなくてもいいじゃん!

 何で怒られてるわけ!?


 プウ~と頬を膨らませてプンプンしていたら、フッと影がかかった。


「何してるの」


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