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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode54-2 裏エースくんによる作戦

 『はらぺこ〇虫』は最後には蝶々になるけど、授業ではまだそこまでいっていないから、生物だと断言できる。だとしたら!


「これは生物のノートですよね。生き物の進化と成長のことで、このページは青虫からさなぎへ。そして蝶々へと変化していく詳細が書かれています。合っていますか?」


 にこやかに問い掛けると、相田さんはパァッと顔を輝かせ、木下さんの目がキラキラと輝いた。


「合ってるよ! 太刀川くん、百合宮さんは私の字読めたわよ!」

「すごい、百合宮さん! あの翠ちゃんの字が一度で読めるなんて……!」


 相田さんがドヤ顔で裏エースくんにかます横で、木下さんが嬉しそうに相田さんの字に対してえげつない評価を口にする。

 裏エースくんはすごく何か言いたそうな目で私を見てくるが、それにニコリと笑って返す。何か?


「あー……分かった。俺の負け。女子の書く文字は全部可愛い可愛い」


 苦笑してそう負けを認める裏エースくんの態度に相田さんも満足したらしく、うんうんと頷いている。


 突っ込んで、「じゃあここは何て書いてあるんだよ?」とか聞く選択を取らない裏エースくんは、本当に格好良い。三日に一回下駄箱にラブレターが入るのも納得。


 ラブレター、そうラブレター。


「太刀川くん。そういえば貰ったラブレターって、どうしているんですか?」

「……はっ? え、何だよ急に!」


 聞いた途端、ガタッと後ろの席にぶつかる裏エースくん。


「いえ、私も沢山ファンレター頂いたじゃないですか。まだ全部は読めていないのですが、その後はどうしようかと思いまして。ずっと部屋に保管してもいいのですが、それも気恥ずかしいというか。今日も何通か頂いておりますし。そこらへん、家での管理のことを種類は違いますが、手紙貰いの先輩である太刀川くんにお聞きしたくて」

「本当に急過ぎるし突然言うのやめろよ! びっくりするだろ!」

「はぁ。すみません」


 何で怒られたのか納得がいかないが、一応謝る。


「へぇー。やっぱりそういうの貰ってるんだ。まぁ太刀川くんだからあんまり驚かないけど」

「俺だから? 何でだよ」


 怪訝そうな顔をする裏エースくんに、女子三人で顔を見合わせた。


「え、なに自覚ないの? ちゃんとラブレターの中身読んだ?」

「クラスの子、太刀川くん見てる子多いのに」

「私がさっき言ったことを理解していませんね?」

「ちょ、待てって! 読んでるし、何か見られてんなとは思ってるけど、てか花蓮の言ったことってどれのことだよ!?」


 私達から口々に言われても順に返すのは、さすがの対応力である


 私の場合はたっくんと仲違いした理由のことだよ! 言ったじゃん、私が裏エースくんに嫉妬したからだって。女子ばかりか男子にもモテるって何なの!? また妖怪嫉妬女化しそうなんだけど!


「いいですか太刀川くん。貴方は顔も整って格好良いですが、性格も格好良いんです。誰にも分けへだてなく接し、明るくて運動も得意。正義感も強い。入学してから一ヵ月と半月経ちますが、既にクラスの人気者です。これで貴方のことを好きにならない女子がいますか!」

「おまっ、ちょ、やめろ! てかいるだろ、目の前に三人!」

「私が貴方の下駄箱にラブレターを入れられている場面に遭遇した中には、他のクラスの子もいます。自分のクラスだけじゃなく、他クラスの女子までその気にさせるスケコ……モテぶり。そして女子のみならず、過去には男子までが貴方を取り合うという始末。ここまで言ってモテる理由が分からないとか、まだ言う気ですか!」

「何でお前が怒ってんだよ!?」


 怒るよ! どんだけ自分のモテぶりに鈍チンなのさ!! あれだけラブレター貰っておいて! たっくんに新くん新くん言われておいて!!


 悔しいと羨ましいがゴッチャゴチャだよ!


「もう、何で私がここまで言わないといけないんですか!? 自分の持つ魅力をちゃんと分かって下さい! さっきだって私のことをすごく気遣って下さって、そういうところなんです! だから私は…」


 キノコ女になる羽目になった、そう言おうとして前からガタッと大きな音が鳴った。普通に立つにしてはいささか大きな音だったので、思わず口をつぐんでしまう。


 恐る恐る様子を窺うようにして視線を向けると、たっくんは――――思いっきりこちらを睨んでいた。


「っ!!」


 思わず手を伸ばそうと持ち上げる前に顔を逸らされ、足早に教室から出て行ってしまう。

 それを呆然と見送り、伸ばされる筈だったその手は力なく膝の上へと戻る。


「~~~~太刀川くっ、……どうしたんですか?」


 言う通りにしたのに睨まれたぞ! どうしてくれるんだ!とクレームを入れようと振り向けば、何故か彼は片手で顔を覆って項垂れていた。


 しかもその両耳は真っ赤である。


「あれだけ言われたら、そうなると思う……」

「というか、言った百合宮さんも百合宮さんじゃない? 絶対ブーメランだよね」


 木下さんと相田さんがコソコソと何か言っている。

 なに? 何なの?


「だーーーーっ! 席戻れお前ら! 散れ!! あっち行け!!」


 シッシッ!と勢いよく手を振って裏エースくんが相田さんと木下さんを追い払い始め、彼女たちは苦笑して、「じゃあ戻るねー」と言いながら離れて行った。


 そして今度は赤い顔でギッと私を睨みつける。


「本当にお前……っ。お前だってそういうところだぞ!?」


 何が!?


 チンプンカンプンと疑問符を頭上に飛ばせば、はぁーーっと、とても大きくて深い溜息が吐き出された。


「……まぁ、拓也のあの反応だと結果オーライか?」

「あっ、そうです! 言う通りにしたのに何ですか! たっ、拓也くんに睨まれたじゃないですかあぁぁ!!」

「はっ? 睨まれたの俺だぞ」

「どうしてくれ…………え?」


 キョトンと瞬いて、言われたことを反芻はんすうする。

 睨まれたのが裏エースくん? 私じゃなくて?


「でも、確かに私の方を見てましたよ?」

「正確には花蓮の先の俺な。ほら、見る方向は一緒だろ」

「そう言われると……そう見えないこともない? え、どうして拓也くんが太刀川くんを睨みつけるんですか!?」


 有り得ないでしょ。だってたっくんだよ?

 今回の仲違いだって、裏エースくんのことで口論になったのに!


「まぁ何つーか、花蓮と一緒」

「私???」

「ん。よし、こうなったら放課後に勝負つけるぞ。分かったな」

「勝負???」


 だからどこらへんで勝負になった。


 兎にも角にも決戦は放課後ということで、私の頭は疑問符に満ちたまま、その時を待つことになったのだった。


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