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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode54-1 裏エースくんによる作戦

 非常口から教室に戻る途中で裏エースくんが、「あ、そうだ」と私に向かって言った。


「拓也から花蓮に話し掛けてくるまで、絶対に花蓮からは話し掛けるなよ。話し掛けたそうな素振りも見せるな」

「私に死ねと言うんですか!?」


 とんでもない発言に目を剥く。

 たっくんと会えない二週間、彼と過ごした日々の思い出をかてに生き延びたのに!


 しかし裏エースくんは、断固として私の苦情を受け付けなかった。


「いいか。これが拓也と仲直りする、最短で最善の道だ。私は気にしてませんって顔しとけ。話し掛けてきても、いつもみたいに飛びつくなよ。『あら、何ですか?』ぐらいの控えめな感じで。間違っても昨日の朝みたいな感じはNGだからな」

「思ったより注文が多い!」

「ここがポーカーフェイスの使い所だ! いつも無駄に笑ってんだからできるだろ」

「無駄じゃありません! いいですか、淑女の微笑みというのは、どんな相手にも好印象を与えやすいという」

「教室着いたぞ」


 淑女の微笑みの何たるかを説明しようとしたところで、気づけば我がクラスの扉が目の前に。


 うっ。胃が、胃が痛くなってきた……!


「胃が痛いです、太刀川くん!」

「気のせい気のせい。でも結局来なかったか、アイツ」


 私の胃痛を気のせい扱いした裏エースくんは、そう言いながら扉に手を掛けてガラッと開け放つ。

 中にいたクラスメート達に一斉に視線を向けられたのでドギマギするも、何故かほとんどの子はホッとしたように空気が緩んだ。


 その中で、相田さんと木下さんが私達のところへやって来た。


「良かった。百合宮さん、さっきより顔色良くなってる! 心配したんだから!」

「百合宮さん悲しいの、私も悲しい」


 二人からもそう声を掛けてられて、皆が私のことを心配してくれていたことに気づく。じわじわと温かな気持ちが沸き上がり、自然にふわりと微笑んだ。


「心配して下さって、ありがとうございます。太刀川くんに色々とお話を聞いてもらって、少し気が楽になったからかもしれません」

「太刀川くんだけじゃなくて、困ったら私達にも言ってね? 一緒に悩むから」

「! ……はい!」


 頷いて返し、四人で私の席へと向かって行くと、前の席には既にたっくんが戻っていた。


 そっと下坂くんと西川くんの方を見れば、彼等はグッと拳を握って応援の意を示してくれる。それにもコクンと頷いて、私は静かに自らの席へ座った。


「そう言えば木下さん。作って下さったノート、とても読みやすかったです。図や表も見やすくて、とても参考になりました。ありがとうございます」

「ううんっ。百合宮さんの助けになって、私も嬉しい!」


 ニコニコと嬉しそうに笑う木下さんに癒される。

 あー、可愛いなぁ木下さん。


 相田さんもそんな木下さんを見て頬を緩めている。

 うんうん、仲良きことは良いことである。


「私も助けになりたかったんだけどねー。太刀川くんにダメ出しされちゃってさ」

「だってお前、あの字どこの古代文字だよ」

「百合宮さん聞いた!? 太刀川くんすごく失礼じゃない!?」

「ダメですよ太刀川くん。女の子の書く文字は全部可愛いで作られているんですよ」


 メっと人差し指を立てれば、裏エースくんにその指をピンっと弾かれた。痛い。


「何だそのバ〇ァ〇ンの半分は優しさで出来てるみたいなの。よし分かった。相田、自分のノート持ってこい。それで花蓮が読めたらその説を認める!」

「その勝負乗った! 後で吠え面かかないでよね!」


 どこらへんで勝負になったのか、相田さんが意気揚々と席にノートを取りに行く。相田さんは私を負けず嫌いだと言ったけど、言った本人も相当な負けず嫌いだと思う。


 そして心配なことが一つ。


「木下さん。相田さんの字は大きいですか? 小さいですか?」

「えっと、大きい方、だと思う。どうして?」

「大きい方が、万が一だった場合の解読がしやすいからです」


 敢えて読めるかどうかは聞かない。

 そんなの、相田さんの幼馴染である木下さんと優しいたっくんが、彼女のノート作成参入を反対した裏エースくんに順じたことで知れるというもの。


 ……たっくん。


「花蓮」


 ビクッとすぐさま裏エースくんに顔を向けると、思いっきり指でバッテンを作られた。


 ちょ、ちょっと視線向けそうだったけど向けてないのに!

 何で分かった!?


「取ってきたよ! 見てみて百合宮さん!」


 鋭い監視者の目に怯えていたら、相田さんが取ってきたノートを私の目の前に差し出してきた。

 受け取り、一度静かに呼吸してノートを開く。


「……」

「ど、どう? 読めるよね?」


 何も言わないせいか、相田さんが不安そうに聞いてくる。


 ――結論から言うと、裏エースくんの圧勝である。


 古代文字、言い得て妙である。


 多分、恐らくこれは生物のノートだと思われるが何か描いてあるイラストのせいで、国語と判別がつきかねているのだ。

 国語も長文の辺りで分かりやすいイラストを五十嵐担任が黒板に描くことがあるので、それを素直に書き写すタイプなのだとしたら、貰ったノートの進捗具合で推察されるにこれは青虫を描いている。


 ちなみに生物では青虫から蝶々になるまでの過程、国語では『はらぺこ〇虫』を題材とした長文で、よりにもよって青虫一致しているのだ。何たること。


 肝心の文字……くっ、普通だったら縦書き横書きで分かるというのに、それさえも微妙だなんて……!


 相田さんを支持してあげるんだ。

 頑張れ、私の解読力!


「……青虫のイラストですね。色の使い方がとても独創的です」

「あっ、分かる!? 青虫に時間かけちゃって、蝶々まで描けなかったんだよね」


 生物のノート確定!


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