表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
130/641

Episode52-0 トランプの検証

 現在、給食後の昼休憩。


 裏エースくんに電話で話していたトランプゲーム。

 初回である今回は王道のババ抜きに決まり、遠足のメンバーで教室の後ろで円形となって、和気あいあいと遊び始め。


 ――時間がある程度経った、その結果。



「あぁーっ! どうして、どうしてそれ取っちゃうんですか!? 意地悪!」

「意地悪じゃないから。お前分かりやす過ぎだから」

「分かってたんなら、ちょっとは譲って下さってもいいでしょう!? 私はか弱い女の子ですよ!?」


 私は悔しさに顔を歪ませて、その手に残された一枚を捨てられたお山にペシッと叩きつけた。


「これで私の戦績十戦中ゼロ勝十敗……! 全敗じゃないですか!!」

「花蓮ちゃん偶々(たまたま)だよ。次は勝てるかもしれないよ」

「そ、そうだよ! 諦めないで百合宮さん!」

「拓也、木下。下手ななぐさめは余計に相手を傷つけるから止めとけ」

「貴方の言葉がいま私を傷つけています!」


 ギッと隣に座る裏エースくんを睨みつけ、ついでにその後方にある壁時計の時間も確認する。


 よし、あともう一戦はできる!


「次! 次こそは絶対太刀川くんにババを渡してやります!」

「頑張って下さい、百合宮さん!」

「ぷっくく。私も百合宮さん応援してる!」


 下坂くんと相田さんの声援を受けビルドアップする私に、裏エースくんがはぁと溜息を吐いた。


「何回やっても同じ結果になると思うけど。花蓮さ、絶対顔の使いどころ間違ってるって。普段何もないのに笑ってるヤツが、何でこういうゲームでポーカーフェイスできないんだよ?」

「え、顔に出してるつもりないですけど」

「うわ、マジで? お前ババ引いた時とか俺が引きそうな時とか、すっげー顔に出てるぞ」

「えっ!?」


 確かめるように皆を見ると、誰もが縦に首を振った。


 ほ、本当に私の癖って顔だったのか……!

 そりゃ負けるよ。癖探す以前の問題じゃないか!


 ペタリと頬に両手を当ててショックを隠しきれずにいると、相田さんがあははっと笑った。


「百合宮さんって、すごく負けず嫌いだよね! この前の小テストだって、満点だったのに悔しそうだったし」

「だって満点でも五十音順の関係で、太刀川くんに負けたんですよ? 悔しくないですか?」

「何で俺そんなに目の敵にされてんの? おかしくないか?」


 裏エースくんがぼやき、たっくんも目をぱちくりとさせて私を見る。


「もしかして新くんへの甘えって、そういうことなの?」

「「「「えっ」」」」


 何気なく飛び出した発言に反応したのは、私を除く全員。その中でも相田さんは目をキラキラさせ、木下さんの頬が赤く染まった。


「なに? 何それどういうこと柚子島くん!?」

「ゆ、百合宮さん、太刀川くんに甘え……っ?」

「ゆ、柚子島! いい加減なことを言ってんじゃないぞおぉっ!?」


 相田さんに詰め寄られ、隣の下坂くんにガクガクと揺さぶられて、「お、落ち着いて!」とたっくんが悲鳴を上げた。

 その間、いつもなら下坂くんを止めるであろう裏エースくんは固まったままで、私もその周囲の様子に何と言えばいいのか困惑中。


 自力で下坂くんの揺さぶりを止めたたっくんは、思ったことをつい口にしてしまったようで、ソワソワと申し訳なさそうな顔で私を見つめた。


「ご、ごめん花蓮ちゃん」

「? 何で謝るんです? 別にそんなに気になさらなくても」


 というか、何で皆こんなに過剰な反応するの?


 不可解な周囲の言動に首を傾げる中で、やっと裏エースくんが解凍した。


「……あ、のさ。ほら、アレ。電話で話したじゃん。ノート。そう、ノートだよ。俺と拓也と木下で作ったノート! 渡すからちょっと待ってろ!」


 解凍したと思ったら急に違う話をし出して立ち上がり、足早に自分の席へと向かって行った。しかも喋り方も変。更には途中よそ様の席に思いきり足をぶつけて、「いってー!」としゃがみ込む始末。


「???」


 何あれ。


 サッカーをしていて、体育が得意な裏エースくんらしからぬ失態である。裏エースくんは私の席を破壊したという前科があるので、ぶつかった席の方が心配だ。


「うわー……。新くんごめん」


 何でかたっくんは、そんな裏エースくんにも小さな声で謝っていた。


 せっかくババ抜きがあと一戦できる時間があったのに、戻ってくる途中でもまた足をぶつけて悶える裏エースくんのせいでそんな時間は失われてしまったのだった。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





「あのね花蓮ちゃん。お昼に僕が言ったことなんだけど、新くんへの甘えって、何でも言えるってこと?」

「え? その通りですけど」


 あれから時は過ぎて、放課後。


 ちょっと話があるということでたっくんに連れ出されて朝の中庭までやってきた私に告げられたのは、今朝の私の裏エースくんに対する発言の真意。

 てっきりたっくんのお悩み相談かとドキドキしていたのに、拍子抜けなことこの上ない。


 あれ、そんな突っ込まれるほどの発言だった?


「何でもと言っても、限度はありますけどね。だって前に太刀川くん、言っていたじゃないですか。私のこと、出来の良い人形が喋ってる感じがするって。あんなこと言われて私、本当に傷ついたんですから。だから拓也くんとのこともありますし、これはもう遠慮なく言ってやろうと思って」

「えっと、僕とのことって何だろう? まぁちょっと置いておいて、でも花蓮ちゃんってやっぱり新くんにはちょっと態度違うなぁって思ってたんだ。言いたいこと言えてて、いいなぁって」


 うん? ……待って、それってどっち?

 私が主体? 裏エースくんが主体!?


「……僕、ちょっと羨ましかったんだ。あんな風に僕も新くんに言えたらなって」


 裏エースくん主体でした。

 がっかり感を背に負って、無の境地で空に浮かぶ雲を見つめる。


「私から見れば、拓也くんも言えていると思ってましたケド」

「そう、かな。前よりは僕も話せているとは思うんだけど。でも、僕から新くんに話し掛けることって少なくて。朝だって新くんから話し掛けてくれたし」

「話し掛ければいいじゃないですか。太刀川くんなら喜んで聞いてくれると思いますケド」

「……あの、幼稚舎の時、僕、新くんのこと避けちゃってたから。だから今更何て言ったらいいのか、分からなくて」

「拓也くん」


 ポツポツと話す彼に視線を移す。


「それ、何なんですか?」

「え?」


 きょとんとするたっくんの顔を見つめて、何だか無性に――――腹が立ってきた。


「下坂くんと西川くんと仲直りしたのは、随分と前の話ですよね? それなのに太刀川くんのことを気にするのは、本当に今更じゃないですか。なら拓也くんは、今まで太刀川くんに遠慮してたってことですか? 友達の振りをしてるってことですか?」

「そんなことないよ! 僕は……っ」

「じゃあ何ですか。さっきから聞いていればウジウジと。太刀川くんの性格上、そんな昔のことは記憶の彼方にパッパラパーしている筈です。昔より今を気にする人間でしょう、彼は。ずっとそんなことを気にしていたんですか?」

「……そんなことって。僕にとったら、そんなことじゃないよ」


 ムッとするたっくんに目を細める。


「そうですか。いつまでも過去に引きずられて、いつまでも遠慮されている太刀川くんが聞いたら、どう思うことでしょう。太刀川くんだって言いますよ、そんなことって。あっけらかんと言うに決まっています」

「何で花蓮ちゃんが新くんの言うこと分かるの? 僕より新くんとの付き合い短いのに」

「あら。避けていらっしゃったそれで、私に付き合いが短いだの言うんですか? そうですね、遠慮している拓也くんよりは太刀川くんのこと分かると思います。お友達ですもの」

「何それ。僕は友達じゃないって言うの?」

「遠慮して後ろめたいのに、それで胸を張ってお友達だと言えるんですか?」


 不思議と誰も通らない中庭で、どうしてこんなことになってしまったのか。


 言い出して途中で引くこともできなくなってしまった今、内心ひっっっじょうに滂沱ぼうだの冷や汗を流しながら睨み合いを続ける。


「僕、そんなこと言われるなんて思わなかった。花蓮ちゃんにそんなこと言われるなんて思わなかった!」

「私だって拓也くんから、こんなつまらない話を聞かされるなんて思いませんでした」

「僕、僕……っ、もういいよ! 花蓮ちゃんなんて、花蓮ちゃんなんて……」


 グッと一度唇を噛みしめて、眼鏡の奥の瞳が潤んでこちらを真っ直ぐ射抜く。



「花蓮ちゃんなんて嫌いだ!!」



 振り絞った叫びが、青い空へと吸い込まれていって。


「そうですか」


 内心の焦りとは裏腹に、私の口からはそんな淡々とした、素っ気ない言葉しか出てこなかった。


 ザッと視界からたっくんの姿が消えて、耳が走って遠ざかる彼の足音を拾うのも、ただ他人事のように感じていた。それほどに、私の中で現実味がなかった。


 嫌いと、言われてしまった。



「そう。私なんて嫌い、ですか」



 既にそこに彼の姿はない。

 ただ、微かな温もりだけが残っていて。


 遠く離れてしまったと感じさせるものだけが、起こってしまった現実を私に知らしめるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ