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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode49.5 side とある忍の語り⑨-3 忍は絶対逃げられない

 そして残る二人組からは意外にも秋苑寺くんではなく、白鴎くんから声が掛かった。


「すまない薔之院。迷惑をかけた」

「私に謝ることになるより前に、どうにかしてほしかったですわね。それにもう彼女、関係ないのでしょう?」

「あぁ。家の決定だ。おそらく近いうちに転校すると思う」

「そうですの」


 興味もないと言わんばかりの素っ気なさと、完全なる事務的な受け答え。


 何だろう。もうちょっとこう、何かないのかなとか思うのは望み過ぎだろうか。秋苑寺くんも微妙な顔をしている。


 と、その秋苑寺くんがスススっと静かに薔之院さまへ近づいてきた。


「え~とさ、ごめん。まさか薔之院さんに今回の有栖川の件、話がいくとは思ってなかった。てっきり通常通りの処分と通達だと思ってて。負担、かけた」


 普段の秋苑寺くんのイメージだと調子よく明るい雰囲気で、「本当ごめーんね!」とか言いそうなのに、どことなくしょんぼりと気落ちしている。


 対秋苑寺くんに関しては、それまで平然としていた薔之院さまもちょっと驚いている様子。


「え、何でこんなに落ち込んでいますの? ……もう、貴方がヘラヘラしていないのは調子が狂いますわ! 別に負担じゃないですわよ。今回のことはむしろ私としても、言いたいことが言えてスッキリしましたわ。それに私は皆さんが思っていただろうことを、代表して言ったに過ぎませんもの。だからその辛気臭い顔をいつまでも見せないで下さいませ!」


 嫌そうな顔でシッシッと片手で追い払う手振りをしているが、秋苑寺くんは犬ではないぞ。


 そんな扱いをされた秋苑寺くんといえば最初はポカンとしていたが、みるみる内ににへら~っと嬉しそうな笑顔になって、手振りをしていた薔之院さまの手を握った。薔之院さまがギョッとする。


「ちょ、何するんですの!」

「いやー、皆は薔之院さんみたいにあそこまでしっかり考えてないと思うよ。ていうか俺やっぱり薔之院さんのこと好きだわー。薔之院さんも俺のこと好きでしょ?」

「は? は!? 何なんですの!? 何なんですのこの人!? 白鴎さま貴方ちょっと早くこの人引き取って下さいませ!」

「一緒に帰ろうよー」

「帰りません!!」


 ニコニコと楽しそうに握った手をブンブン振る秋苑寺くんに、とっても嫌そうな顔で拒否する薔之院さまは、やり取りをただ見ているだけの白鴎くんに助けを求めた。


「何で俺」

「貴方の従兄弟が、いま正に私に迷惑を掛けておりますの!!」

「はぁ……。晃星、帰るぞ」

「えー」

「えーじゃない。ほら早く」


 白鴎くんに促されて、渋々と手を放して彼の隣に並んだ秋苑寺くん。振り返った彼は薔之院さまに向けてニッコリと笑って。


「明日は一緒に帰ろうね!」

「絶対一緒に帰りません!!」


 ドキッパリと、盛大なる拒否を薔之院さまから返されていた。


 前回は白鴎くんに泣きついていた彼だが何と、「照れない照れない♪」と高めのテンションで最後に反撃(?)してからサロンから退室していった。


 反撃(?)された薔之院さまはといえば。


「!??」


 唖然としていた。

 そして。


「……面倒くさい! 面っっっっ倒くさいですわああぁ!!」


 心の底からの叫びをサロン中に響かせたのだった。


 取りあえず一連のやり取りをただ見ていたもう一人の人間の意見としては、どちらの気持ちも何となく分かるので何とも言えない。

 あ、これ別に意見でも何でもないな。


 はぁー……、と疲れた深い溜息を吐き出している彼女の元へと、荷物を持って行く。すると自分の接近に気づいた薔之院さまはハッとして、何故か慌て出した。


「あっ。えと、ずっと待って下さっていましたの?」


 え? 釘を刺したこと忘れられてる?


「……エスコート」

「あっ! あの。……何とも思いませんの?」


 何ともって何だ? どゆこと?


 言いたいことが分からず何も返答できないでいると、俯いて手を揉み合わせた彼女がポツポツと話し始める。


「他の子は、私のこと怖がってさっさと帰りましたわ。べ、別にそういうのいつものことですし、今更ショックなんてことはないですけど。でも、帰りたそうにしていた貴方が残って下さっているなんて、思っていなかったのですわ」


 ……何だかなぁ。


 何なんだろうな。あれだけ皆の前ではっきりきっぱりと堂々としていたくせに、四家の御曹司と話していても普段通りなのに、自分の時だけ自信なさそうな感じになるの。


 思ってなかったって。逃走しようとしてたのもバレて捕まえられていたのに……あ、声掛けるまでこっち全然見なかったな。そういえば。


 それに怖いとは? 確かに薔之院さまは意識的にそう見せていた節はあるけど、自分に向けられたものじゃないし、何よりあの百合宮先輩の無表情に比べたら可愛いものだと思う。


 だって先輩のあの怒気は、その場にいた全員に向けられていた。超怖かった。


「……薔之院さまは怖くない。正論を言っていた。処分の重さも妥当」


 普通に追放は確定だと思っていたし。


 俯けていた顔をパッと上げて、目を丸くするその表情は普通の女の子そのもの。


 そう、本人を知る前に色々情報があってそれが頭の中にあったせいで、こんな当たり前のことに気づかなかったなんて。薔之院さまだって自分と同じ年の女の子なのだ。


 そのことに気づけば、秋苑寺くんも薔之院さまを心配してあんな態度をとっているのかもしれないと思った。

 だって秋苑寺くんに対しての薔之院さまは、他の生徒と違い遠慮なくズケズケとものを言っているのだから。


「……怖い、じゃなくてしっかりしているの間違い。そのしっかりが、隠れて見えていないだけかと」

「……」


 どこか呆けたような薔之院さまを見つめて待っていると、ふわっとした笑みが彼女の顔いっぱいに広がった。


「っ!」

「ふふっ。本当に貴方、私のお友達に似ていますわ! つい昨日似たようなことを言われたばかりでしてよ。……あの子の言うことは大当たりですわね」


 途端ニコニコと嬉しそうに笑う彼女に、ピシリと硬直する。


 本当にもう、昼休憩の時から情報量が多いって言っているだろ! 何なんだよもう、また胸の不整脈起き始めたぞ!? 絶対風邪の引き始めだよこれ。


 というか、自分と似ている薔之院さまのお友達って一体……!!


「帰る。サロン閉館できない」


 これ以上一緒に残っていたくない。

 風邪移すかもしれないし。


 そんな思いから若干早口になってしまったが、自分の態度に疑問を持つこともなく薔之院さまも、「そうですわね! 守衛さんも困りますものね!」とニコニコしながら荷物を受け取った。


「さぁ、帰りますわよ! エスコートよろしくお願いしますわ!」


 ルンルンとスキップでもしそうなほどの浮かれ具合で、キラキラの瞳をこっちに向けてくるのを止めてほしい。


 入室した時よりも気持ちげっそりとしながら、薔之院さまとともにサロンを退室したのだった。


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