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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode49.5 side とある忍の語り⑦-2 忍は混乱する

 忍者は情報収集が基本なので、可能な限りサロンで人間観察を行っているが、薔之院さまは滅多にサロンに来ない。


 その滅多に来ない中で“いつも”と言われるくらい、自分のことを認識しているだと……!?


「……自分のことが、見えている?」

「? おかしなことを仰いますのね。幽霊でもありませ……違いますわよね?」

「違う」


 一瞬戸惑われたことに対して即答する。

 自分は忍者を目指し憧れている、れっきとした人間である。


「……たいてい、気づかれない。気配消してるから」

「そうですの? いつも同じ席でジッとしていらっしゃるから、よく目立ちましたけれど」

「!!?」


 目立つ。目立つ!?

 目立つとは一体……!


 目立つという言葉に関してすぐさま広辞苑を引いて調べたい気持ちに駆られていると、彼女の手にブックカバーがかかった本があることに今更ながら気づく。


 自分の視線の先に気づいた薔之院さまが、それを胸に抱く。


「本を読みに来ましたの。教室は静かではありませんし、図書室もあまり好きではなくて。ここなら他に誰も来ないと思ったのですけれど。……あぁでも貴方は気になりませんから、いて下さって構いませんわ」


 邪魔だと察知して立とうとしたら、制されて止められた。

 自分は気になるからできれば移動したかった。


 気にならないと言われても胸に本を抱いたまま、開いて読む素振りを見せない。


 どうしたらいいのだろう?

 自分は何かしなければならないのか?


 取りあえず話し掛けずに様子をみよう。

 そうしよう。


「あの。こういう時って、殿方から何か話題を振って下さるものでは? 察して下さらない?」

「!!?」


 少しだけ困ったように、声を落として言われたことに愕然とする。


 待て、今もしかして空気読めって言われた!?

 自分空気読めてなかった!?


 く、空気を読むとは一体……!!


「……放課後、サロン。来る?」


 焦りと混乱で、ずっと考えていたことしか話題が思いつかなかった。しかも言い方が片言になった。更には不味い話題だったようで、薔之院さまの表情が僅かに張り詰める。


 ダメだ、これは自分完全に空気読めてない!


「……そうですわね。行きますわ。頼まれてもおりますし。一応お聞きしますけど、いつも貴方のお隣の席は空いておりますの?」


 ん? 何でそんなことを聞いてくるんだ?


 何となく嫌な予感がするものの、正直にコクリと頷く。すると彼女は、「そうですの」とどことなく明るい声で、爆弾を落としてきた。


「なら、空いている時はお隣に座りますわ! 良かったですわ。貴方の近くはとても落ち着くから、できればずっとお隣に座りたいと思っておりましたの! 前にお声を掛けてお隣に座ったこと、覚えていらっしゃる? 今だから言いますけど、あの時とても緊張しておりまして。キツイ言い方、私しておりませんでしたかしら?」


 情報量がキツイ。

 一日の半分にして脳が処理落ちしそう。


 薔之院 麗花がめっちゃ話し掛けてくる。

 自分の隣が落ち着くとか言っている。


 有栖川と中條の騒ぎを鎮め春日井くんにド正論をかまし、白鴎くんと秋苑寺くんとも対等に渡り合える彼女が、自分に話し掛けるのに緊張したとか言っている。

 言い方がキツくなかったかとか心配している。今後サロンでの自分の隣独占宣言してきた。


 ダメだ、情報量がキツイ。


「……してない」


 最早惰性(だせい)で返したようなものだった。

 よく返せたな自分。もう何も考えたくない。


「良かったですわ! 言葉が足りなかったりすることもあるので、いつも言った後に付け足すような感じになってしまいますの。お、お友達から一度言葉を呑みこんで、本当にその人に伝えたいことを口にすれば大丈夫っていうアドバイスを受けて頑張ってはいるのですけど、いつも言葉が先に出てしまって。難しいですわ……」


 情報量キッツイ!


 何でこんなことになっている?

 何でトップオブ女子のしょんぼり顔見せられてる?

 自分ここに何しに来た? そもそも何に悩んでたっけ?


 ……薔之院さまの友達すごいな、彼女にそんなこと言えるんだ。


 と、そこで昼休憩終了十分前のメロディーが放送で流れてきた。このメロディーが流れた時点で戻らなければ、授業開始ギリギリの時間になってしまう。


 薔之院さまも距離と時間を把握しているようで、隣から立ち上がる気配が。


「そろそろ戻らないとなりませんわね。……そう言えば貴方、どこか私のお友達に似ておりますわ」


 バッと顔を上げて見ると、彼女はやや納得といったように頷いている。


 一人で納得しないでほしい。

 まさか薔之院さまの友達も将来忍者になりたいのだろうか。


「……どこが」


 堪らず聞くと、薔之院さまは楽しそうに笑った。


「そうですわね、考えてることが顔に出やすいところとかですわ。貴方口数は少なくても、表情が騒がしいですもの! それではまた、放課後に」


 何故かルンルンといった様子で、彼女は先に教室へ帰って行った。


 不味い。自分ももう行かなければならないのに、入学して初めて早退したい衝動に駆られている。


 ドキドキと胸が不整脈を起こしている。熱もあるような気がする。風邪? 風邪なら帰っても問題はない……サロンに行く約束破れない!!


 何なんだ?

 いつも凛として涼しい顔で対応しているのに、何あの笑顔!?

 どうしたんだ!? 今日大雪でも降るのか!? 初夏なのに!?

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