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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode49.5 side とある忍の語り⑦-1 忍は混乱する

 CクラスとDクラスの一部の生徒にとっては大事件が発生した恐怖の親交行事から二夜開けて、週の始まりであるこの月曜日。


 教室の中でも現場に居合わせた人間と、そうじゃない人間との空気の温度差が異常である。


 初等部ファヴォリのナンバーワンとナンバーツーが揃って厳しい態度を取り、ナンバーワンに至っては自分たちよりも格下の他校生に頭を下げての謝罪を行わせてしまったという恐怖心は、二夜開けたくらいじゃ収まらないだろう。


 誰かに話したくとも白鴎先輩発信の緘口令に背くわけにはいかず、皆貝のように口を閉ざして静かに席に着いている。

 特にこのクラスは秋苑寺くんがいるので、彼経由で白鴎先輩の耳に届くことになればお終いである。


 ということで事情を知らないクラスメートは、そんな彼らの様子に首を傾げるばかり。自分は他のクラスメートよりも割と早く登校する組なので、一人一人登校してきた時の様子がよく分かった。


「おっはよ~」


 登校してきた秋苑寺くんが普段通りの緩いテンションで挨拶しながら席に着く。ふわ~と眠そうに欠伸をしてグッと腕を上げて背筋を伸ばす様は、彼の気紛れな性格もあってまるで猫のようだ。


 同じクラスの特権とばかりにほとんどの女子は彼の一挙一動を熱く見つめるのが常だが、今はそんな熱視線も三分の二。……それでも三分の二。さすがである。


「……」


 ところで今、ちょっと悩んでいることがある。

 内容はというと、今日サロンに行くべきか行かざるべきか、ということ。


 あの場にいた人間……いや、騒動の原因の一人である自分は結末を最後まで見届けなければという思いと、イヤだもうあんな怖い思いはしたくないという、どうしようもない思いとの間でせめぎ合っている。


 何で自分はファヴォリなんだ。

 ただの生徒だったら人づてに事後で話を聞くことしかしなくて良かったのに……!


 だって絶対今日何かあるぞ。

 何もないわけがない。察しろ!


「あ~テステス。1ーDのファヴォリの皆さーん。今日の放課後、サロン集合だから忘れないでね~。あ、でも外せない用事がある子は大丈夫だよー」


 バッと教壇を見ると、いつの間にか秋苑寺くんが先生のようにそこに立っていた。


 まさかの強制召集、……っ!?


 秋苑寺くんが何故かこっちの方向を向いている。

 視線が合っているような気がする。


 こっちに向かって歩いてきている気がする。

 全て気のせいな気が……。


「忍くんみっけ! 絶対来てね」


 目の前に来て立たれてしまった。しかも名指し。

 逃げ場がない。


「……絶対?」

「絶対!」


 帰りたい。





 ◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 教室にいて人間観察をするような気分じゃない。


 給食を食べ終えて、非常口の扉の前で体育座りをしてボーっとして過ごす。

 ここなら人は滅多に来ることはないし、静かで落ち着けるのに最適な場所なのだ。


「はぁ~……」


 溜息が出た。


 何で強制召集……。

 何でわざわざ声掛けられた……。何で自分だけ絶対……。


 おかしい。

 目立たず・騒がず・空気を読めはできている。その筈。


 サロンで何かしらの発表があるのだろうが、十中八九有栖川のことで間違いないだろう。逆にそれ以外思いつかない。


 あの時ファヴォリは追放だと思ったから別にそれ自体に驚きとかはないのだけど、何がイヤかって有栖川が納得せずにサロンで暴れて、先輩方がキレる光景が簡単に目に浮かぶからである。


 だって本当に百合宮先輩怖かった。

 二度とあの人の無表情見たくない。ひどいトラウマなんだけど。


 頭をフルフル振って百合宮先輩の顔を追い出そうとしていると、カツ、カツ、と辺り一辺静かな廊下に室内用ローファーの接触する音が響いて聞こえてきた。


 こんな人気のない非常口に用事なんて、非常時でない限りない。それも他に教室もなく、廊下と換気窓しかないこの場所にやってくる理由とは。


 だんだんと近づいてくる足音に、息を潜めてじっとする。曲がる直前の床に影が差し、遂に見えない壁の向こうから見せた誰かの姿を確認して――目を見開いた。


「あら」


 相手も自分がここにいることに気づいて、そんな呟きを洩らした。

 何故、彼女が。


「先客がおりましたの。ご一緒してもよろしいかしら?」


 今日も綺麗に髪を縦ロールに巻いた、薔之院 麗花がそんなことを言った。


 ……え、待て。

 そんなことってどんなこと言った。ご一緒!?


 断る理由とかそんなもの、こんな辺鄙へんぴな場所に彼女が存在している衝撃で吹っ飛んだ。いつかと同じようにコクリと頷けば、彼女もまたいつかと同じように頷き返して、一人分の間隔を空けて横に座ってきた。


 ……近っ。いや近い!

 もうちょっと離れてほしい心臓潰れそう。


 もう色々と心の中がしっちゃかめっちゃかになってきた。おかしい。ここは静かで落ち着ける場所。その筈。


 いよいよもって空気になろうと、目線を正面の何の変哲もない白い壁へと固定して見ていれば、「何をなさっておりますの?」と疑問の声が隣から。


 ゆっくりと顔をそちらへ向ければ、首を傾げた彼女が自分を見ている。


「……精神統一」

「あぁ、なるほどですわ。いつもサロンでも同じ席にいらっしゃるの、あれもそうですの?」

「!!?」


 何か、今、とんでもないこと聞かれた気がする。

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