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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode49.5 side とある忍の語り⑥-0 忍は報告する

 ここだけの話、白鴎家としても百合宮家との仲違いは絶対に避けたい筈だ。


 白鴎家の歴史もそれなりにあるが、旧華族である百合宮家には及ばない。すたれていく旧華族に連なる家はもうほとんど見る影もない中で、未だに衰えることなく歴史と血を残し続けている。


 そしてその時期跡取りである百合宮先輩は、その容姿の端麗さに加え定期テストは毎回学年一位で、全国模擬試験でも毎回五位以内には入るくらいのとんでもない秀才。

 体育でも全ての競技を軽やかにこなすという、運動神経の抜群さ。


 学院でも各家でも神童と目され、文句無しに懇意こんいになりたい人物堂々のナンバーワンなのである。だからこそ学院の誰しもが、百合宮先輩には一目置く。


「通う学校でその人の価値なんて決まらないよ。良い学校に通っているからと言って成功しているわけじゃない。ファヴォリだからと言って当然のように誰かを見下していいわけじゃない。悪いことは誰にとっても同じだ。いけないことをしたら謝る、これは人として当たり前のことだよ」

「……っ」


 この兄にしてその妹あり。

 美少女が有栖川や城山に対して話していた内容を知らないのに、同じことを言ってのける。


 百合宮先輩に言われてさえ納得する気配がない。

 既に白鴎先輩は見切りをつけている。


 ファヴォリからの追放は、確定だ。


 まだここから離れた場所から何人かの足音とともに、大人の男性の声が聞こえてきた。その中にはポールに頭をぶつけた美少年とその友人もおり、美少女の状態を見て驚き、美少年に至っては怒りを顕わにする。


 状況の説明などを彼等の先生に先輩がしている内に自分のクラスの担任がやってきて、話も早々に抱きかかえられた美少女とその付き添いで百合宮先輩が病院へと向かうため、その場を後にした。


「……なんで」


 その言葉を発した人物へと視線を向ける。

 美少年らとは少し遅れて辿り着いた、ある意味美少女が負傷する原因となった人物。


「どうしてあんな、誰が」


 呆然と美少女たちが去って行った方向を見つめたまま、意識して話してはいないだろう呟きを漏らしている。

 そんな彼、春日井くんの様子に首を傾げて、共に来た秋苑寺くんが白鴎先輩に呼ばれて駆け寄っていく。


 状況把握のため月見里やまなし先生が取りあえず聖天学院生をその場に留まらせて、百合宮先輩の次にこの場で信頼のある白鴎先輩へ声を掛けると。


「特定の子を残して、後は解散でいいと思いますよ」

「それは何故……なるほど、分かった。では私は見回りに戻ろう。白鴎くん、任せても?」

「はい。そっちの学校の子は彼女と関係する子だけ残って。聖天学院生に関しては解散するように。ただし、この件に関しては他言無用緘口(かんこう)厳守! ――わかるな?」


 何人かまだ残っていた他校生にかける柔らかい言葉と真反対の、厳しい声と冷たい表情の白鴎先輩に皆顔を青褪めさせて頷き、慌ただしくこの場から逃げるように去った。


 月見里先生が離れて行き、そしてこの場に残ったのは白鴎先輩と秋苑寺くんと、春日井くんと美少女の友人五名と。


「……あの」

「ん? ……ん? え? 解散って言ったと思うけど」


 白鴎先輩の制服の裾を引いて声を掛け、やっと誰かと視線が合ったことにホッとする。あまりにも気配を消すことに長け過ぎてこうまでしないと、中々他の人は自分のことを認識してくれない。


 声を掛けた理由なんて一つしかない。


「あっ、忍くんいたの? もしかして最初からいた感じ?」


 誰かに認識されたら、何故か他の人にも認識されやすくなる不思議。


 傍にいた秋苑寺くんが気づいて話し掛けてきたので、コクリと頷く。


「佳月兄、忍くんが全部見てたんなら彼に聞いたら間違いないと思うよ~。それにしても忍くんから話し掛けるなんて珍しいね。教室でもサロンでもいっつも一匹オオカミなのに」

「あ、この子ファヴォリ?」


 ……自然にそうなっているだけで、別に一匹オオカミとかそういうの目指してないんだが。


 ちら、と残された美少女の友人たちの方を見ると、美少年と春日井くんが何事か話している。

 美少女を目にした時の彼の反応といい、彼らとは知り合いなんだろうか?


 ふぅと小さく息を吐き、目の前の上級生とクラスメートに経緯を伝える。


「……自分が相手とぶつかった。体を戻そうとしたら自分の肩が有栖川とぶつかって転んだ。有栖川とパートナーが勘違いして相手を責めた。美少年が間に入って相手は謝ったのに有栖川たちが許さない。パートナーが美少年を押してポールに頭部を強打。美少女が登場。パートナーに美少女が謝罪要求中に有栖川と城山乱入。城山と美少女の口上対決中に有栖川が春日井くんを理由に美少女に平手打ち。意味不明。美少女の友人女子と有栖川が取っ組み合いの末、出しゃばったパートナーに剥がされた女子が庇おうとした美少女と一緒に転倒。美少女大負傷。百合宮先輩が来て、ここに至る」


 久しぶりにこんなに長く喋った気がする。


 一気に喋ったけど息切れもしてないし、肺活量がまた上がったか。毎朝の走り込みがこんなところで成果を見せるとは。


「……えーと。すごく簡単に説明?してくれたと思うけど、君の言う美少女って、奏多が付き添っている子のことで合ってるかい?」

「そう。百合宮先輩の妹御」

「えっ!?」


 秋苑寺くんが驚きの声を上げる。


 ……あれ、さっき白鴎先輩って秋苑寺くん呼んでたよな? あの時話してなかったのか? もしかして言っちゃダメなやつだったか!?


 そろっと白鴎先輩を見上げると、どこか薄ら寒い笑みを浮かべていた。


「君以外にそのことを認識している子は?」

「……恐らくいない。皆、友人女子の言った名字に無反応。他校生という傲慢意識」

「なるほどね。ウチの生徒は道徳心どころか、考える脳も足りてなかったのか」


 いきなりの毒舌評価にピッと背筋を伸ばせば、「あぁごめん、君のことじゃないよ」と苦笑される。


「ありがとう教えてくれて。晃星が間違いないって言うくらいだから、君はちゃんとした子なんだろうな。けど、どうしてわざわざ?」

「……自分が原因。有栖川に当たって、結果転ばせた。そこから始まった」

「忍くんさ~、その時どこに立ってたの?」

「責められた生徒と有栖川の間。相手も有栖川も何故か自分をこえて互いを見ていた。解せない」

「あ~……」

「四回自分のせいだと告げようとした。その度にかき消された。……無念!」


 今更でも事実はちゃんと伝えておくべきだ。


 当事者である有栖川やそのパートナー、城山では絶対に自分本位の説明しかしない。他の学院生も我が身かわいさに、どんな説明をするか分かったものではない。


「あの、佳月兄。忍くんってウ〇ーリーを探すくらい集中しないと、見つからないくらい存在感ない子なの。人数少ないサロンでもいるかいないか分かんないくらいで。忍くんを忍くんって認識しないと、多分誰も彼がそこにいたって思わないから」

「……それはずいぶん難儀な子だな」


 白鴎先輩と秋苑寺くんが顔を突き合わせて、コソコソと何か話している。自分のことのような気がする。

 向こうは向こうで、話している春日井くんの顔がどんどん険しくなっている。


「……妹御は正しいことを言っていた。あの子は自分より、友人のことばかり。おかしいのはこちら側」


 ポツ、と口から自然に滑り出た。


 滑り出てしまってからハッとした。

 今のは経緯説明ではなく、ただの私情だ。


 こんな時に個人の印象や私情感想など、相手の印象を操作するようなものは伝えるべきではないのに。


「……今のは、」

「わかった」


 取り消そうと口を開いたところで遮られる。

 話しているという認識の中で遮られた意味を頭の中で捏ねくり回して考えたが、どうしてなのか分からない。


 不可解な表情で白鴎先輩を見つめるも、何故かポンポンと頭を軽く撫でられるだけに終わった。解せぬ。


「ところで君のパートナーは?」

「あ。もしかしてあの人じゃない?」


 聞かれてすぐに秋苑寺くんが指差した方を見ると、確かにパートナーに決まって十分程度も経たない頃にはぐれた先輩が、キョロキョロと辺りを見回しながらこちらへと向かって来ていた。


 そもそも先輩のトイレ待ちのために指定の場所でジッとしていたのに、出てきた先輩が自分に気づかず「あれ?」って言って何か探し始めたので、側に行こうとしたら人の波に遮られて見失ったという。

 あれからずっと探してくれていたようで、何だか申し訳ない。


 行っておいで、と言われて伝えるべきことも伝えられたのでその言葉に頷き、自分のパートナーの先輩の元へと走り寄る。


 くん、と制服の裾を掴んで揺らすと目が合って、「あ」と。


「もう、トイレの近くの時計台で待つっていう約束だったろう? 確かにフラワーロードとかアスレチックとか行きたいところが多いのは分かるけど、一人で行動しちゃダメだぞ?」


 メっ!と人差し指を立てられて注意された。

 今日一番の解せなさであった。

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