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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode49.5 side とある忍の語り④-1 忍はやらかした

 やらかした。

 誰が。まさかの自分がである。


 影が薄……違う、気配を消し過ぎてパートナーの六年生とはぐれた挙句、探している途中で通りかかったアスレチックで誰かにぶつかられた。

 ぶつかられたものの転ぶ前に体勢を立て直せそうだったので身体を捻ったら、急に目の前に人が出てきて肩がぶつかってしまい、相手が転んだ。


 転んだ人物を見て誰か分かった瞬間、手で顔を覆いたくなった。

 有栖川だった。やらかした。


 ぶつかられた人物は彼がぶつかって転ばせたのだと思って顔を青褪めさせているし、有栖川は有栖川で転ばせられたのは顔を青褪めさせている人物のせいだと思って睨みつけている。


 自分がそれぞれの間に立っているにも関わらず。

 何故だ。やらかした。


「大丈夫ですか、有栖川さま!」

「ああっ、膝がすりむけておりますわ! 早くお手当をっ」

「ちょっと! 早く先生を呼んできなさいよ!」


 有栖川の取り巻きの藤山と水田と大沼がいきり立っている。ザッと視線を巡らせて状況を確認すれば、聖天学院の他にも何人か他の学校の生徒が何事かと、こちらの様子を窺っていた。


 どこの学校だ、あれは……見たことあるような制服……分からん!


 ただ制服ということは、多分私立の学校ということくらいは分かる。

 こっちが聖天学院の生徒というのは間違いなく向こうの生徒には分かっているから、皆固まって焦った表情をしていて、有栖川の様子をオロオロと見守っている。


 騒ぎになる前に、やらかした自分がなんとかしなければ……!


「……当た」

「どこの学校だお前! 自分が一体何をしたのか分かっているのか!」


 当たったのは自分だと言いかけたら、有栖川のパートナーに被せられて消された。クソである。


 大体どう見ても自分や有栖川と同じ学年の子なのに、六年生のお前が怒鳴るとか有り得ないのだが。

 この六年生はただの学院生なので、ファヴォリの有栖川を守らなければとか考えているのだろう。


「……だか」

「有栖川さんに謝罪はしたのか! 膝まづいて償え!」


 だから当たったのは自分だと言いかけたのに、また被せられて消された。本当にクソである。


 しかもどう考えても言い過ぎ。要求し過ぎ。

 よく見ろ。こんなちょこっと擦りむいた程度、唾でもつけておけば治るぞ。


 有栖川にぶつかったのは自分なので同じファヴォリの自分が謝れば済むことだし、ぶつかられたことに関しては自分もよそ見をしていたからお相子なのだ。勝手にしゃしゃり出てきて場を乱すとは。


「……自」

「ちょっと待ってくれ!」


 自分のせいだと言いかけたら、またしても消された。遂に一文字しか言わせてもらえなくなった。


 今度は何だと声の方を見たら、爽やかな雰囲気の顔立ちをした美少年がぶつかった生徒とパートナーとの間に入って、対峙する形になった。


 美少年はぶつかった生徒と同じ制服を着ているので、騒ぎを聞いて駆けつけたようだ。後ろから二人の男子もやって来て片方が、「ま、間に合ったか!?」と彼と同じ学校の生徒に聞いているので間違いない。


「そっちがぶつかっ……た子か。お前がぶつかって転ばせたのか?」

「う、うん」

「ちゃんと謝ったか?」


 首をプルプルと横に振る生徒に彼がは~っと息を吐いて、「転ばせてケガさせたんだから、ちゃんと謝らないとダメだろ!」と注意をした。

 最初に有栖川を見た時、うわっていうような顔をしたのは何なんだろう?


 友達なんだろうか?

 とりあえず一人じゃなくなったことで勇気が出た彼が、有栖川の方を向いて頭を下げた。


「ぶ、ぶつかってケガさせちゃって、ごめんなさい!」


 本来ならそれを有栖川に言うのは自分であり、君がその言葉を向ける先は自分である。


 矢印の方向がいささかおかしいことに目をつぶれば、これでこの騒ぎは終わってもいい筈だった。ケガをしたのがファヴォリの問題児・有栖川でなければ。


「それで終わりですの?」

「えっ……」

「こっちはケガをさせられたのよ! 傷が残ったらどう責任をとって下さるの!? 」

「そ、そんな」


 とんでもないこと言い始めた。


 そんな程度で傷が残るわけあるか!

 唾つけとけ!


「そうだ! 慰謝料を請求されてもおかしくないんだぞ!」


 おかしいだろ! しゃしゃり出てくるな!


 あの出来事ほどでないにしても、あれからも度々有栖川はやらかしていたので、同学年のファヴォリは有栖川の非常識をこれでもかというほど分かっている。


 しかしファヴォリでない生徒は教室での有栖川しか知らないので、大の春日井くんファンだとしか思われていない。ちなみにこの場に自分以外のファヴォリはいない。


 やはり自分が有栖川とそのパートナーの横暴をどうにかしなければ……!


「……ま」

「慰謝料って、言い過ぎじゃないか? 早くケガ先生に見せた方がいいと思うぞ」

「そう言って逃げるつもりじゃないでしょうね!?」

「だから、本人謝ってるじゃん! 本当に反省してるし、許してやってくれよ」

「ふざけるな! 有栖川さんにぶつかるだけでなく怪我をさせておいて、謝って済む問題だとでも!?」

「そうですわ! あぁ有栖川さま、おいたわしい」


 待てと言いたかったのに。

 水田まで口を挟んできた。もう自分ではダメな気がしてきた。


 と、また新たにこの騒ぎを聞きつけたのか、何人かがこちらにやってくるのが視界に入る。その中には目を瞠るような、清楚で儚げな美少女がいて思わず見てしまう。


 薔之院さまもはっきりとした顔立ちの美少女だが、その彼女に匹敵するくらいのタイプが違う美少女ぶりだ。


 他の人間はどちらの生徒も含め騒ぎの方に夢中で、後方にいるということもあって彼女という存在に気がついていない。

 だからその間のやり取りを聞き逃し、気づいた時には有栖川のパートナーがやらかす一歩手前の体勢になっていた。


 うそだろお前、後ろポールあるんだぞ!?


 咄嗟にズボンから未使用のポケットティッシュを取り出し、軌道予測にしたがって投げつければ、うまくポールと倒れる美少年の後頭部との間に入ってクッションの役割を果たしてくれた。倒れる勢いがあったせいでゴンっと音はしたが。


「太刀川くんっ!!」


 さすがにこれだけのことがあって周囲が静まりかえる中、ただ一人、倒れた美少年の元へ駆け寄る存在があった。あの美少女だった。

 必死に美少女が美少年に声を掛け、後から男女含めた三人も彼等の傍へと駆けつけた。


 美少年の意識はあるようでホッとする。

 切れていることはないだろうが、打って頭が揺れたのは少し心配が残る……。


 何事か話した後、いきなり美少女が立ち上がり、未だ有栖川を守るように立つパートナーの元へと向かってきて目の前に立ち止まった。

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