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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode49-2 意外な繋がりとモヤモヤ

 二人の姿が見えなくなったところで、「さて」とお母様から声が掛かる。


「瑠璃子ちゃんは確か、翼欧よくおう女学院に通っていらっしゃるのよね? 根石ねいし先生っていう女性の先生って分かる?」

「あ、私のクラスの担任の先生です。下のお名前は蘭子らんこ先生と仰います」

「まあ、瑠璃子ちゃんのクラスの担任だなんてすごい偶然ね! 彼女、私の高校生時代の後輩なのよ」

「えっ!?」


 にっこりと微笑むお母様からもたらされた、思わぬ情報に瑠璃ちゃんが驚く。世間って意外と狭いもんだよねぇ。


「蘭子さんが学校の先生になったと聞いた時は、それはもう驚いたものよ。何をするにも落ち着きがなくて、毎日傷の絶えなかったあの子がって」

「えっ。そ、想像がつきません……。根石先生は他のクラスの先生からも、よく頼りにされている先生ですから」

「蘭子さん、成長されたのねぇ」


 しみじみと懐かしそうに、どこか遠く空を見つめるお母様。


「そう言えばお母様の通われていた高校って、どこの学校ですか?」

「あら、お話ししたことなかったかしら? 聖天学院の高等部よ。今は付属になって二つの学校に別れてしまったけれど、お母様の頃はまだ一つだったのよ」

「へぇ~」


 その二つの学校とは言わずもがな、乙女ゲームの舞台となる紅霧学院と銀霜学院である。


 ちなみに元々の高等部があった場所は現在、聖天学院大学部の研究室として用いられている。


「ふふふ、本当に懐かしいわ。雅さまとはよくお会いするけど、美麗さまと静香さまとは滅多に会わなくなってしまって。二人とも結婚してしまった途端、お忙しいものねぇ。花蓮ちゃんも瑠璃子ちゃんも、今のお友達を大事にしないとね」

「はい。あの、お忙しくてお会いできない方ってお母様のお友達ですか?」

「そうよ。あら、この話をするのだったら麗花ちゃんもいたら良かったわね。美麗さまは麗花ちゃんのお母様で、静香さまは白鴎夫人よ。お母様の学年は華の乙女学年って呼び名があってね、四人で集まると殿方からの視線がそれはもう熱かったものよ」

「ふわぁ~!」


 瑠璃ちゃんが頬を染めて話に聞き入っているが、私は頬を引きつらせて硬直した。


 待って今なんて言ったの? お母様、春日井のお母さんとだけじゃなくて、麗花のお母さんと白鴎のお母さんとも仲良しなの!? てか同じ学年だったの!?


「あの頃は色々あってね。皆若かったのよね。お父様との出会いも、あの雨の日の校舎の中庭で……」

「えっ。お母様とお父様って、政略結婚じゃないんですか!?」

「違うわよ。お母様がお父様に猛アタックしたんだから。お父様、お付き合いする前はすごくつれない方だったのよ?」

「ええっ」


 待って何その連続衝撃話!

 お母様があのお父様に猛アタック!? そ、想像がつかない……!!


「お付き合いして、そのままご結婚されたんですか?」


 まん丸の瞳をキラキラとさせる瑠璃ちゃん。

 人生の先輩からの恋愛実録に興味津々で、その表情はまさに夢見る乙女そのものだ。


 小学校に上がったばかりの私たち三人とも、恋愛云々は何が面白いだのどうだの言っていたのに、一年も経たずしてこの変わりよう。あぁ、会話の練習をしたあの日の私たちよ。


 ほんの数ヶ月前のことを思い出してふと、僅かに視線を下げる。


 何か、私だけ置いていかれているような、そんな気がする……。学校だって共学だけど、やっぱり周りの男の子のことそんな風に見れないし、出会いの場である催会にも出ないしなぁ。何だかなぁ。


 如何にして攻略対象者に出会わないか婚約しないかばっかり考えてたから、誰かを好きになるとか具体的に考えたことなかったし……。



「好きな人、かぁ」



 麗花は緋凰と出会っていても彼ではなく、お兄様を好きになっている。

 私も白鴎と出会っても好きにならなくて、他の誰かに恋愛感情を持てるのかもしれない。


 で、前にも似たようなことを考えて検証しようとした催会で、碌なことしか起きなかったわけで。


 ……ヤダなぁ。

 有栖川少女にはもう会いたくないなぁ。


 はぁ~と溜息を吐き出した時、ヒュウっと一吹きの軽い風が吹いて、近くに植えてある庭木の枝から葉が切り離されて舞った。

 何となくその舞う葉の行き先を視線で追っていると、何故かその葉は私のティーカップの中へと不時着した。


 もう何だろ、これ有栖川少女の呪いか何かかな。

 お茶残ってたんだけど。


 一人で勝手に鬱々(うつうつ)とした気持ちになって葉っぱを見つめていたら、ひょいっとカップが誰かに持ち上げられて目の前から消える。驚いて顔を向けると、お兄様と一緒に移動した筈の麗花がそこにいた。


 怪訝そうな顔をして私とカップを交互に見た彼女は、ふぅと一息吐くと。


「花蓮さん。葉っぱをお茶の中に入れても、それは茶柱にはなりませんわよ?」

「私が自分で入れたわけじゃないですよ!?」


 何で自発的に入れたと思われた!? 待って、麗花の私に対する認識ってどうなってんの!? ……昨日不思議令嬢って言われたな!


「というか、もう戻ってきたんですか? 早くないですか?」


 チラッと見たがお母様と瑠璃ちゃんは思いの外話に熱中していて、麗花が戻ってきたことに気づいていないため声を潜めて問い掛けたら、彼女は呆れた顔で私の隣に座ってきた。


「近場なのに遅くなる方がおかしいでしょう。もうすぐ奏多さまも戻ってきますわよ」


 麗花に奪われた葉っぱ入りカップは、座る時に遠くへと置かれた。


「そういえばお兄様は? 麗花さん一人で戻らせるなんて、お兄様らしくもない」

「奏多さまは所用で少し外されましたの。別に私は構いませんわ」

「ええー、そこは最後までエスコートしてもらわなくちゃ。で、で、どうだったんですか? 何か進展ありました?」


 進捗を聞くべく、内緒話をするように顔を近づけて報告を求める。


 小牛がドナドナでもいざ二人きりで散歩すれば、良い雰囲気になったのでは…!?


 ワクワクドキドキして待つ私に対し、じっと真っ直ぐ真剣そのものな目で麗花が見つめてくる。


「えっと、あの、麗花さん……?」


 呼び掛けても、何故か私を見つめてくるばかりで微動だにしない。


 どうしよう、まさか一緒に付いて行かなかったことを責められているのかこれは!?


「……一人じゃないんですのよ」

「え、何ですか?」

「奏多さまはちゃんとエスコートして下さいましたわ。お花も今はまだ蕾にもなっていない状態ですけど、色々花言葉なども教えて頂いて、とても素敵な時間でしたわ」

「あ、そ、そうですか」


 顔を近づけていたにも関わらず聞き取れなかったので聞き返せば、ニコリと笑ってお兄様とどうだったかを聞かされた。


 今まで見てきた素の麗花が見せる笑顔とはかなりかけ離れたそれに気圧され、思わず拙い相槌を返してしまう。


「知ってらして? 江の丘自然パークでは小さな小川があって、初めてメダカという魚を見ましたの。他の皆さんは大して興味がなさそうでしたが、私はしばらく見つめましたわ。あの子達、群れで泳いでおりましたけど、あの中のどれだけが本当に仲良しなのかしらって」

「えっと、メ、メダカさんにそのような意識はないと思いますが」

「もしもの例え話ですわよ。取り巻く姿が、似ていると思っただけですの。……誰がと言ったわけではないのに、そんな顔しませんのよ!」

「あたっ」


 ピンっと軽く鼻ピンされてイタタと押さえる。


 だって明らかに自分のことだったじゃん!

 もう、学校での麗花が心配すぎるんですけど!


「大丈夫ですわ」


 思ったことと直結した言葉が返ってきて、口に出したかとびっくりして見たら、クスクスと楽しそうに麗花が笑った。


「花蓮ったら、何もそんなこけしみたいな顔しなくても……っ。もう。花蓮がそんな顔するから、色々バカバカしくなってしまいましたわ」

「え~と。……なんか、まぁ良かったです?」


 あまりにも軽やかに笑うものだから、何だか拍子抜け、とは違うけど言葉に表すには難しい不思議な気持ちになってしまった。けれどそれは、決して嫌な感情などではない。


 何だか麗花の笑う姿を見ていると、先程感じていた鬱々とした気持ちまで吹き飛んでいくように思った。


「……って、こけしみたいな顔ってなんですか!?」

「い、今更突っ込まないで下さる!? もう、花蓮面白すぎますわ!」

「私的に面白いこと何もしてないですけど!? ちょっと、もう……ふふふっ」


 声を潜めて話していたのに二人して笑い声が大きくなっていくものだから、話に夢中になっていた瑠璃ちゃんとお母様もここで麗花が戻ってきていたことに気づかれた。


 どうして私たちが笑っているのか分からずにキョトンとした表情を見て、また笑いが込みあげてくる。


 悪戯が成功したかのような楽しさに、どうやら麗花の方も同じ気持ちらしく、お互い顔を見合わせて声に出してまた笑ったのだった。




テッテーン! 次回予告!

新たな登場人物による、(大体)遠足編での聖天学院側ストーリーをお送りします! 副題『有栖川少女、プギャーまでの道程』。お楽しみに☆


※意訳=しばらく本編とはお別れです……(;_q)

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