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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode47-2 宿題の答え

 三人揃ってビクッと肩を跳ね上げ、そろりとそちらを見ると、両手を合わせたお兄様が肩を震わせて笑っていらっしゃった。


「お兄様……?」

「くくっ。君たち三人でケンカする勢いになってどうするの」

「「「あ……」」」

「麗花ちゃん、瑠璃子ちゃん。花蓮のために心配して怒ってくれてありがとう。でも花蓮も言っているように、少し落ち着こうか。はい、深呼吸して」


 言われ、素直に深呼吸をする二人。


「どう? 落ち着いた?」

「はい……」

「はしたないところをお見せしましたわ……」

「うん。麗花ちゃんと瑠璃子ちゃんの気持ちは解るよ。二人にとって花蓮が大事な友達だって思ってくれているから、その友達が傷つけられて怒ってくれていること。じゃ、花蓮に聞くけど何が大丈夫なの?」

「えっ」


 突然話を振られて戸惑う私に、お兄様はニコッと笑って更に言う。


「経緯がどうであれ、百合宮家の娘が全治二週間ものケガを負わされた。結果母さんは倒れ、友達にも心配をかけてその相手に怒りを抱かせている。何を根拠に、大丈夫って言っているの?」

「……」


 笑っているけれど、お兄様は明らかに怒っていた。

 どうして急に矛先がこっちを向いたのか、ひやりと米神から冷や汗が流れ落ちる。

 だって、お兄様の言い方ではどんな理由があっても、私が悪いと言っているように聞こえたのだから。


 その証拠にお兄様に理解を示された筈の両隣の二人も、心配そうに私とお兄様を交互にチラチラと見ている。


「全治二週間でも、治るケガです。だから大丈夫だと言いました」

「治るケガだから? それも結果だろう? 心配をかけておいてどう大丈夫なんだろう?」

「……お兄様は、私が悪いと。そう仰るのですか」


 肩を竦めて、腕を組む。


「そう聞こえた?」

「私は悪いことなんてしていません。目の前で友達が傷つけられそうになって、でもあの子がケガをしなくて良かった。大事な人を守ろうとすることは、悪いことの筈がありません」

「ふーん」


 ふーん、て。


「お兄様だってあの時、あちらとこちらの話を聞いて、それで味方して下さったじゃないですか。なら」

「別に、話を聞いてどちらかについたわけじゃないけど」

「え? だって」

「話を聞いて判断したのは佳月。僕は最初から、周囲に聞いていたけど。この子にケガを負わせたのは誰って。なに、お前は僕が話を冷静に聞いた上でお前達の味方をしたって? 目の前で大事な妹が明らかに一人じゃ負わないようなケガをして泣いていたのに、それでも話を聞く余裕があるって?」

「……っ」

「大事な妹が、ケガをしていた。座り込んで泣いていた。結果だよ。兄の僕が、お前を守ってあげられなかった」

「!? ちがっ、お兄様!」

「お前が大事だという子を守ったように、僕だってお前を守りたかった。それなのに、大丈夫だとそれを突っぱねられる。心配をかけないようにそう言っていることくらい分かる。けど、そうされた方の気持ちはどうなる? 嫌な思いをしたとそう言ったその口で、傍に居なくて守れなかった僕達に対して、どうして大丈夫なんて言えるんだ。どうして、頼ってくれない。話してくれないんだ」



『心配してた姿を見てるからさ。あんだけ関係ないって突っぱねられてるの聞いてると、ちょっとなぁ』



 ふと、裏エースくんが言っていた言葉が思い出される。


「大事なお前を前にして、どうして心配すらさせてくれない」


 同じことを、していたんだ。

 私がお兄様や麗花、瑠璃子さんを大事に思っているように、皆も私を妹として、友達として大事に思ってくれている。


 心配かけたくなかった。

 だって全治二週間だし、私自身のことには怒ってないし。


 ああ、違う。

 気にしないで欲しい。怒らないで欲しい。心配しないで。


「だって」


 怒ると、相手を傷つけたくなる。

 そんなの、


「同じ思いを、してほしくないから」


 ダメだよ。大事な人には、笑っていて欲しい。


「怒ってその子に近づかないで。話し、通じないし、お兄様が話していることにも納得なんてしていなかった。そんな子に近づいて話して、もし、私と同じようなことになったらって、思ったら。麗花さんや、瑠璃子さんが……っ」


 ヒュっと、息を呑む音。


「でも、だって、私、絶対、いや。同じ理由で、話してくれないの……っ。ごめんなさい……っ。心配かけて、ごめん、なさいっ。大丈夫なんて、大丈夫だけどっ、本音で言えてなかった」

「「花蓮さん!!」」


 二人から、同時に抱きつかれる。

 ケガを考慮して軽い力だけど、それでも動けないくらいには密着している。


「どうして貴女はそう……っ。他人のことばっかり!」

「私達だって、花蓮さんのこと大事なんです。心配くらい、させて下さい……!」

「ごめんっ、ごめんね……!」



 ぐすぐすと抱きつき抱きつかれながら泣く私たちを、温かい目でお兄様が見守っていたこと。


 それを含め、回復したお母様が部屋の扉から数名のお手伝いさんたちと隠れて、ハンカチで目頭を押さえながら感涙にむせていたこと。


 張り切って帰宅したお父様が扉前のお母様たちの様子を見て、状況が分からずオロオロと右往左往していたこと。


 全てを私が知るのは、そう遠い未来ではない。

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