エピローグ
■エピローグ
「おはよう……」
コンクールが終わった翌日の早朝。桜花と美雨と桜の木の下に集まっていた。
「おはよ」
「おはよう!」
三人で会おうという桜花の提案からだった。
「もう、桜散っちゃったね……」
寂しそうにいう美雨。
「この前、葉桜だったから……本当、あっという間……」
美雨も桜の木を見ながら寂しそうにする。
「……そうだな」
三人で青く生い茂った桜の木をしばらく見つめる。
「そういえば、今日なんでこの時間で 呼んだんだ? 桜花」
桜花に尋ねる。待ち合わせ時間が六時くらい。この時期になると日もではじめて はいるが……
「えっと、美雨と二人で音楽をやりたいなって……結局、どっちがコンミスかも曖昧だったし……」
ちらちらとこちらを見てくる桜花。
「ふ〜ん。なるほど、上下を決めようって腹ね?」
「ううん。ぞう じゃなくて……美雨と一緒にもう一度、音楽を作りたいなって……」
理解したようで美雨もこちらを見つめてくる。
「……どういうこと?」
「はぁ……鈍いなぁ……」
大きくため息をつく美雨。ものすごく納得がいかない。
「私たち二人で演ったら争いになっちゃうけど、奏司くんがいれば……素敵な演奏になるかなって……」
「あんたが上手くしなさいってことよ……奏司 」
「分かった……」
オーケストラではこの二人が突出して上手かった。この二人だけで奏でる音に俺も興味があった。
「じゃあ、桜花。ヴァイオリン、準備しよ?」
桜花と美雨がヴァイオリンを準備し始める。
チューニングが終わり、二人がこちらを見る。
「……曲は?」
二人のヴァイオリンだけで成立する曲……
「「ヨハン・パッヘルベルのカノン!」」
二人が声をハモらせる。本来あれは三つのヴァイオリンと通奏低音もための カノンとジーグのため、違う気もするが……
「分かった」
指揮棒を持ってきて いないため、手で指揮を振る。
「っ……!」
「んっ……!」
最初のスタートは、桜花が第一ヴァイオリン。美雨が第二ヴァイオリンで奏でさせる。
明らかに不満そうにする美雨を見て思わず、苦笑する。
「(そんなに機嫌悪くするなよ……)」
美雨が食い気味に音をまくしたてる 。
「(ほら、じゃあ交代……)」
順番変更の指示をする。待ってましたと言わんばかりに大きな動きで第一ヴァイオリンのメロディを攫う 美雨。
それを見て桜花もムカッとした顔をする。
「(分かった、交代適当なタイミングでするから……)」
桜花とまた美雨の順番変更の指示をする。
「(桜の足音だ……)」
彼女たちの後ろの木がまるで桜が咲いたかのような感覚に陥る。
二人も同じ相続 を膨らませているようで、楽しみに 弾く彼女たち。
絵になるなと思うと同時に師匠に言われたことを思い出す。
「奏司、いい音楽は具現化されイメージとして一枚の絵になるんだ……」
「(あぁ、本当だったよ……)」
この演奏をいつまでも続けていたい……そう思ったが、曲が終わってしまう。
「「「あぁ、終わりたくないな……」」」
三人の声が見事にハモり、曲が終わった瞬間笑いがこみ上げる。
「仲良すぎでしょ……!」
「それな!」
「もうっ……!」
こいつらと作る音楽の可能性、それはどこまでやれるものなのだろうか。
「ねぇ、奏司 ……次は全国行くよ!?」
美雨が弓をこちらに向ける。
「私たちを連れてってくれるよね?」
桜花も美雨のまねをする。
「あぁ、もちろん!」
遅い春の風が頬を撫で、僕ら に新しい季節を連れてきた 。
■
日本から遠く離れた遠方の地、フランス。
「なぁ、聞いたか ? あの奏司が日本の学生オーケストラで指揮を振ってるらしいぞ!」
走ってこちらに 駆け寄ってくる一人の男性。
「へぇ、奏司が! って、どうしたの?」
隣の白髪の男の子が嬉しそうにキラキラした目で遠くをみる 。
「 「やっと帰ってきたね……奏司。さぁ、今度こそ勝敗をつけよう……!」
少年が指揮棒を持ち爽やかな笑い を顔に浮かべた。
完