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奇跡の花レインリナ増殖計画&私がユリナを幸せにする

 これは夢なのだろうか。だって今私が見ているのはレインリナを胸に抱き、息絶えているユリナの姿。

 私はユリナから目を逸らし踵を返す。目の前には漆黒の闇が広がっている。このまま歩いていれば元の私に戻れるのだろうか…歩き出そうとしたその足元が輝く。

 一輪のレインリナが咲いていた。私は思わず後ろを振り返る。そこにユリナの姿はなく私の周り全てが闇に包まれ、足元のレインリナだけが虹色の花弁を輝かせていた。

 奇跡の花、奇跡を呼ぶ花。

 私がユリナの人生を歩むことになった事を奇跡とは言いたくない。出来る事なら楓のまま命を終えた方がよかった。では、ユリナにとっての花がもたらした奇跡とは何だろう? 

 両手を見つめる。剣を握る所為か手の平にしっかりとした厚みがあるが、指は長く細い。この手は私、楓のものではない。私はその手でレインリナの花を包み込み、力を込めて握り潰した。

  

 寝室の窓に掛かる分厚いカーテンが朝日を拒むように掛けられている。

 天蓋付きの寝台の上、私は身を起こし両手を見つめる。そして深く静かに一呼吸しその両手を上掛けの上に下ろした。

 ゲームでは主人公やサブキャラとなり物語を進めていく。今のこの状況も似たものかもしれない。ただ違うのは二次元ではなく三次元だと言う事。ストーリーを持った人形に私という意思が入ると言う感じだろうか。新しいゲームの話なら画期的だろう。

 私は寝台から起き出て窓に掛かるカーテンを開ける。まぶしい太陽光が寝室に差し込み眩しさには目を細める。ロイデン王子の必死な表情と声を思い出した。

『僕は嫌です。これ以上貴女と離れたくありません。どうか側にいる事を許していただきたい…貴女がいいと言うまで僕からは話掛ける事は致しませんから、お願いです』

 ため息をつく。結局王子の言うままに頷いてしまった。

「あまいな、私…」

 ノックと共にドアが開き、サンが入ってくる。驚いた様子で窓際に立つユリナを見る。

「おはようございますお嬢様。どうかなさいましたか」

「おはよう、サン。別にどうもしないわ。目が覚めてしまっただけ」

 ユリナは窓の外に向けていた視線をサンに向けた。

「…沐浴のご用意が出来ております」

「ありがとう」

 サンは目を細め、朝日に照らされたユリナを見つめて微笑む。

「サン?」

「失礼いたしました。つい見とれてしまって…」

「なにそれ」

「何て言うんでしょうか。以前より親しみが増しているような…」

 ユリナは首を傾げる。

「こう言ってはなんですが、お嬢様はモーリテス家のご当主としての立場から感情を表に出すことを極力しておりませんでした。それは私ども使用人にも同じ事。なので、先程のようなお言葉は余り口に出して言われることもなく…」

 私は自分が何を言ったのか思い出そうとした。

「よろしんですよ。自然におでになったお言葉でしたら尚更嬉し限りです」

 サンは笑顔でユリナに近付きその手を取った。

「さあ、参りましょう」

「私、変わった?」

「この間も言いましたが、どんなユリナ様もユリナ様です」

 そう、私はサンのこの言葉に救われ、そしてどんなユリナであっても側にいてくれると言ってくれた。今の私をそのまま受け入れてくれた彼女。

 私は…私としてユリナを受けとめればいいのかもしれない。ユリナは生きたかった…そのために彼女が私にこの体を任せてくれたのだったら、私がユリナが幸せになるように彼女の生を全うするべきなのかもしれない。ユリナが与えてくれた第二の人生は私には勿体ないほど。異世界という他は好条件の彼女。前の私には無いものばかりで反対に怖いと思う…だからなのかもしれない、私がユリナとして生きるのに足踏みしたのは。

「ユリナお嬢様?」

「…大切に生きるわ」

 ユリナの幸せ、それがいつか私が幸せにも繋がる。今はそれでいい…。

 サンが頷いた。 

 

 モーリテス家の敷地内に温室があり、そこには一年を通して色んな花や植物が栽培されている。その室内の奥、他の植物に隠されるようにその花は置かれていた。

「お嬢、そこの葉っぱには気よ付けてください。触れると痒くなる」

 庭師のダンは鉢植えをどかしてユリナが通れる道を確保してくれた。

「ありがとう」

 ユリナはダンに礼を言い、目の前の作業台のようなテーブルの上に置かれた鉢植えの中のレインリナに近付く。

 花は潰されていない。そう、あれは私が夢の中でした事でその瞬間私は目を覚ました。

「管理は大変ではない?」

「昔からある花ですし、大丈夫です」

「でも、貴重な花なんでしょう?」

「虹色のレインリナが珍しいんですよ。普通の菫色のレインリナは親父の頃には山に入ればどこにでも咲いている花だった。わしがガキの時にはその菫色も余り見なくなって、要は取り過ぎたんだ」

「取り過ぎ…」

「香水や染色、はたまた薬として…親父も危機感を感じて先代に進言した。このままではレインリナは根絶やしになると」

「父上は何て?」

「王様に伝えると…話では先代はすぐにお話してくれたらしいですが、国の対応が遅れた。いや、遅すぎた。その間もレインリナは取られ続け、その数を減らし先代に進言してから一年で姿を消しそうです」

 だからこの花を今見つける事は大変なのだとわかる。それも虹色…奇跡の花と言われる所以はそこから来るのかもしれないと私は思った。

「ダン、これ増やせる?」

「どうでしょうな…まあ、とりあえずやってみます」

「ありがとう。お願いね」

 私はレインリナを見つめた。


 温室から屋敷に戻ろうとしていた私は門から出て行こうとする馬車に気がつく。それは昨日王宮に出向く際にも乗った馬車だった。

「ロイデン様が登城されます」

 教えくれたのはサン。私はその様子を横目で見ながらも歩みは止めない。

「えっ!」

 門をまさにくぐろうとしていた馬車が急停車し、側近が止める手を振り切りロイデンが馬車から降りてユリナの方へと駆けて来た。

 ロイデンはユリナの前で一旦止まり、次の瞬間その両手を広げ彼女を抱きしめた。そしてすぐに離れたと思ったら踵を返し走って馬車へと戻って行った。

 馬車はロイデンを乗せ門から出ていく。

「なに、いまの?」

「…呆れてなにも言えませんでした。仮も王子であろう方がなさることではないでしょうに」

 多分、昨日の言ったことを彼なりに守っているのだろうけど、やっていることはちょっとやばい。早々に話し掛ける事を許した方がいいかもしれない。

「それとも、ロイデン様となにかありましたかお嬢様?」

「なにも」

 サンにロイデン王子との書庫での話をする必要はない。取り敢えず私の中での一応の結論は出したから。

「サン、仕事をするわ。カインとソニオを呼んでもらえる」

「わかりました」

 私は進んで行く。どんな未来がこの先あるのかわからないけれど。

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