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アマテナ国と王族の方々

 大きな窓から見える街の景観はアマルフィ海岸のポジターノの風景に似ている。写真で見ただけで行ったことはないけど。山と海に囲まれ温泉もあるって聞いたからてっきり静岡の◯海的な感じかと思っていた。

 この世界、ユリナが存在していたこの異世界の事を私はなにも知らない。服装や建築などを見ると中世のヨーロッパを彷彿せさる。食事に関して言えば大体は美味しい。食材の見た目も味も私のいた世界とそう変わらない。たまになにこれ? と思うものはあるけれど、食べてみれば平気な物ばかり。ただ食べ慣れていたお米とか大豆系の発酵食品が見当たらない。私の心は食べたいと思うけど、ユリナの体は欲していないので今の所困っていない。そのうち貿易の仕事がてら探してみようかなと思ったりしている。

 そしてこの大きな窓から見えているものがもうひとつ。それは大空を駆けている馬、いやっ私の知っている単語だとペガサス。普通に人が乗って飛んでる。驚きよりも自分が本当に違う世界に居るんだなと痛感した。もしかして王子が早馬で屋敷に来たと話した時のその早馬ってこのペガサスの事だったのかもしれない。空を飛べるのはいいかもしれないが、ペガサスって・・・私には無理かな。

 部屋のドアがノックされ、入ってきたのはロイデン王子とお付きの者。

 ロイデン王子は迷うことなく私の側に来ると抱きしめ、両頬にキスを落とす。

 「ただいま戻りました」

 「・・・お帰りなさい、ロイ」

 「元気な姿に安心した」

 王子がサンから追い出せれるように遠征に戻ったのは5日前の話。

 「でも、私としてはここではなくモーリテス家に帰りたかったのだけど」

 こことは王子の生家、つまりアマテナ国の王宮。

 「貴女がいるとこが私の帰る所だから」

 再び私を抱きしめる。

 今更なんですが、ユリナはこの王子を好いていたのだろうか。彼女の王子と一緒の記憶を思い出そうとしても殆ど浮かんでこなし、あるのはあの婚儀のものだけ。婚儀も3ヶ月前に挙げたもので、その後すぐに王子は遠征に赴いたとサンがため息交じりに話していたのを聞いた。

 抱きしめ返してくれない私から王子は体を放し、心配そうに顔を覗き込む。

 「まだ、体調がすぐれませんか?」

 「・・・体は大丈夫」

 私は伸ばした左手で王子の頬に触れる。碧眼は私の姿を捉えて離さない。

 「ユリナ・・・」

 王子の顔が近付く。

 「えー、申し訳ございませんが王がお待ちです」

 お付きの者が悪びれる事なく言い放った。

 一瞬王子の動きは止まったが、素早く触れるだけのキスをして私から離れた。


 謁見の間。

 玉座に座っていたのはアマテナ国のログルブリング王ではなかった。

 「いらっしゃい、ユリナ」

 満面の笑みで迎えてくれたのはアマテナ国の第一王子ローランド・アマテナ。

 「兄上、なになさっているんですか。父上は?」

 私はユリナとローランド王子の記憶を探す。

 「そのうち来るよ。ちょっと他の者に足止め頼んだだけだから」

 ローランド王子が玉座から私の方へと近付き、ロイデン王子が私を自分の身体の後ろへと隠す。

 「彼女に近付かないでください」

 「何その言い方。ユリナは俺の妹でしょう? 同い年だけど」

 「義理の妹です」

 「義理でも何でもいいから、挨拶させてよ。知らない仲でもないし」

 頑としてロイデン王子は私の前から動かない。

 「ロイ。俺の・・・兄の言う事が聞けないの」

 「・・・ロイ」

 私はロイデン王子の背中に手を置き、大丈夫だと言う様に軽く叩く。

 ロイデン王子は渋渋私の前から身体を動かした。

 両手を広げウエルカムのローランド王子に対し、私はドレスの裾を軽く持ち上げ頭を下げる。

 「ご無沙汰しておりますローランド様。このたびはご心配おかけしましたこと申し訳ありません。ですが体調も戻り、こうしてご挨拶に参りました」

 「違うよユリナ」

 私が顔を上げると、ローランド王子は自分の胸に手をあて

 「ここでしょう?」

 ユリナの記憶の彼は全てこんな感じであり、そしてユリナの彼に対する態度も一貫していた。

 私はローランド王子の側に行き、ロイデン王子とは違う青眼を見つめる。

 「ローランド、お願いだから困らせないで」

 「えー」

 「言い間違えたわ。お願いだから怒らせないで」

 ローランド王子は仕方なさそうに口を尖らせながら、

 「わかった。じゃ今度剣の稽古に付き合ってよね」

 えっ、剣の稽古!? そう言えば記憶の中にこの2人が剣を交えている姿かあった。私は取りあえず黙って頷いた。

 そんなやりとりの後の真打登場である。

 アマテナ国のログルブリング王、その妻マナ妃。そして第二王子のロテスター王子と末の娘のリリ姫。

 私はさっきローランドにした挨拶を国王バージョンに変え伝えた。

 「無事で何より。そなたに何かあったら新婚早々ロイデンが一人身に戻ってしまうところだった」

 「父上、縁起でもない」

 ロイデン王子は父親である王を軽く睨む。

 ログルブリング王はユリナの父、モーリテス家の前当主であったディオン・モーリテスと友人関係だったらしい。なのでユリナも幼い頃から父親と共に王宮に上がり、王と接見していた。そしてそこには必ずローランド王子もいてユリナとは幼馴染みなのである。

 「でもさ、ユリナは何で山に入りにいったの?」

 ローランド王子の何気ない一言にリリ姫の肩が跳ねたのは気のせいだろうか。私は一人ひとりの表情を見ながらあの奇跡の花の事を口にした。

 「・・・ある花を探しに行きました」

 「ある花とは、もしかしてレインリナかい?」

 ログルブリング王の問いに私は微笑む。

 「なぜ?」

 王の疑問は当然であろう。そしてそれを私も知りたいのである。

 「それが生死を彷徨ったせいか、山に入る前の事を覚えていないのです。ただ、あの花を見つけて必死に守ろうとしていた事だけは忘れていないのですけど」

 マナ妃と視線が合う。

 「・・・レインリナは奇跡の花」

 「はい、そう言われています」

 「昔は奇跡を呼ぶ花と言われていたの。人によってその奇跡は異なるわ。そうでしょう?」

 奇跡を呼ぶ花? 

 「貴女はどんな奇跡を望んだのかしら」

 彼女の瞳が冷たく私に問いかけた。

 「・・・私が花を探した理由やどんな奇跡を求めたのかは今は思い出せません。ただあの時は生きて帰れる奇跡を願ったかもしれません」

 そう、ユリナは生きる事を望んでいた。だから今ここに私がいる。私が前の世界で最後に見た花と彼女が探していたレインリナ、花同士が繋がり呼び込んだ奇跡なのかもしれない。

 「その、花・・・レインリナは今はどこに」

 鈴のような可愛らしく高い声でリリ姫が問う。

 「さあ・・・覚えがないんです。屋敷に戻った時にはすでに手元になく、失くしたかそれともどこかに隠したか。そのうち思い出すかもしれませんね、全てを」

 私のついた嘘にリリ姫の小さな手が微かに震えていた。

 このお姫様何か知ってますね。でも知っているだけで本星じゃない。

 「じゃ今度は俺と一緒にいこう。俺がいれば危険な事も起きないから」

 ローランド王子の発言にそこにいた誰もが微妙な空気を感じ取った。

 「・・・ローランド様。お誘いは有難く思いますが、ご辞退させて頂きます」

 「なんでー」

 「貴方様と行く理由がございませんし、行きたくないからです」

 「うわー、ユリナが冷たい」

 「ローランド。いい加減にしなさい」

 「はーい、父上。冗談ですよ」

 黙っていれば好青年のローランド王子。記憶の彼はいつもこんな感じで、そして王族の中では誰よりもユリナの近くにいたのだ。そう、ロイデン王子の記憶よりはるかに多い。それってもしかしてそういうことなのかな。

 「・・・花を探すことはご一緒出来ませんが、剣の稽古はいつでもお待ちしておりますので」

 「うん・・・ありがとう」

 ユリナとローランド王子の関係は幼馴染み以上恋人未満なのであろう。ローランド王子の方はユリナに対して好き好きオーラ全開だけど。

 「父上。お願いがございます」

 ロイデン王子がいきなり声を挙げる。

 「どうしたロイデン」

 「今回の様な事もあり、私はユリナの側に居たく存じます。なので王子としての役目を終わらせて頂きたく」

 「それは、王族から抜けると言う事か」

 「はい」

 小さな悲鳴が聞こえた。リリ姫が手で口元を押さえている。

 「前前から申し上げていましたよね。モーリテス家のひとりとして彼女を支えたいと。王子として遠征に出掛けていなければ、彼女を危ない目に遭わすこともなかったでしょう」

 ロイデン王子はマ◯オさんか。

 「しかし」

 ログルブリング王は難しい表情を浮かべる。

 「国にとってモーリテスの名は有益でしょう。ですがユリナにはアマテナの後ろ盾は必要ありません」

 謁見の間に拍手の音が響く。

 「兄上・・・」

 ローランド王子は拍手を止め、笑みを浮かべながらロイデン王子の側へ歩みよりその肩に手を回す。 

 「立派だね。大切な人を守りたいと思うのは当然・・・父上、いいんじゃないんですか。ロイデンはモーリテス家にくれてやりましょう」

 もう少し言い方ってものがあるでしょうが。

 「だが何かあったとしても、もうここにお前の居場所はないと思え」

 「最初からここに私の居場所などなかった。私は漸く自分のいるべき場所を見つけたんです。何かあったとしても帰ることはありません」

 言い切ったロイデン王子をローランド王子は鼻で笑いつつ、彼はロイデン王子の耳元に呟く。

 「お前が守れなかったら、彼女は俺が奪う」

 ロイデン王子はローランド王子の腕を払いのけ睨みつけた。

 「ご心配は無用です。ユリナは私が守ります」

 彼の手が私の体を引き寄せ、その腕に抱きとめた。

 

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