新たな命
背中に暖かさを感じながら私の体は揺れている。重たい瞼はまだ開きそうになく私の意識は再び静かに落ちていった。
どこにあるのかしら。私は辺りを見渡す。きっとそれを見つけても私の願いが叶うとは思わない。でも少しだけ・・・そう心が願った。
その花の名はレインリナ。庭師の話では花を採り過ぎたことで数を減らしてしまったと。警告はしたが聞き入れられなかった様子。なんと愚かなことか。
だからその花を見つけた時の私の心は感極まった。幻でも夢でもなくその花はそこに咲いていた。救わなければいけない。この先もこの花を残していくために。
傷を負った足が熱く熱をもっていた。その熱が体の自由を奪い、今度は冷たくなり命の鼓動を止めようとしていた。腕の中で咲くレインリナを見つめる。
私を彼のもとに返して・・・この身体を・・ロイの・・そば・・・・。
消えそうな私に声が届いた。心配そうにこちらを見ているその人の後ろに花が見えた。知らない花。でもそれが何を意味するのか私は知っていたのかもしれない。
ごめんなさい、ありがとう。さあ、帰ろう・・・彼をお願い。「愛している」と伝えて。
瞼を開いた視線の先にその人の顔が見えた。そっと伸ばした手でその人の頬を触る。ピクリとしたしその人の体が後ろから私の体を抱きしめ、瞳が私を見下ろした。
「なんで泣いてるの?」
「・・・会いたかったんだなって」
「うん。僕も会いたかった」
優しく笑うロイデン。
その笑顔に私はロイデンの頬から手を引き、
「ごめんなさい・・・」
そう言ったのは誰だったのか、私は誰? そう思いこの意識は遠くなった。
裁きの塔からロテスターが抜け出して三日目の朝、翼馬と共にその姿が王城の中庭に降り立った。
「これはこれはマルス殿。まさか貴殿が弟を連れてこられるとは」
部屋着にガウンを掛けたローランドが二人の前に立つ。
その場を囲んでいる警備兵や王太子付き添いの者たちが顔色を悪くして震えているのは気のせいではなく隠すこともしないマルスの殺気がそうさせていた。もちろんロテスターも含まれている。
「・・・ロテスター様をお連れしました」
「ロテスターだけ?」
「そうでございます」
「まあ、そうだよね。ユリナやロイデンはモーリテス家へ・・・他に誰もいなかったかな」
「他の誰か、というのがわかりかねます」
「ふ~ん。ロテスターもそれでいいの?」
何か言いたいのが話そうとするができない様子にローランドがが苦笑いする。
「マルス殿。少しその殺気を抑えていただけないものかな」
ロテスターの体がその場に膝をつく。周りも大きく息をついた。
「お前はそれでいいのか?」
再度ローランドの問いにロテスターは顔を上げ、兄の顔を見た。
「・・・私から話すことはありません」
「そうか」
ローランドが合図すると警備兵がこわごわとマルスの側からロテスターを連れて行った。その様子を見届けることなくマルスがその場を後にしようとする。
「マルス殿。ユリナは無事か」
マルスはローランドに背を向けたまま足を止める。
「当家主人のご心配痛み入ります。しかしながらこれ以上の心配は必要ございません。配偶者であられるロイデン様や我々がお側に付いておりますので」
去っていくマルスを見届けながらローランドは肩をすくめ、城に戻っていった。
その日のから二日後、ローランド家に元気な産声が上がる。




