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真相はまだ知れず

「私の命はどうなってもかまわない・・・彼を助けてくれないか」

 ロテスタ―様はロイの腕の中からどうにか抜け出そうとしている私ユリナの姿を見た。

 みんな大切な何かの為に自らの命を犠牲にそれらを守ろうとする・・・その守ろうとしている何かはその人が生きている事がなによりも大切なのに。

「ユリナ」

 ロイデンの優しい気遣う声が頭上から届く。私は抱きしめてくれている彼の腕に触れた。

「貴方が自分の為に命を差しだしたと知ったら、あの子はきっと後を追う事を厭わないでしょう。そんな事を貴方は望むのですか」

 苦しそうな表情を浮かべるロテスタ―様はきっとそうなる事をわかって言ったのだろう。あの子が生きていれば受けるであろう罪の裁きを受けさせたくないのかもしれない。

「ロテスタ―様。罪を償いながら生きる事は大変です。でも、あの子の側に貴方がいれば・・・」

「ユリナ様」

 重低音のマルスの声。本人以外の人達の体がびくりと反応した。

「マルス?」

 圧がスゴずぎてロイなんてちょっとずつ私の身体ごと後退している。

「ロイデン様」

「はいっ」

 ロイデンの動きが止まる。

「いい加減ユリナ様をお放しください。それとユリナ様、お怪我はございませんか」

「ええ平気よ。マルスもひとりでありがとう」

 にこやかに頷くもマルスから圧が消えない。

 ロイの腕が離れても彼が私の服の端を摑んでいるのに気づく。可愛いか!

「ユリナ様。で、そのお話の方はどこにいるのでしょか」

「その子ならノ」

 ノア様の名を遮るように私達の前に彼は現れた。ノア様もマルスが怖いんでしょうか? まあ、本人の事を魔王呼ばわりしていたくらいですからね・・・。

 急に現れた人の姿に皆驚きつつも、その人が何者なのかを知っているのはユリナとロテスタ―だった。その人物に駆け寄ろうとしたロテスタ―の動きを剣で制したマルス。

「この方が、暗殺者ですか」

「マルス!」

 ユリナである私は止める。でもそのユリナの背後からロイデンが飛び出すとその彼の胸ぐらを摑んみ締め付けた。

「ロイ!?」

 苦しそうに彼が見上げた視線の先にはロテスタ―がいた。彼の瞳が一瞬揺らいだがそのまま。

「貴様がユリナを傷つけたのか」

 ロイデンの問いに彼の口元に笑みが浮かんだ。

「残念だった・・・死ななかった」

 彼はわざと自分が悪いように言っている。それはきっとロテスタ―様と自分との関係を否定するため。だからその言葉にロイをのせてはいけない。

「ロイ、私はここにいる」

 締め付けていた彼の胸元からロイデンは手を離し、ユリナの側に戻って来た彼は私の肩に頭を乗せ抱きしめる。

「ユリナ、うん・・・」

 私はロイデンの髪を撫でた。大切な人を傷つけた張本人が目の前に現れたら許せないのはわかる。それでも私は彼にこれ以上の制裁を加えて欲しくはなかった。それにロイデンがこれ以上手を出さなくても魔王マルスが後に控えている。

「貴方の名を伺ってもよろしいですか」

 マルスが怖いから答えられないのか答える気がないのか。多分前者だと思うが彼は黙っていた。

「まったく、王族の方に剣を向けている時点で不敬だと言うのに仕方ないですね・・・」

 一瞬風を切った剣。ロテスタ―の頬にうっすらと赤い線が浮かび上がった。

 あっ、やっちゃった。私は思わずロイデンの頭を肩に押し付けた。

「余り剣の扱いはうまい方ではないので次は・・・」

 息を飲んだのはロテスタ―様と彼。

 再度、マルスが剣を持ちあげた瞬間。

「イリス!」

 そう、彼本人が叫んだのは当然のことかもしれない。

「よくできました。ではお話を伺いましょうか。勿論、お二方にも」

 私の抱きしめていたロイデンの腕がびくりと反応した。

 手足を拘束されたイリスを中央にして、左右にロイデンとロテスタ―が距離を空けて椅子に座っている。私とマルスは少し距離をとって三人の前に立っている。一体椅子はどこから用意したのかマルスに聞きたかったが今は止めておくことにした。

「要するにロテスタ―様はローランド様に裁きの塔に幽閉されたが脱走し、ロイ様は王都からのローランド様の手紙を受け取り私の元に向かったと言う事ね」

 多分、私ユリナを餌としてローランドは全ての事の解決を図ったのだろう。素直な弟ズと腹黒兄と言った所か。

「兄上の思惑などしらぬ。私は己の大事なものを失いたくなかっただけだ」

「俺はユリナが心配で」

「マルスはどう?」

「はい。王都のパパスからの知らせもほぼ同じく、そのような事だと思われます」

 私はそっと息をついた。ユリナを狙った暗殺者は捕えられ、事の経緯はこれから明らかになっていくのだろう。

 でも、誰も知らない。本物のユリナの命が消え・・・私楓の命がこの身体に入っているからユリナが今ここにいられることを。本当の真実は残酷で悲しいなのに。そう、悲しく寂しい。ユリナはいないのにそれを悲しむ人がいない。そのことがとてもやりきれない。

「ユリナ! どうしたの」

 ロイデンがイスから立ち上がる。

 みんなの視線がユリナに向けられ、マルスがそっとハンカチを差しだした。

 私は泣いていた。ユリナを想って彼女の身体で泣いた。

「私は死んだの」(ユリナは死んだ)

 みんなが驚いている。

「でも、ここに戻る事が出来た。そう願ったから、それが奇跡の花の力かどうかはわからない。ただ(ユリナは)ロイやみんなの元に帰りたかった・・・だから、貴方を許すことが出来ない。この私の命が尽きるまで貴方のしたことは忘れない」

 それがユリナの死を唯一知る自分の役目。

「ユリナ様・・・この者の始末はわたくしが」

 マルスから受け取ったハンカチで涙を拭いた私は首を横に振る。

「マルス、屋敷のサンに知らせて。暗殺者の確保とロテスタ―様を保護したと。それをサンは城に伝えるでしょう」

「それで、よろしいのですか」

「ええ・・・知らせるだけはしておかないと。その後の事は様子をみましょう」

 私はマルスに微笑んだ。

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