魔王降臨阻止と2人の王子
地響きと共に対峙していた最後の魔物が地面に倒れるのを確認したマルスはユリナのテントへと急ぎ向かう。
「ユリナ様!」
そこにユリナの姿はなかった。
マルスが踵を返したその時、どこからか声が聞こえた。その声を捉えたマルスは夜空を見上げる。微かな星の瞬きの間から翼馬が降り立つ。
「マルス殿!」
「ロイデン様とロテスタ―様?」
翼馬から降りて来た王子2人の姿にマルスの視線が厳しくなる。
「まあ、ロイデン様がいらっしゃるのはわかるのですがロテスタ―様がご一緒とはこれいかに」
「事情は後でお話する。というかこの状況を先に教えて欲しい」
マルスは息をつき身なりを整える。
「眠り薬を盛られて、魔物に襲われ、ユリナ様のお姿がありません」
「なっ!」
ロイデンはロテスタ―に振り返る。
「何かご存知なのでしょうかロテスタ―様」
「・・・知らないと言った所で信じてはもらえなさそうだが」
「兄上! 分かっていることがあるなら話してください。ユリナはどこに」
「ユリナ殿がどこにいるのかは私にもわからない。だが、この状況を作ったの私の知り合いだろう」
マルスとロイデンは互いに視線を交わす。
「では、その知り合いの方の行動範囲を考えなければなりませんね。まず、その方がユリナ様を連れて行かれたのだとしたらまだそんなに遠くには行っていないはず」
「意識のない人を運ぶのは大変なはずだから馬ではないとすれば、馬車か?」
「それもあまり目立たない小型な荷馬車かと思います」
ロイデンが素早い動きで翼馬に乗る。
「この暗さや森の中では馬車の姿は見えません」
マルスの冷静な停止にロイデンは感情を爆発させる。
「じっとしていろと言うのか!」
「そうですねステイでお願いします」
再度口を開きかけたロイデンからマルスはロテスタ―に視線を向ける。
「ロテスタ―様。その方が何の目的でモーリテス家の当主であるユリナ様を連れ去ったのかはわかりかねますが、その方が向かう先に心当たりはありませんか」
仮にも第2王子であるロテスタ―にマルスは静かに圧をかける。
「残念だがわからない」
心底悔しそうにロテスタ―は呟いた。
「それは、本当に残念です」
マルスの全身からストンと何かが落ちると、痛いほどの殺気がロテスタ―とロイデンの肌に伝わる。ふたりは息を飲み込んだ。
「あっ」
ノアの出した声にユリナは彼を見る。どうしたものかとノアは首を擡げた。
「なにか?」
ノアの様子にユリナは胸がざわざわした。
「魔王がキレたっぽい」
この世界に魔王が存在するとは思わなかった。いつか魔王退治にでも行くようになるのかしら。まあ、私ではなくロイデン王子が行く感じではあるけど。
「それは、大変なんですか?」
「う~ん。今はこれが最善かな」
ノアの言葉と同時に私の視界が切り替わる。それと共に凄い何かがユリナの身体に負荷をかけてくる。私はその場にしゃがみ込んだ。
「これの、何が最善なんですか!」
私の叫びは森に響き渡った。
「ユリナ!」
「ユリナ様!?」
「!?」
三者三様の中、私はマルスの背後にいた。ノア様の庭からここに移動したらしい。さっきまで感じていた身体への負荷はきれいに消えている。
「マルス・・・一応聞いとくわ。何をしようとしたの」
手を差し伸べてくれたマルスのその手を取ろうとしたユリナの体が、割り込んできた別の人物に抱き上げられ抱きしめられる。
苦しいほどのその抱きしめに私は思わず呼吸困難になりかける。
「加減!」
マルスの平手がロイデンの腕をはたく。
「ああっユリナ・・・」
やや緩やかになったロイデンの腕の中で私は安堵の息をつき、彼の身体をそっと抱きしめた。
「ご無事で何よりでございますユリナ様」
魔王・・・いや、マルスがにこやかにユリナに微笑む。
放してくれないロイデンの腕の中から私は話を聞くことにした。
「マルス。貴方がわかる範囲で構わないからこの状況を説明してもらえるかしら」
「そうですね。先程お2人にもお話しましたが眠り薬を盛られて、魔物に襲われ、お嬢様を連れ去られました」
残骸の魔物を横目で確認しながらマルスの強さを実感する。ノア様が言った手練れとはこのことか。だとしたらその状況を準備したあの青年もなかなかの策士と言える。そしてその為にユリナは命は消えた。
「・・・あの子、すごいのね」
私の言葉にロテスタ―様がピクリと動いた。
「ロテスタ―様がここにいらっしゃる理由をお聞きしても」
「すでにお解りなのでは」
「詳しいことは何も。出来れば貴方の口から伺いたいのです。私を山で襲い、この場所から連れ去ったのが誰のことなのかご存知なのでしょう?」
「・・・彼は無事なのか」
「ええ・・・(多分)」
ノア様が何もしていなければ。
ロテスタ―は大きく息を吐くとその彼の名を口にした。
「彼の名はイリス。その姉は私が幼少頃から側に仕えているが弟の彼の事は5年前に知った。イリスは薬草採取を仕事の生業にしいる。だから、山に入る事も薬にも・・・」
「ロテスタ―様。その方がお嬢様を狙う理由はなんでしょう」
マルスが要点をさっさと話せとロテスタ―に圧を掛ける。
「・・・私のた」
「自己満足」
私はロイデンの腕の中からそう口にした。
「自分の為にこんなことをしたと仰りたいのですか? 貴方はそれを望んだ?」
「いや・・・しかし」
「彼は勝手に貴方の気持ちを汲んで勝手に動いた。それが自己満足でなくてなんでしょうか」
「ユリナ・・・」
ロイデンが心配そうにユリナを見つめる。
「ロテスタ―様の事を思うのならこんな行動は出来ない。そんな事をすれば貴方が困るし実際にそうなっている。大切な誰かを思って何かをしようとするなら、その人が笑顔でいてくれるようにしないと意味がない。ロテスタ―様はどうでしょう」
ユリナの記憶に彼女やローランドが幼い頃、王城にてロテスタ―様と遊んだ思い出を見つけた。子供だから無邪気に笑えた訳ではない。幸せだと感じて笑顔になれたのだ。
「今となってはロテスタ―様の笑ったお顔はとても貴重ですわね」
過去に戻る事は敵わない。失われた魂も戻ることはない。




