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対峙の時

 起き抜けの意識の中、目に見えた景色に私は思わず夢かと思い再び寝てしまうところだった。それをしなかった自分を褒めて欲しい。

 緑の木々の囲まれたその中の柔らかな草木の寝床。その場所からユリナは身を起こすと視線の先に見たことのあるブランコのソファががあった。 

「これってあの夢のパターン?」

 昨夜見た夢の精霊様がいた場所と同じような気がする。私は立ち上がりソファの場所へと近付いた。なぜか風もないのに揺れているブランコのソファ。

「ノア様?」

 ユリナの声にどこからか飛んできた鳥がソファの背もたれに止まる。きれいな鮮緑色の羽根。

「ユリナ、目が覚めたか」

 鳥に手を伸ばし掛けた私の腕を後ろから身体を抱きしめつつ止める滑らかな手。

「やはり貴方様ですか」

 私はノア様の腕から逃れようとバタバタと身をねじる。

「ユリナ」

 耳元で名を囁かれていい声だなと感心してしまった。

「いい声か?」

「えーと、心の声は拾わないようにお願いします」

「善処しよう」

 クスクスと笑う声が頭上から聞こえる。

 ノア様の腕からどうにか抜け出した私はそのままソファに座らされた。

「説明をお願いしてもよろしいですか」

「面倒なんだが」

「・・・嫌われたいんですか」

「そんな事で其方は私を嫌わないな」

 こんな乙女ゲー的なセリフが聞けるとは・・・心で租借する。

「ノア様。お願いします」

 仕方がないような表情をした後、ノア様は私の横に腰かけた。

「全ては其方のためだ」

「私のため?」

「これだ」

 その言葉と共に少し離れたところに人がドスンと落下した。

 誰だこの人? てっ言うか動かないけど大丈夫なのかな。見れば蔦でぐるぐると体を縛られている。

「えっと、生きてますよね」

 ノア様は頷いた。

「この者が薬を使って皆を眠らせ、其方をどこかへ連れて行こうとした」

 そう言えばご飯の後テントに戻ってからの記憶がない。

「みんなは」

「・・・無事だ」

 ちょっとその間はなんですか。疑いの眼差しでノア様は見た。

「言ったであろう。皆眠らせれたと」

「危険じゃないですか魔物がでるんですよ!」

「あー皆ではないな。あの其方の所の執事」

「マルスですか」

「その者だけは寝なかった。用心の為他の者と違う食事をしていた」

 さすがマルスである。

「では、マルスは私がノア様の所に居る事は知っているんですね?」

「いや、どうだろうか。丁度その者が其方を連れて行こうとしていた時魔物が近付いていたから、そちらの対応していた」

 だとしたら私がそこで転がっている人に連れ去られようとしたことも、それをノア様が阻止しここに居る事も知らないのかもしれない。

「本当にみんなは無事なんでしょうね」

 いくらできる執事だとしても一人で魔物の相手をするには限界がある。私はノア様を睨んだ。

「心配はいらない。あの男は其方が思っている以上に手練れだ」

 確かにそうかもしれない・・・私は安堵の息をついた。安堵したところで私は転がっている人を観察した。見た所ユリナよりも大分若い妹のセレサ位の歳でだろうか。私には見覚えがないがユリナはどうだろうか。私は瞳を閉じてユリナの記憶を探す。

「覚えのない者か」

 ノア様の声に瞼を開ける。

 なんだろう。見たことはないが見かけたことはある的な感じ。

 ソファの背もたれに止まっていた鳥がその場から離れ倒れている者の上を飛び回る。ノアの手が軽く空を払うと男に巻き付いていた蔦が解けた。

 鳥がその男の体に止まりそのくちばしを服をつつく。服の間からずるりと出てきた物の姿に私は覚えがあった。

 逃げるユリナを追いかけナイフを放っていた人物の姿。ユリナの意識とシンクロする前の俯瞰状態で見たその人はフードを被っていて顔は見えなかったが手にしていたナイフは目にしていた。そのナイフと同じ物がここにある。

 この人が!

 ソファから離れ私はその男に近付く。この人がユリナを・・・視界が溢れてきた涙でぼやける。なぜ、彼女を。どうして。フルフルと握りしめていた拳が震えた。

「ユリナ」

 ノア様の声に私はその拳で涙を拭う。そしてその男の胸倉を摑む。

「どうしてユリナを・・・」

 胸倉を摑んでいた手が力なく解け、男の体がどさりと地面に落ちる。私はその場からノア様の所へ戻った。

 自分の前に立った彼女をノアはそっとその腕の中に抱きとめる。

「全て、ご存知なのでしょう?」

 腕の中の彼女は小さい声でそう呟いた。

「それでも私の想いは変わらない。癪な事だがそれはユリナが想うあの男もきっと同じであろう」

 ノア様の言葉にユリナの身体はピクリと反応した。ロイデンも真実を受けとめてくれるだろうか。

 微かなうめき声が背後で聞こえ、私は後ろを振り返る。

 男性が身体を起こしつつ周りを見回していた。

「ここはどこだ・・・」

「私の庭だよ」

 はっとしたように声に方へと視界を向けた男が私の姿を見つけた瞬間ナイフを放った。そのナイフは私に届くことなく蔦に跳ね飛ばされる。それは一度でなく何度も繰り返され最後にはナイフの小山が出来ていた。

「庭を汚すな」

 ノア様がそう言うとナイフの小山は消えてしまった。

「・・・精霊までも味方につけて奇跡の花まで欲しがって、あんたはこれ以上何を望むんだ」

 ユリナの望み? そんなの私は知らない。彼女は私に何も見せてはくれないし話してもくれない。ただ、自分の替わりに生きて欲しいという思いだけは受け取ったから今私がここにいる。

「じゃ、貴方はなぜこんなことをするの? 私の命が消える事で何が変わり誰が幸せになる訳?」

 その人は真っすぐユリナに向けていた視線を逸らした。

 そう、誰かを犠牲にして得た幸せなど幸せなどとは言わない。ましてや命を奪うなど。

「貴方が幸せになりたいの?」

「そんな訳っ」

 しまったと言いう彼の顔にはまだ幼さが見えた。

「貴方が私の命を狙っている事をその誰かは知っているのかしら」

「あんたに話すことはない」

「もし、知ってしまったとしたらきっと確かめようとするでしょう」

 トーホー地方を離れる際に聞いた王都での出来事と第二王子が裁きの塔から出て行方知らずな事。繋がっているのかもしれない。

「そう言えばアマテナの第二王子が行方知らずとか」

「ノア様」

「これは私個人の情報網からだぞ」

 決して私の心の声を聞いたわけではないと? まあ、いいですけど。

 彼を見れば驚愕の表情に涙が零れていた。

「その涙は、己の愚かさに対してのものか。それとも主を思ってか」

 それはノア様の独り言。そしてその答えは彼にしかわからない。

 ユリナ・・・貴女は今、自分の命を奪った人を前にして何を思うのかしら。答えのない問いを私も心で呟いた。

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