似た者兄弟
ロイデンは翼馬を下降させつつ、新たな馬を手配できそうな場所を探していた。そんなロイデンの眼下、土煙を上げながら爆走する馬がいるのに気がついた。木々の間から垣間見えるその馬の背に乗っている人物、頭からすっぽり着込んだコートで容姿は見えないがその馬の乗り方にロイデンは覚えがあった。
「まさか」
思わず口にしてしまう程その動きは兄であるロテスターに似ていた。
そう思った途端ロイデンは確かめずにはいられなくなり、そのまま翼馬をその人物が走らせる馬の前にと下ろしていた。
「ヒヒィーン!」
急に姿を見せた翼馬に驚き、馬が足を止め乗っていた人物のコートがふわりととれる。
「兄上」
「・・・ロイデン」
王都から野営地に届いた手紙と先程カインから聞いた話が今のロテスターの行動を裏付けているようにロイデンには見えた
「お話しいただけませんか」
事実が知りたい。愛するユリナを守る為に。
「お前とここで立ち話をしている時間はない」
「多分ですが、兄上と俺が向かう場所は同じでは。ご一緒に乗って行かれますか」
ロテスタ―は一瞬躊躇したが彼もまた大切な者を守る為に急ぐ必要があった。この時でさえも。
暫くして2人を乗せた翼馬が空を翔け上がった。
「なぜ、私が前なのだ」
「兄上は翼馬に慣れていませんよね?」
「・・・」
普通の馬と違い翼馬はバランスをとるのが難しい。ロテスタ―は渋々ながら文句を言うのを止めた。
「では兄上、そのイリスと言う者が暗殺者なのですか」
ロイデンの前に座るロテスタ―の肩がピクリとする。
「そんな訳がない・・・」
「しかしローランド兄上はそう見ている」
「彼が手を下してしまったのなら、それは私の所為だろう」
「なぜです?」
「・・・お前は我々の出生の事をどこまで知っている」
「我々とは兄上や妹のことですか」
「他にいるのか」
呆れた様子でロテスタ―はロイデンを一瞥する。
「まあ、そうですね」
ロイデンは軽く笑った。
「で、どうなんだ」
「ロテスタ―兄上が誰の出生のどの部分を言っているかわかりませんが、俺にはさほど重要な事ではないので」
ロテスタ―は背後のロイデンに振り返り、体勢が崩れて翼馬の走りが乱れる。
「危ないですよ兄上」
ロイデンは翼馬を立て直し、ロテスタ―は前に向き直し息をついた。
「・・・そうだ。お前はそう言うやつだったな」
「貶してるんですか」
「褒めてるんだよ。私や兄上とは違い必要のないことは深く考えないとこ」
「もういいです。で、その出生が何なのです?」
「王と王妃の正当な子ははふたりしかいない」
反応がないロイデン。ロテスタ―は要らぬことを聞かせてしまったのではないかと思った。
「ローランド兄上と俺ですよね」
「知って、たのか」
「ええっ。おしゃべりな方々の内緒話の声が大きいのはご存知でしょう。それが確かなのか王にも確認しましたから」
面倒くさそうに話す感じは兄上や私と似ているとロテスタ―は鼻で笑った。
「私は王妃の子ではないうえに、王の子でさえないからな」
「それは・・・嘘です」
「はっ、嘘だったらどんなによかったか。正統なお前にはわかるまい」
「その話はどなたから? きちんと王に話を聞いたんですか」
「そんなの」
聞けるわけがないとロテスタ―は唇を噛みしめた。
「そう言うとこがロテスタ―兄上のダメな所です。色々考えているように見えて俺より考え無しですよね」
「お前な!」
「大体王の子でないのに王子と呼ばれる訳ないですよ。そんな話嘘に決まっています」
確かに通りかもしれないとロテスタ―は思う。王の子でない自分が王子を名のる事は出来ないだろう。なら私は本当に王の子なのだろうか。
「で、その出生の話からどう転がってユリナの暗殺に繋がるんです?」
話しを戻したロイデンにロテスタ―は首を横に振る。
「私にもよくわからない。だからそれを確かめ、行為を止める為に彼の元に向かっている」
ユリナに兄上や我々の出生など無関係に等しいはず、ロイデンは思考を巡らすがこれっといった答えが見つからず頭を傾げた。
「ところで兄上。その彼の居場所はわかっているのでしょうね」
「多分、ユリナ殿の近くにいると」
「それだけですか? では兎に角ユリナの元に急ぎましょう。もし、彼女に何かあったら俺は兄上を許す気はないので」
「それはイリスとて同じ事」
「兄上。ローランド兄上はこの件、何をどこまでご存知なのでしょうか」
「さあ。あの人の頭の中はわからない。わかる事と言えばユリナ殿への想いをこじらせまくった残念な人ってとこくらいかな」
「もう諦めてくれればいいのに」
ロテスタ―の背後からため息が聞こえる。
「恋愛的な想いは諦めてはいるだろう。お前とユリナ殿が婚姻した時に・・・ただ、兄上にとってはそれを差し引いたとしても彼女は数少ない友人になるし、それまで拒否すれば兄上は壊れる」
「否定する気はありませんが、ローランド兄上がユリナに対する態度は友人としての度を越しているような気がしますけど」
「私に言われてもな」
ローランド兄上の話の流れでロテスタ―は兄上が捕え、裁きの塔に入れられた者の事を思い出した。
「ロイデン。暗殺に加担した医師の事は聞いたか」
「いえ知りません。兄上の手紙にはそのような事は書いてなかった」
私が裁きの塔に幽閉される前、兄上がその医師との繋がりを訊ねた。しかし私はその医師の事は本当に知らない。その医師と繋がっていたのはアンリやイリスなのだろうか。私はふたりをわかっているようで本当は何も知らないのかもしれない。
「その医師は裁きの塔に?」
「ああ、兄上が」
「ではもはや虫の息か、こと切れているでしょう」
ロテスタ―は背筋が寒くなった。
「・・・君たちは間違うことなく兄弟だね」
「ないか言いました?」
「いや、モーリテス家はどこまで把握しているかと」
「先程カイン殿にお会いしましたが兄上の事はご存知でした」
「私が裁きの塔を出たこともか?」
「はい。それでも俺には全ては話していないでしょうね。ユリナに関する俺に必要な事だけ教えてくれた感じです」
ユリナを自分で守れれば間接的に暗殺に係わった輩はモーリテスが手を下す。ロイデンはそれでいいと思った。
「俺はユリナだけです」
この弟や兄、モーリテス家を敵にして何が出来るのだろうとこの件に関わっているらしいイリスの無事をロテスタ―は祈りたかった。
ロイデンも心から祈っていた。愛するユリナの無事を。そしてその腕に生きて再び抱きしめられるようにと。
翼馬は速度を上げて空を駆けていく。それぞれの願いをその背に乗せながら。




