王都に向かって
大きなほろ馬車に揺られ、私ことユリナ・モーリテスはその身をコートごと抱きしめた。
今から数時間前の早朝、私は宿でマルスから昨夜の王都での話を聞いた。ユリナを暗殺しようとした人物がロテスタ―第二王子と繋がりがありその王子が裁きの塔に幽閉され、そして逃げられたと。なんか一晩で展開が早くないですかって言うくらいだけど。肝心の暗殺者はまだ捕まっていないし、第二王子も行方知らずとなると私の身の安全が危ぶまれるので一刻も早く王都に戻る事が決まった。
帰ることに反対はしないのだけど、私としてはもっとトーホー地方を見て回りたかったな・・・と商談もそうだけど街ブラしてみたかった。まあ、しょうがないと諦めつつ帰り支度をしてさあ出発と思いきやマルスがにこやかに私の手をとって案内したのは宿の裏口。
「暗殺者の目を欺くため王族の馬車にはカイン様とセリーナ。ユリナ様と私は別の馬車でいきます」
その馬車がこの今乗っているほろ馬車、なんと乗り合い馬車です。私とマルス以外にも2人同乗している。なんかこっちの方が危なくないのとツッコミをいれたくなったけどマルス曰く、それなりの格好をしていれば問題ないとのこと。ちなみにマルスは商人風で私はそのお付きみたい服装をしている。道理で身支度の時、なんか不思議だなと思っていた。
「寒いですか?」
マルスが小声で聞いてくる。
「大丈夫よ。ありがとう」
同じく小声で返した私にマルスは小さく頷く。
私は己を抱きしめていた手を緩める。カイン達は大丈夫かしら・・・王族の馬車に乗って行った2人を案じる。おとりとまではいかないが狙われる可能性はゼロではない。無事の王都に着けばいいのだけど。
そんなことを考えていたら馬車の速度が遅くなったのがわかった。
「もうすぐマキハナ~マキハナ~」
外の御者の声がホロの中に届く。
「そこでひとまず休憩いたしましょう」
「平気なの?」
「休憩自体はおとり頂かないと・・・それに調達したい物もありますし」
私はマルスの言葉に首を傾げたが、漸くこの揺れと振動から少しの時間解放されるのだと思うとほっとした。それにマキハナという停車場も気になる。道の駅みたい所かな。外の様子は馬車の後ろの乗り降りする所のホロがない部分でしか見る事が出来ないし風が入って来てそれなりに寒い。これって暖かい所ならいいけどこのトーホー地方の寒い場所ではちょっと厳しいのではないのかな。もっとどうにかならないものか。私は身震いと共に再びその身を抱きしめた。
それなりに速度を出しながカインとセリーナが乗った王族専用の馬車は空を駆けていた。
「姉上が心配です」
窓から眼下を見ていたカインが呟く。
「・・・マルス様がご一緒です」
セリーナはそれ以上の言葉は出てこなかった。
「んっ?」
カインの視界が陰った。馬車よりも上空、太陽に雲でもかかったと見上げる。
勢いよく降下してきたそれにが馬車の横に並んだ。それとは王族の馬であり、この馬車を牽いている翼馬と同じであった。
「ロイデン王子!」
その翼馬に乗っていたロイデンが馬車の窓を覗き込む。カインは窓を開けた。
「ロイデン王子なぜここに」
「カイン殿か。ユリナは?」
馬車の中、ロイデンはカインの後ろを確認する。そこにユリナの姿はなく彼女について行ったメイドの姿があった。
「状況はどこまでご存じで」
「ロテスタ―兄上が幽閉されたと王都から連絡をもらった」
カインは素早く今の現状をロイデンに伝えた。
「・・・そんなことが」
「ロイデン様はこのまま野営地にお戻りください。そうでなければこの馬車に我々が乗っている意味がなくなってしまいます」
どこでみているかわからない暗殺者に姉上がこの馬車に乗っていない事を悟られるわけにはいかない。
「わかった。私は一旦戻るふりをして陸路からユリナの元に向かう」
「ロイデン王子駄目です。貴方が動けば事態が大きくなります」
そうでなくてもすでに第二王子が関与しているかもしれないのだから。
「私以外の誰がユリナを守る?」
その声色にカインははっとする。この方は今度こそ姉上を守りたいのだ。
「ですが」
「ご心配は無用です。私はモーリテス家当主ユリナの夫。それ以外の何者でもありません」
「・・・わかりました。姉上を頼みます、義理兄」
僕の言葉に王子の瞳が驚きで見開きそして嬉しそうに細められた。
「必ず、ユリナを守るから」
そう言い残して我々の馬車から離れていくロイデンの姿をカインは見送る。
窓を閉めたカインは大きな息をつく。
「カイン様?」
「これって後で僕がマルスに怒られる気がするんだけど」
セリーナの沈黙は肯定なのだろう。カインは己を納得させるように頷く。
「この場合は仕方がなかったと言うことにしておこう」
どうか、姉上に何事もなく我々の心配が杞憂に終わる事をカインは願った。
その思いを込めた視線をカインが窓の外に向けた時、一羽の鳥が馬車の周りを旋回し離れて行った。
停留所『マキハナ』は近くの精霊王ノアオークの古城がある森に向かう分かれ道の分岐点で、ここで馬車を乗り返る人が多い。
つい先日私がノア様に挨拶に伺った時は空から直に古城の側に降りたためこのマキハナは通らなかった。ノア様に帰る事伝えなくても大丈夫かしら? 多分大丈夫よね。精霊王だしこの状況もきっとご存じのはず。
「ユリナ様」
先に馬車を下りたマルスの声に促されて私も馬車を下りた。
軽く休憩を取った後、私はマルスに連れられある場所に辿り着いた。
「マルス・・・これで移動するのかしら」
「はい。馬車より早いですし自由が利きます」
その言葉に反応するかのようにそれは嘶いく。そしてその愛くるしい瞳にユリナを映していた。
私はユリナの記憶を探ると馬に乗り駆ける姿が浮かんだ。何でもできるなこの子と感心する。
「馬を乗り継いでいけば王都には早くて4日で着くかと」
馬1頭で休み休み普通に走らせて王都まで6日。それを2日も短縮・・・身体持つかな。馬を鼻筋をなでなでしながら私はそんな事を考えていた。
「ユリナ様」
私はマルスを見る。
「ユリナ様の身を案じつつもこのような手段でしか王都に向かう事が出来ない事をお許し下さい」
「謝る事ではないでしょう。これは貴方が考えた最善なのでしょうから。何事もなく王都の屋敷に着けばいい、問題はないわ」
マルスは俯く。
「貴方が考えてくれたことはサンと屋敷の者そうだけど、全て私やモーリテス家の為だとわかっているから」
そう、ユリナはちゃんとわかっている。決して当主としてひとりではない事。支えがあってそこにいられることを。
「・・・はい」
顔を上げマルスは優しく微笑んだ。
その表情を見ながら私はふっと思う。だけどユリナはその彼らに何も伝える事なく奇跡の花レインリナを探しに行った。なぜだろう? ああっ歌が頭に流れ・・・なん◯だろ~・・・懐かしいなあ。
「ユリナ様?」
私は首を横に振る。
ユリナことはわからない事ばかり。貴女は何をしたかったの? 答えてくれない彼女に問いかけた。




