状況確認と王子登場!
私は目を覚ました。
「ユリナ様?」
知らない女性が私の事を心配そうに覗き込んで見ていた。
誰?そう思った瞬間、頭に浮かんだのはユリナの世話をする彼女の姿。これって調べる時に使うあれに似ている。あっちは声だったけど。
「・・・サン?」
サンは嬉しそうに頷く。
「よく、ご無事で。体を起こせますか」
私は頭を微かに横に振る。
「毒が…まだ残っているのでしょう」
毒!? あぁ、彼女を狙ったあのナイフには毒が塗られていたのか。飛んできたナイフの一本にでも彼女は掠ったのかもしれない。
共に走って逃げた感覚を思い出す。そして気づく、彼女は死んだのだ。
誰が泣いているのか。目から涙が零れる。
サンがユリナの目尻を優しく布で拭う。
「辛い目に遭われて…きっと助かったのは奇跡の花のお蔭かもしれませんね」
彼女が大事に根ごと摘んだ花の事だろうか。確かにあの花の色は奇跡と称されるかもしれないが、そもそもなぜ彼女はあの花を採取したのだろうか。奇跡の花だから? いや・・・彼女はあの花を最初から探していたのだ。花を目にした時彼女が『見つけた』、そう声にしていたのを思い出す。
「レインリナならダンに預けましたからご安心を」
レインリナ=奇跡の花、ダン=植木や花々の手入れしている年配の男性の姿が頭に浮かぶ。
彼女の記憶が私を助けてくれていると感じる。じゃあ、私は?・・・彼女は私にこの体を任せ、何をして欲しかったのか。
答えがみつからないまま瞼が重くなってきた。
「・・・もう暫くお休みになって下さい。ロイデン様も明日にはこちらに着くでしょうから」
ロイデン・アマテナ・モーリテス。ユリナより歳が若い男性と彼女が共に並び、誰かを前に頭を垂れている映像が浮かぶ。
んっ、なんか見慣れないというか見てはいけないものを見たような気がしたが、眠気に押されてスルーしてしまった。この時の私を誰か叩き起こしてくれたらと思わずにはいられない程、彼とのファーストコンタクトは衝撃的なのもだった。
チャポーン。そんな効果音が聞こえてきそうな広すぎる浴槽。私青山楓ことユリナ・モーリテスは肩までお湯に浸かっていた。
「温泉…気持ち良すぎ」
浴槽の縁に仰向けに頭を乗せると自然と体が浮き上がる。
なんとか動ける様になった体をサンに支えてもらいながら浴室にきたが、お風呂があるとこで良かった。
サンは脱衣所で待機している。本当はユリナの身体を洗う役目もあったらしい。もちろん私は丁寧にお断りした。
浮き上がったユリナの身体の胸の突起部分がお湯から浮き沈みしている。
ユリナは35歳。若干痩せてはいるがなぜか胸はしっかりある。んー羨ましいなあ。それに何か身体を鍛えているのか腹筋が割れている。細マッチョと言われるあれに近いのか? でも女性としての柔らかさと丸みはちゃんとある。まあ自分で言うのもなんだけど理想に近い身体かなと思う。以前の私の理想は不◯子ちゃ~んであった。
私は体を浮かせながら瞼を閉じる。
ユリナ・モーリテス。名家モーリテスの当主。家族は母と弟・妹の3人。彼女が30歳の時、当主であった父親が亡くなりその跡を継ぐ。モーリテス家は貿易を生業として自国だけではなく他国にもその名を知られているほどである。その総資産は国の財力おも上回ると囁かれ、モーリテス家がこの地を離れれば国は亡びるとまで言われている。
その国の名はアマテナ。王都であるこの街は山と海に囲まれ温泉が湧く、静岡の熱◯的なとこ。城に現国王と王妃、3人の王子に末姫が住む。
次々に王子の姿が頭に浮かぶ。ふ~ん、そこそこ整った顔立ちをした王子様方だがキラキラオーラが無いしキュンキュン要素が見当たらない。というかゲームのキャラではなかった・・・反省。
3人の王子の1人に見知った顔があった。末のロイデン王子。昨日眠気に押されながら頭に浮かんだ彼の姿を思い出す。
「・・・着くって、サンが言ってたような・・・なんでここに?・・・」
意識が薄れていく。これってのぼせたのかな。体勢を直そうと頭を動かした瞬間、縁から頭が滑り落ち体ごとお湯に沈んでいった。
浴室の前、サンは微かだが音を聞いた。
「ユリナ様?」
返事はなく、扉に耳を押し当てるが静かなまま。サンは扉を開けようとするが鍵が掛かっていた。
「なぜ鍵を」
サンは迷った。誰かを呼べば彼女の姿を人にさらすことになる。
「ユリナ様!」
叫びに近い声が脱衣所に響く。
「どうなされたパパス殿!」
脱衣所の部屋のドアが叩かれる。サンはこの声に覚えがあった。急ぎドアの鍵を解除し扉を開ける。
白いシャツに上着を羽織り、腰に短剣を差したロイデンの姿がそこにあった。
「ロイデン様! 中でお嬢様が」
ロイデンはサンの視線の先、浴室の扉に向かって走りだし足で扉を蹴り開けた。
お湯が大きく揺らぎ、力強い誰かの腕が私の体を抱いて湯船からこの身を引き上げた。私の身体を抱きしめ、何かを叫んでいる。
唇に何かが重なる。微かに震えているそれには覚えがあった。
私は大きく呼吸をする。ふわふわする身体と意識のなか瞼を開ける。
彼は全身から湯気を立ち昇らせ、色素の薄い茶色の髪からは滴が零れ落ちている。そして碧眼が痛々しいほど誰かを見つめていた。その瞳に映っていたのは…。
「…ユリナ」
ロイデンの唇が安堵と共に彼女の名を愛しく紡いだ。
「王…子?」
私が言った言葉に王子の表情が曇るのが見えたと思ったら、彼は私の身体を抱えて浴槽からでるとそのまま浴室から外にと向かって歩き出した。
「ロイデン様! お嬢様にガウンを」
クラクラする私の頭にサンの叫び声が届き、ガウンがこの身に掛けれたのがわかった。
もしかすると、私は今生まれたままの姿でお姫様抱っこされてる? 何て羞恥プレイなの…魂が43歳でもこれほどの体験はしていない・・・。私は揺れる体を王子の腕に預け、あえて意識を手離した。