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それぞれの夜

 大きな羽音と共にロイデンを乗せたペガサスが夜の森を飛び立つ。

『ロテスタ―を裁きの塔に幽閉したことにより暗殺者に動きがあるかもしれない』

 ローランドから届いた急な知らせの内容にその一文それはあった。ロイデンは胸に言いしれぬ不安が湧きあがる。

 野営地に戻ったロイデンは王都から知らせを持ってきた者からペガサスの手綱を奪う。

「馬を借りるぞ」

「いけませんロイデン様!」

「私以外の者は今すぐ王都に戻りローランド兄上の指示に従え」

「ロイデン様は・・・」

 答えはわかっている。そう思ったのか従者は言葉を飲み込んだ。

 ペガサスは風を切り双子月が輝く夜空をロイデンを乗せトーホー地方に向け飛んでいる。

 ロイデンは手綱を握る手を見る。つい先ほどこの手に愛しいユリナのぬくもりを感じていた。2度と失くしたくないその想いで手綱を握り直し、視線を向かう先へと見据えた。

 

 トーホー地方、モーリテス一行が泊まっている宿の窓辺に一羽の梟が止まる。静かに開いた窓の隙間へ梟はその躰を滑り込ませた。

 マルスは梟の頭を優しくなでながら足についている小さな筒から紙を取り出し目を通す。

「成程」 

 何の感情も含まない言葉を呟く。

 部屋のドアがノックされる。

「セリーナです」

 マルスは梟をそのままドアを開ける。

「戻られましたか」

 セリーナは頷く。

「変わったことは」

 少し考えた彼女はマルスの耳元に何かを囁く。

「・・・それについては私があとで確認します」

 セリーナの姿を見届けマルスは部屋のドアを閉めると深く息をついた。

 数時間前セリーナからユリナ様の姿が寝室からいなくなったとの報告を受けた。宿を出た気配がなかったため空間移動をしたのだと考えられた。そんな事をする方は限られており私の頭は痛くなった。

 朝を迎える前にユリナ様がお戻りにならなければその方の元に乗り込み、奪還しなければならないと考えていたがどうやら戻られたようで、まあ若干問題があったみたいだがそれは様子見としよう・・・。

 王都からの連絡はローランド王太子がロテスタ―様を裁きの塔に幽閉されたと伝えてきた。多分、第二王子と暗殺者の何らかの繋がりがわかっての事なのかもしれないが・・しかし、動きが速すぎる。

 こちらとしては暗殺者が誰と繋がっているかまだはっきりとはわかっていない。その証拠をローランド様は摑み、それがロテスタ―様と関係があったと言う事なのだろうか。

 とりあえずこちらも用心しなければならいない。ユリナ様をお守りすることがこの旅での優先事項なのだから、なのにどなた様は勝手にお嬢様を連れ出すし本当にやめて頂きたい。

 マルスは手紙を書き、梟の足元の筒に入れ窓から外に放す。闇に見えなくなる梟の姿。窓を閉めたマルスは上着を羽織ると部屋を後にした。


 セレサ・モーリテスは自室のソファに座り、夫であるソニオの帰りを待っていた。

 夕方、ソニオが屋敷に戻ってすぐ城から呼び出しがあった。からこれ三時間は経つがまだ帰ってきていない現状にイライラしている。

 私はそっとお腹を撫でならゆっくり深呼吸をする。

「失礼いたします」

 ノックと共にパパスが部屋に顔をだした。

「ソニオは?」

「まだでございます」

「第二王子の事はすでに知らせが来たと言うのに、なぜ帰ってこないのかしら」

「今後の事をお話し合いでは」

「そんなの夜に決める事?」

「出来れば朝、国民が事態を把握する前に全てを決めてしまいたいお考えなのかもしれません」

「王位剥奪、国外追放・・・極刑とか」

「セレサ様」

「ない事もないでしょう」

「ですね」

 パパスの同意に私は頷く。

「・・・お姉様は許してしまいそうな気がするけど」

「どうでしょうか。お気をつけくださいね」

 パパスはホットミルクを私に手渡してくれる。

「うん。パパスはそうは思わないの」

「許されないと思います」

 パパスの言葉にセレサは彼女を見る。

「なぜ」

「許されざることだからです」

「そうね。自分の命と引き換えるぐらいの意志がないと・・・でも、あの王子にそんな覚悟があったのかどうか疑問に思う所もあるけど」

「王子のご覚悟ではなく、王子の為のどなたかの覚悟だったとしたら」

「ああ、頼んでもないのに先走ちゃったのねって話で・・・それやり切れないわね」

 もし仮にその話が確かなものだったとしたら、あの第二王子はどうするのだろう。王太子は? 私は甘いホットミルクをコクリと飲んだ。温かさが身体に沁み込んでいく。

「私もお姉様の為ならと行動するかもしれない。でも、それは喜んでもらったり笑って欲しいから」

「そうですわね」

「少し考えればわかるはずなのにね」

「・・・さあ、もうお休みなさいませ。お体に障ります」

「でもソニオが」

「セレナ様が起きて待っていらした方が心配されますよ」

 パパスの言う事ももっともなので私はおとなしく寝室へと向いつつ、胸の不安を口にした。 

「お姉様は大丈夫よね」

「マルスもカイン様もお側におります。大丈夫ですよ」

 優しく私の肩に置かれたパパスの手がベットに導く。

 ベットに入った私にパパスが聞いてきた。

「お尋ねしたかったのですが、生まれてくるお子様のお名前を皆様で決まると仰っておりましたが、そこに奥様は入ってないようでしたね」

「私も大概自由にしてるからとにかく言うのもどうかと思うけど、あの人の奔放さは好きじゃない」

「お気持ちはなんとなく・・・」

 セレサは頷きベットに沈めた。

「おやすみなさいませ」

 サンは別の使用人にセレサ様を任せ部屋を出て本館へと戻る途中、気配を感じ足を止める。裏方の使用人が影に紛れて立っていた。

「何事」

「第二王子が塔を出ました」

「出た?」

「はい。おひとりです」

「尾行は」

「ついています」

「わかったわ」

 気配が消えてサンは再び歩き出す。

 あの裁きの塔からは簡単に出る事は敵わないはずなのに・・・誰かが逃がした。そう考えるのがいいだろう。では誰が? 急ぎマルス殿に連絡しなければ、先程飛ばした梟もまだ戻ってきていないのに次から次へとすることが途切れない。

 私達はユリナ様とモーリテス家を守る事、それ以外考える必要はない。害をなすものは排除する。それが王族であれ国であっても変わりはない。

 サンの頭にユリナの笑顔が浮かび、緩みそうになる頬の表情筋を引き締め足を速めた。

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