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夢の中? 愛しき人のぬくもり

 どこかで耳にしたメロディが耳元を通り過ぎていく。このメロディはあの小部屋で聞いたのと同じ? 私はゆっくりと瞼を押し上げた。

 目の前の水面には双子月の姿が写って輝き、時折吹く風がその姿を揺らす。

 背中の暖かさに私は顔を上げる。

「あっ起きた?」

 この状況に私の眉間にはしわが寄っていたのだろ、ロイの指先が眉間を伸ばす。

「これは、夢?」

 ロイはにっこり笑うと眉間から手を退かし、私の身体を後ろから両腕でぎゅっと抱きしめた

「こんな夢なら毎晩でも」

 私の頭の中では?マークが浮かんでいた。確か宿のベットで眠りに着いたはずで、まさか寝ぼけてロイデンの遠征先まで来たわけでないと思いたいのだけれど・・・この状況はそれを否定できないでいた。

「ちなみにここはどこです」

「アマテナとカナンの国境近くにあるアオ瑚」

 耳元話すロイデンの声がくすぐったく私は身体を捩る。

「もう少しこのまま・・・」

 この状況にツッコミを入れるマルスやサンが居ないせいか王子は私の首元に顔を埋める。

「ロイデン様」

「ロ・イ」

 すぐロイデンは訂正する。

「ロイはどうしてここに?」

「貴女を想って眠れなくて、見回りを兼ねて足を運んだこの場所でまさか本人に会えるとは」

 嬉しそうにロイデンは自分の頬をユリナの髪に押し当てる。

「ユリナはなんで?」

 その答えは私も知りたいのだけど。まあ、考えた所で私的には答えが出そうにないのでその辺は諦める事にしました。

「さあ、なんででしょうね。私も貴方に会いたかったのかもしれませんね」

 瞳の端に見えたロイデンの嬉しそうな表情が胸にキュンとする。

 ロイデンの手が優しく私の頬の向きを自分の方へと引き寄せ口づけする。唇が離れると再びロイデンの腕が強く私を抱きしめるた。

 その姿が湖の水面に鏡のように映る。

 この腕があの日のユリナを止める事が出来ていたら・・・過去は変えられない。わかってはいるがあの日の記憶を知ってしまった私の心はモヤモヤしている。

「ユリナ、気分が優れない?」

 ロイデンが悪い訳ではない。でも、もし遠征に行っていなければ・・・彼女の側にいたら・・・たられば論でしかないけどそう思ってしまう。

「今度は、ちゃんとそばにいてくださいね」

 ロイデンは意味が分かったのだろう力ずよく頷いた。

「もちろんです。必ず貴女を守ります」

「・・・まあ、状況に応じての対応をお願いします。何もないのに遠征先からトーホー地方に来ちゃダメですからね? わかりましたか」

 固まったロイデン。あー、やろうとしてたねこの方。

「ロイ?」

「何かあってからでは遅いです。その前に貴女のそばにいなくては」

 この人も私とは違うけどあの日ユリナの側にいれなかった事に対する胸の痞えがあるのだろう。

「・・・心配をかける事はもうしませんよ」

「その言葉を信じていいのですか」

「信じるか信じないかは、貴方次第」

 どこぞの都市◯説のようなセリフになってしまった。

「ユリナを信じないという選択は僕にはないです」

 それもどうなのでしょうね王子よ。

 私はロイデンの頭をポンポンした。相変わらず王子なのに髪の毛がぱさぱさなのね。遠征先とはいえもう少しお手入れした方がいいと思うのですよ。それでも柔らかい髪を指先に絡め遊ぶ。

「ユリナ・・・」

「あー、そうでした。トーホー地方に着いた事を手紙に書いて送ったので読んで下さいね」

「僕に?」

「そうですよ。貴方が心配していると思って」

 ロイデンの髪を触っていたユリナの手が彼の手と重なり、その手がロイデンの頬へと移動する。

 ユリナの手の平にロイデンは頬ずりする。

「もっと貴女に触れていたい・・・」

 ロイデンの頬は少しひげが伸び駆けているせいかちくちくしていて私の手はくすぐったかったのだが、彼に後ろから抱きしめられ座っている格好で私は身動きが出来ずにいた。

「ユリナ・・・」

 熱い吐息と共にロイデンの口づけがユリナの首元に跡をつける。あまい痺れに彼女の身体が震えた。

「んっ、ロイ」

「うんわかってる・・・」

 絶対わかってないでしょう! 

 遠くからロイデンを呼ぶ声が聞こえた。

「ロイ、貴方を探してるわ」

「僕には聞こえないっていうか聞きたくない」

 気持ちはわかるけどね・・・取りあえず離れようか?

 段々と近付く声にロイデンはため息をつき立ち上がった。

「ユリナ」

 手を出し延べられたロイの手を借り、私も立ち上がる。

 多分だけど私の姿がここにいたらダメというかおかしいのよねきっと。どうしようかと考えていると繋がれたままの手がギュッと握られた。

 ロイデンの顔を見上げれば『どこにも行かせない』と瞳が訴えていた。

 私は少し背伸びをしてロイの頬に口づける。

「きちんとお仕事してください。また、屋敷でお会いいたしましょう」

「ユリナ」 

 流れてきた雲が双子月を隠すと辺りが一瞬暗くなる。

 握っていたはずのユリナの手がすっとなくなるのがロイデンにはわかった。

 再び雲から姿を見せた双子月と輝く湖。そこにユリナの姿はない。消えてしまった彼女の手の温もりと己の右手を見つめるロイデン。

 走り寄る足音。

「こちらにお出ででしたか、ロイデン様」

「・・・何か、あったか」

「はっ、王都のローランド皇太子から急ぎの知らせが」

 従者は手に持っていた筒をロイデンに渡す。

 ロイデンは筒より中身を取りだし、そこに書かれている事に目を通す。

「そんな・・・ロテスタ―兄上」

 先程ユリナの手を握っていた同じ手でロイデンは用紙を強く握りこんだ。


 暗闇に目が慣れたころ私は辺りを見て小さなため息をついた。

「ここはどこでしょう?」

 確実にさっきと場所が違う事はわかる。しかし、何度も言うけど私寝てたんだよね? これこそ本当に夢の中なのかな。

 きれいな庭園。私の好きな映画『秘密の花園』に出てくるような・・・庭の奥、ブランコ的なソファに身を揺らせながら寝ている知った顔を見つけた。

 ノアオーク様。と言う事はここは彼の住まいなのかな。しかし、なぜロイの所からここに? 本当にさっきと言い今と言い訳がわからない。これは立派な安眠妨害です!

「そうは思いませんかノア様」

 私は小刻みに身体を震わせているノアオーク様に声をかけた。

「くっ、なぜわかった」

「普通に笑ってましたけど」

「それはすまない。そなたの呟きが楽しくてな」

 ノアオークは自分の場所にとユリナを手招く。

「・・・ここはノア様のお住まいなのですか」

「住んでいる訳ではない。立ち寄り場所のひとつだ」

「私がここにいる理由をご存じですか」

「さあ」

「私、寝たいんです」

 おっと、これは大胆発言となりましたが意味が違います。ノア様が案の定声に出さずに笑っております。おもいっきり笑ってくれた方がましなんですけど・・・。

「もとい、宿に戻りたいです」

 再度、ノアオークはユリナを手招く。

「ここに来れば戻れるぞ」

 私は仕方なく彼の側へと行き、その横に腰かけた。

 ブランコの揺れが心地良く、そして懐かしさを感じる。その心地良さにユリナの瞼は段々と下りてゆき、静かな寝息と共にその頭をノアオークの肩へと乗せた。

「あきれたものだ。私の想いは知っておるだろうに・・・」

 そっとユリナの髪先を手に取り口づける。

「しかし、まさかあの王子の元へと行くとは・・・これも想い合っての事か」

 ノアオークは己の胸元に手を置く。

「ここが痛く感じるとは・・・おかしなことだ」

 寂しそうな小さな呟きがユリナの耳元をかすめ静かな庭園に消えていった。

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