商品開発からの夢の中へ。
宿に戻った私、ユリナ・モーリテスを待っていたのは店頭販売張りのプレゼンでした。
雪の精の織った布はそれはひんやりを通り越して極寒の寒さを感られる品であり、鬼が作る陶器は確かに頑丈で壊れにくいのですが重さがヘビー級で持ち運びが難しいものでした。
「これが、魔除けの人形?」
影の薄い黄泉人のひとりが私に手の平に収まる位の大きさの人形を渡してくれた。
何て言ったらいいのかな・・・元の世界にもあった怖かわ系的な感じの人形とでも言うのだろうか。色白な女の子? が少し微笑んでいる風。魔除けと言うより呪い?
「どんな風に魔除けになるのかしら」
黄泉人が私に向かって何かを呟くとバシッと言う音と共に手の中にあった人形がボロボロになって消えた。
マルスが黄泉人を抑え込み、カインがユリナの側に駆け寄る。
「姉上」
「大丈夫。マルスその方を放して」
マルスは黄泉人を離し、私の側へと立つ。
「効力は立証出来たけど」
黄泉人の方は魔除けも出来るけど呪いもかけられるのね。でもこの世界で魔除けのニーズってどのくらいあるのかしら? そんなに簡単に呪われちゃう訳?
「これってどこで使うものなのかしら」
「王都や街にいる時は余り必要はないと思いますが、商人や旅をする者たちは魔物と遭遇する場合もありますから欲しいと感じるはずです」
この世界案外物騒なんだと弟カインの言葉に私はそう思った。
「魔除けの力を込めるのにはこの人形でないといけないのかしら」
私の問いに黄泉人はそうではないと力なく首を振り、
「デモ、ソバニナイトダメ」
と、消えてしましそうな声でそう言った。
お守りみたいな感じかな・・・でも、そんな簡単に物に魔除けの力を込められるのかしら? 黄泉の人達大丈夫なのかな。
「魔除けの力を込めるのにどの位の時間と体力の消費がかかるのカイン」
カインは手元の資料を確認しながら、
「えっと、時間はひとつの人形につき手をかざすだけで体力的疲れはないそうです・・・ただ、人形作りの方が時間が掛かるみたいですね」
黄泉の人=亡くなっている方かもしれないけど疲れもないのかしら?
「かざすだけって、どの位?」
カインは首を傾げる。
私は自分の髪から外した髪留めをテーブルに上に置く。
「これに魔除けの力を込めて頂ける?」
黄泉人はそっと髪飾りに近付き手をかざしたと思ったら、すぐ元の立ち位置に戻って行った。
「えっ、終わり?」
カインがそう言ったのもわかる。時間にして2秒位。
「時間はわかったし、力を込めるのも人形にこだわらなくていいのだとしたら作るのに時間が掛かる人形より他の別の物に変えた方がいいかもしれないわね」
黄泉人は頷く。
「イシ」
「? イシって石」
私の言葉に今度はカインが頷く。
「成程。確かに黄泉には石が沢山あります。川が流れているので河原があって」
それって、三途の川の事じゃないよね。
「・・・使ってもいいくらいの量があるのかしら?」
「多分、使い切ることは出来ないと思いますよ」
以前見たのであろう光景を思い出しながらカインが呟く。
「では、そうしましょう。それと人形の代わりに小さな袋を作ってその中に魔除けの力を込めた石を入れるのはどう?」
「いいですね。石そのままより持ち運びにいいし、見栄えもいい」
まさにお守り。
「ではカイン、その方向で作業を進めて。一応出来上がったものを後で見せてくれる?」
「わかりました姉上」
「ユリナ様。あとの品はどうなさいますか」
「そうね。雪の精の布はベストや上着に変えたら火を使う仕事場の人達に使って貰えるようになるかもしれないわね。鬼の陶器は・・・丈夫なのはいいのだけど重さがね。取り敢えずその辺の改良が必要でしょう」
「わかりました」
こうして商品のプレゼンは終わり、私はテーブルに置かれたままの髪飾りを手に取ろうとしてマルスに先を越された。
「セリーナ」
マルスは控えていたセリーナに髪飾りを渡し、セリーナは髪飾りを受け取ると私の髪につけた。そうでしたこういう事は自分ではしないのでしたね。
この髪の色に合う髪飾りはロイからの贈り物だと言う事をユリナの記憶から観て知った。まだ婚姻をする前、彼女の誕生日に送った品。きっとあの隠し部屋にあった音の鳴る箱もそうなのだろと思う。愛し愛される者たちか・・・んっ? これ誰かのセリフだったような。
「どうかなさいましたかユリナ様」
「ロイの事を考えてたわ」
この場の空気が固まったような気がするけど、なぜかしら?
「・・・左様でしたか。多分あの方の事ですから変わりなく遠征先で活躍されていると思いますけど」
「そうね」
「心配? 姉上」
「何を?」
カインの問いに真顔で返してしまった私。
「何をと言われてもですね・・・一応国境の見回りですし、それに魔物もいない訳ではないですしね」
「別にその辺は心配していません。あの方も剣の使い手ですし、余程の相手でない限りご自身を危険に晒すことはないでしょうから」
と、ユリナは思っていると思う。
「それよりカイン」
「えっ私?」
「近頃、剣の稽古をしていないとか」
カインがマルスを見るがマルスはそ知らぬ顔。
「仕事が忙しくて」
「食前と食後、どちらがいいかしら?」
訳がわからずカインは首を傾げつつも答える。
「前でしょうか」
「では、マルス支度を」
「畏まりました」
「まさか稽古?」
弟よ、私もまさかとは思ったがユリナが身体を動かしたかったようです。
「その後のお食事はきっと美味しいですよ」
マルスのセリフと微笑みにカインと私の表情は引きった。
剣の稽古の後、心地良い疲労感と共に眠りに着いた私は夢を見ていた。
二つ月の月光が夜の森にある湖の湖面を照らし、私はその畔に立っていた。
(ここはどこ?)
ユリナの記憶を探すが見当たらない。まあ、夢なら知っている場所とは限らないので何でもありかな。私はその場に座り、静かに輝く湖を見つめる。そしてなぜか夢なのに眠気が襲い、船を漕ぎ始める。
これって別の意味で二度寝って言うのかしらなんて半分眠りかけた頭で考えていたら、暖かい温もりが背中から私を包み込んだ。
「ユリナ」
この声は・・・。確かめようとしたけど閉じてしまった瞼は睡魔に勝てずに持ち上がらない。それでもその名前だけは紡ぐ。
「・・・ロ、イ?」
「これは夢?」
そう、これは夢なのでしょう? だってあなたは遠征先にいるはずだから・・・優しく抱かれた腕の中に身をゆだね私は夢の中で眠りに落ちた。




