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ロテスタ―の闇

 アマテナの宮殿、ロテスタ―は自分の部屋の窓から遠くに垣間見える屋根を見つめていた。

 ノックの音と共に声が掛かる。

「ローランド王太子様入室」

 ロテスタ―が振り返るとローランドはすでに部屋の中、ドアの前に立っていた。

 詰まる声をロテスターは絞り出す。

「兄上が、私の部屋まで足を運ぶなど余りありませんのに何かございましたか?」

 ローランドはそのまま窓際に立つロテスタ―の側に歩み寄り窓の外に視線を向ける。

「ここからでも例の塔は見えるのだな」

「・・・どの塔でしょうか」

「裁きの塔」 

「微かに屋根の一部が見える位ではありますが、そうですね」

「昨日塔に入れられた者については聞いているのだろう?」

「話だけは伺いました」

 弟であるロイデンの妻であり、モーリテス家の当主ユリナの暗殺に加担したと思われる人物が裁きの塔に入れられたと言う報告は受けた。

「王都で医師をしていた方とか。暗殺の件、本当なのでしょうか」

「利用された可能性は高いが、赦される事ではない」

 兄上は表情を変えぬまま窓の外を見つめている。

「ご処分は?」

「もはや虫の息。命尽きる前にもう少し話を聞くことが出来ればいいのだがな」

 いつも緩い感じの兄上の姿はそこにはない。

「そこまで厳しくされるのは、例の方の為ですか」

 ローランドの口の端が少し上がる。

「それだけではないけどな」

 私にはそれだけしかないように感じるのだが、敢えて口にしない。

「ところで、少し気になる事を耳にした」

「どのような事でしょう」

「お茶会後、お前がユリナと会っていたと」

「ユリナ様がお帰りになる際に偶然お会いいたしましたけど、その時の事でしょうかね」

 ロテスタ―は大きく息をつく。

「たまたまお会いして、お茶会の後でしたがお声がけしないのも失礼ですし少しお話をしたまでです。それを噂されるとは」

「・・・話の内容は言えないのか」

 ローランドの声がとても低くロテスタ―に問う。

「確かお付きの者も付けずにおひとりだったので、お気をつけてお帰りなさるような話をした気がします」

 内容に偽りはない。ただ、話の全てではないだけ。兄上がなにをどこまで知っているか知らないが私から口にすることはない。

「お前にロイデンのような実直さは無いのだな」

「お言葉ですか、それは兄上も同じかと」

 お互いの顔をチラ見して、ふたりの視線は再び外へ向く。

「あっそうだ。お前に婚姻話が出ている」

「はっ?」

 ロテスタ―の視線のみローランドに戻る。

「母上、王妃の戯言を放っておくわけにもいかないと、王がお決めになった」

「戯言とは・・・」

 ローランドがロテスタ―の耳元に呟く。

『ロイデンとユリナの子を王宮に』

「僕が席を立った後のお茶会での話の内容だ。お前が知らないとは、言わないよな?」

「・・・そのお話をどこで」 

「次期王となる僕を甘く見過ぎてはいないかロテスター?」

 兄上が見せる軽薄な態度は周りの目を欺くためだと私は知っている。だが隠された兄の本性をきっとこの城の中、私以外わかっていない・・・いや、ユリナ様は知っている気がする。だからこそ兄上が今も執着し続けるのかもしれない。

「ロテスタ―。僕にも奇跡の花の情報を教えてくれるかい」

 残酷なほど優しい微笑みを浮かべたローランド。ロテスタ―はその笑みに部屋の空気が冷たくなったのを感じた。

「・・・私は自分が聞いたレインリナの話をお教えしただけです」

「その話は誰から聞いたの」

「私の元に薬草を届けてくれる薬師から聞きました。多分ですが、その薬師も人を使って山で薬草を集めているので、話の元はそこかと」

「そもそもなぜその話をお前にしたのかな。見つけたとしても黙って売り払うか何かすればいいものをお前に伝えたのは、探していたのがお前だからではないのか」

「確かに探してはいましたが、それはここ最近の事ではなく前々からです。私自身奇跡の花の研究をしたくて、もしあったら教えてくれとお願いしていました」

 ローランドは少し考えに耽った後、

「・・・それを、お茶会でのリリィの話もあってユリナに話したと?」

 やはりこの兄上は自分が席を立った後のお茶会の会話を把握しているし、私の行動や会話も全て知っている。

「はい。まさかその話でユリナ様がそのまま山に向かわれるとは思いもしませんでしたが」

「ふ~ん」

 ローランドがロテスタ―の瞳を覗き込む。

「本当に彼女が山に向かうとは思わなかった訳? 頭の回転が速いお前が少しも?」

「・・・兄上がお疑いになるのもわかります。確かにもしかしたらとの考えは浮かびましたが、まさかおひとりで向かわれるなど私でさえ思いもしませんでした」

 そう、あの方は私の想像のひとつ上をいったのだ。

「まあね。僕でもそう思うよ。でも、肝心な事をお前はまだ話してないよね」

「何の話でしょうか?」

「ユリナがなぜ山で暗殺されそうになったのか。暗殺者はなぜその山に彼女が居ることを知りえたのか。お前は知っているんじゃないの」

「そんなの知りま・・・」

 ロテスタ―の言葉が詰まる。 

 私は暗殺者の事など知らない。でも、ユリナ様にレインリナの咲く山の話をしたことをある人物にこぼしてしまったかもしれない。

「どうしたロテスタ―?」

「私は知りません。これ以上兄上にお話し出来る事はないですよ」

「そうか・・・」

「はい」

「残念だね」

 ローランドの視線の合図で出入口に待機していた警備兵が扉を開ける。そこには兵士が立っていた。

「兄上・・・これは」

「あの場所で一番いい部屋だと思うから安心して。でも、状況によっては待遇は変わるからね。僕も弟に酷い事なんてしたくないから、話す気になったら早くいって欲しい」

「こんなことが許されるはずがありません!」

「お前が真実を話さない事は許される訳?」

「私は隠してなど、兄上こそ私情を挟み過ぎではないのですか」

「私情? 広い意味で家族を守ろうとしてるだけだ」

 ロテスタ―は二度目の大きなため息をついた。

「とても偏った家族構成ですよね」

「それでも守らなくてはいけない、それが王太子である私の務めだよ」

「ご立派です。兄上」

「私は、お前も守るよ」

「なにからですか?」

 呆れ気味にロテスターは問いかけた。

「アマテナの血脈から」

 ロテスタ―は瞳を見開き、息を飲んだ。

 ローランドはそんな弟の肩にそっと手を置く。

「僕もお前も真っ新な純血などではあり得はしない。それにこだわること次第違わないか?」

 私は首を横に振る。

「純血でなくても、一線を画さないと。それを兄上に理解していただこうとは思いません」

「ロテスタ―・・・」

 兵士によって連行されていくロテスタ―を見送るローランド。

 弟の胸の底に垣間見えた闇にローランドは目を伏せた。

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