アマテナ建国記と絵師ルテイカ
王都と違いまだ春に遠いこのトーホー地方のひんやりとした空気が気持ちよく街を包む・・・てっ言うか寒い。私は用意された馬車の前で身体を震わせた。
「やはり外出はお辞めになった方が」
「大丈夫よマルス。中と外の温度差が違い過ぎただけよ」
私はさっさと馬車に乗り込んだ。せっかく本屋に行く機会を逃したくない。
ユリナ達三人を乗せた馬車は宿を後にした。
到着したのはこじんまりとした木造二階建ての本屋。
棚に並べられた本を前に私は息をついてしまった。あるとは思っていなかったがやはり無かった漫画本。モーリテス家の書庫にないだけで本屋には置いてあるかもしれないと少し期待していたのですが無理だったようです。物語もないのかしらと目を凝らし店内を歩くのですが・・・例の執事が側を離れません。
「マルス。1人で本を見て回りたいのだけど」
「私の事はお気になさらず。お探しください」
いや、落ち着いて本が探せないし見れないから。
「カインは?」
「採掘に関する本をお探しの様でしたが」
「採掘・・・」
ユリナの記憶の中のカインは鉱石や宝石関連の仕事を担っていた。
「勉強熱心ね」
「お嬢様は何を?」
「物語とかないのかしら」
「・・・子供が読むような、ですか?」
「大人が読むようなもの」
マルスが思考を巡らせる。
「ない。と思われます」
ない・・・ってみんなそれで平気なの?! SFやファンタジー、恋愛にBLその他多くの物語が読めない人生&生活なんて悲しすぎる。私はそれにゲームも入りますけど、ここの世界の人はこれが普通なのかな。だとしたら少し勿体ない気がする。
大人になってもいや、大人だからこそ非現実世界に想いを馳せるのではないかしら。んっ?! 今気がついたんだけどここでは馬が(ペガサス)が空を駆け、精霊が存在して鬼とか黄泉の方までいらっしゃるような。という事はここがその非現実・・・いや夢の世界。だとしたら物語は必要ないのかもしれない。だって要は自分の近くでそれらと共存しているのだから。
「ちなみに子供が読む物語はどんなもの?」
マルスはざっと見た棚から一冊の本を選び私に手渡した。
「アマテナ建国記」
本気? 私はマルスを二度見した。
「当家の書庫にもございますよ。ちなみに初版本です」
強調するとこはそこなの?
「建国記ってアマテナがどうやって国として誕生したかのお話よね・・・」
パラパラページをめくる私の手が綺麗な挿絵の所で止まる。
「初代アマテナ国王のソルアエル殿の姿絵です」
ここでユリナの記憶にあるアマテナの成り立ちのお話はこんな感じ。
~はるか昔、精霊と人とそしてそうでない者達が存在し、互いに干渉することなく過ごしていた。しかし些細な諍いごとを境に大きな衝突が起きこの地は荒れていく。そんな状況を危惧した人がいた。その人こそがのちの初代王ソルアエルである。この地に生まれ、この地にいるすべての者たちの幸せなる居場所を創ろうとした。それがこの国の始まりで、ちなみにアマテナとは彼の母の名からとったと言われている。そして今に至る~
多分本にはもう少し詳しく書かれてはいるのだろうが、ユリナの方は興味がないのかこれ以上のものは出てこない。私自身も申し訳ないのですがスルーさせて頂きます。
ところでこの挿絵のソルアエルさんはとても若くイケメンに描かれていますが、大昔で誰も見たことがないからと増し増し状態で描かれてません?
「この挿絵の信憑性はどのくらいあるのかしら」
「100%です」
私の疑問の表情が露骨に顔に出たらしくマルスが答えてくれる。
「精霊たちはソルアエル殿にお会いしてますから」
嘘をつかない彼らは見たままの姿を語りそれを絵師が書いたと言う事らしい。本当にこんな人いるんだ・・・今度、ノア様に聞いてみよう。
建国記を棚に戻し、他の本を見て回るうちに気がついたことがある。それは挿絵がとてもきれいな事とそしてどの絵も同じタッチで描かれていると言う事。もしかしたら同じ人が描いている? そう思った瞬間、ユリナの記憶にある人物について掛かれた書物の記載が浮かぶ。『人と精霊の間に生まれた絵師ルテイカ』その書物に本人の姿絵は描かれていないしここ数年はその姿を見かけた者はいないと言う。
「ルテイカ・・・」
「最近は新しい書物にも絵を描かれていないようですね」
「会ってみたいわね」
マンガ描いてくれないかな。
「どうでしょう。ルテイカの存在自体、今はっきりしていませんから」
「それって」
まぼ◯し~って感じ?
「はい。もはや伝説の領域です」
「最後に会った人とかは?」
マルスは首を横に振る。
「それって、問題じゃない」
「ですが、残されていたメモに『旅に出る』とあり、そこまで問題視されなかったようです。それにその後旅先で描かれたと思われる絵が何点か出まわっていましたから」
なるほど。でも今は行方知れずと言う事か・・・んっ? 素朴な疑問が頭に浮かぶ。ルテイカの性別がわからない。精霊には性別の括りはないはずだが、ハーフではどうなるのだろう?
「マルス」
「はい」
「・・・ルテイカに性はあるの」
「精霊と人の混血という事もあり一概には言えませんが、その姿を知る者の話では男性の姿をしていたとのことです」
男性と聞いてノア様の顔が浮かんだ。だって知っている精霊は彼しかいなかったから。多分あんな感じなのかなって。だとしたらそれなりの顔立ち・・・きっと旅先でも目立つと思うけどな。
「彼の新たな作品が見られないのはとても残念ね」
マルスは頷き、
「大分前の事ですがお嬢様のお姿を描いていただけないかとお願いしたことがございます。その時にはすでに旅に出た後らしくお返事はいただけませんでしたが」
「・・・ちなみに私のどんな絵を描いてもらうつもりだったの」
「ユリナ様がモーリテス家の当主に就いた時です。なので僭越ながら書庫にあるお嬢様の絵は私が描かせていただきました」
いや、あれでもすごいと思うけど・・・マルスって何でも出来るんだね。サンとかみんなそんなにスキル高いのかな。
「いつか再びルテイカの絵を目にする時がくるといいわね」
マンガは無理でも四コマなら描いてくれるかもしれない。そんな淡い期待を込めて私は本屋さんを後にした。だって読みたいんだもの。




