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ロイデンは思案中、ローランドは追及中

 ロイデンは自分用の野営テントに入ろうとして足を止め振り返る。

「どうかなさいましたか?」

 後ろに控えていた側近も周りを確認した。 

「いや・・・風の音だろう」

 ユリナの声が聞こえたような気がした。彼女を思い過ぎて幻聴まで聞こえるようになってしまったのかと少し自分を心配してしまう。

 夜空を見上げる。ユリナはすでに夢の中であろうか。この遠征が終われば彼女の全てをこの身に抱く事が出来るかもしれない。まあ、あまり期待はしていないが・・・なぜ、彼女の周りはこうも自分に厳しいのかがわからない。俺がユリナを傷つける事など決してないと言うのに・・・。

 小さく息をつき、ロイデンはテントの中に入って行った。

 野営テントの中はいたって簡素である。折り畳み式の机と椅子、そして就寝用のハンモックがあるだけ。

「なにかお飲みになりますか」

「いや、いい。このまま休むから其方ももう下がれ」

「はい。では失礼致します」

 側近は一礼してテントを出て行った。

 ロイデンは着ていた上着のボタンを外し、椅子に座る。

 アマテナから馬で約2日かけて足を運んだこの地は隣国カナンとの国境に近い。今現在カナンとは友好関係を保ってはいるが、この先どう転ぶかはわからない。その理由のひとつにカナンの姫との縁談話がある。その話を断ったのは紛れもなくこの俺であるので言い訳はしないが。

「・・・もし、俺の中に彼女への気持ちがなかったら、言われたと通り隣国に行ったのかもしれないけど」

 そんな状況を考えられないくらい自分の心はユリナでいっぱいで、この瞬間にも彼女をこの腕に抱きしめたくてたまらない。

 ユリナは北のトーホー地方にいる。この場所からだとどんなに急いでも3日はかかる。俺は側に置かれた地図を広げた。

 ロイデンの瞳がトーホー地方の都市ホクティを地図上に探し、ここからその場所までを指で辿る。

 ユリナの説得がなかったら俺は彼女と一緒だったろう。本当は説得に納得をしたわけではない。ただ、彼女を俺の事で困らせたくなかった。今の自分にとって王族や王子などどうでもよくもっと言えばモーリテスも関係なくユリナの側にいたい、それだけ。

 自分でもあきれるくらい彼女を独占したいし愛したいと思っている。きっとユリナは困るかもしれない。けど、彼女は俺がきちんと言葉や態度に出さないとわからないし気づいてくれないと思う。だから、愛を囁き抱きしめる。

「ユリナ・・・」

 この腕にユリナを抱きしめ口づけをしたのは彼女がトーホー地方に向かう朝のこと。その時の肌のぬくもりを思い出すと身体が熱くなった。

 アマテナでは婚姻を行うまで男女の営みは基本ありえないし、自分に至ってはユリナとの口づけも婚姻式の時に初めてした。漸く彼女に触れる事の出来た喜びは今もなお忘れられない。

 ふと、ユリナはどうなのだろうかと考える。営みは勿論俺が初めてだと思うが、口づけは? 一瞬兄ローランドの顔が思い出される。あの兄なら何か理由をつけ彼女の唇を奪っていそうである。

 ロイデンは頭を横に振った。

 信じている。というか彼女があの兄に隙を見せるはずがないと思う。

 ユリナに口づけをしながらシルバーに近い金色の髪に触れると、その柔らかな手触りにうっとりして口づけが深くなる。髪と同様に柔らかな彼女の身体を思い出し、下半身が疼く。

王子であるがゆえにそう言う行為をすることはあまりない。全くしない訳ではないが今は遠征中でテントの中、しない方が賢明だと思われる。なので、気持ちを落ち着かせるため他の事を考えてみる。

 自分は未経験だが兄達はどうなのだろうか? ローランド兄上は多分違う。何度か側近を連れ夜中王宮を抜け出しているのを見かけているので多分そう言う事なのだと思う。本当の所はわからないが・・・違っていたら謝る。

 ロテスタ―兄上・・・5つ歳が離れているがそれとは関係なくこの兄の事はよくわからない。長子と違い表だって感情を出すことはなく、かと言っておとなしく傍観している訳でもなく言いたいことは言う兄。ただ、それが本心なのか偽りなのかつかめない。わかっていることはユリナ即ちモーリテス家を良く思っていない節がある。どうしてそうなったのか・・・考えられるのは俺が彼女と婚姻したからかもしれないが、いまいちその理由がはっきりしない。

 ローランド兄上とはいつもユリナとの事で喧嘩腰で、ロテスタ―兄上は得体が知れない。自分がこう思っていると言う事は多分ふたりもなにかしら俺にあるんだろうけど、気にしないというか気にならない。俺にとって大切なのはユリナだけなので、親兄弟になにを言われても平気なのだと言える。

 ロイデンは再び机の地図に目を向ける。

 どんなことがあっても今度こそ俺はユリナを守る。愛する人を失うかもしれないあの時の思いは今でも俺の心を凍らせる。どうしたら彼女の元に行けるのだろうか・・・。

 真剣に地図と向き合いだしたロイデンの下半身は冷静さを取り戻していた。


 王宮の地下、ローランドは並んでいる牢屋から離れた場所で中の様子を窺う。牢屋には1人の男の姿。

 男が人の気配に気が付き、か細い声である言葉を繰り返す。

「私は頼まれたものを用意しただけで何も知らなかったんです・・・家に帰してください」

 ローランドは側いた守衛に視線で合図を送る。守衛は牢屋の男に近付く。

「誰に頼まれた」

「・・・」

「家に帰りたくはないのか」

「私は頼まれたものを用意しただけで」

 ローランドの手にした鞭がヒュッという音と共に鉄格子を叩き、男の身体が跳ね上がる。男は王都で医師をしていた。

「・・・お前の命を軽んじるつもりはないが、罪に加担したと言う意識は持つべきだ。知らなかったのなら堂々と真実を話せるだろう。それが出来ないのはなぜだ?」

 薄暗い地下で男から声の主であるローランドの姿は認識できていない。ただ、姿なき声が男を追いつめていた。

「あの人が私に嘘をつくはずがないんだ・・・私は頼まれたものを用意しただけで何も知らなかったんです」

「頼まれたものが生命を奪うものだとわかっていただろう」

「・・・愛しているから、彼女の為に僕は」

 ローランドは牢屋に近付き、怯え切った男を見下ろす。

「それは愛じゃない。そんなのは愛とは言わない」

 男はローランドを睨む。

「お前になにがわかる!」

「なら、わかるように話してみろ。貴方の言う愛とその女ことを」

 唇を噛んだ男はローランドから目を逸らす。

「残念。時間切れだ」

 肩をすくめたローランドが牢屋から離れると入れ違いに屈強んな男たちが鉄格子の前に立ち並ぶ。

「あとは好きにしてくれ」

 地下から地上に繋がる扉をローランドが閉める瞬間、この世の終わりの様な叫び声が聞こえた。

  

 

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