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精霊様にご挨拶。彼は全てを知っている?

 森の中に建つ古城。

「会いたかったぞ」

 深緑色の髪をなびかせ、漆黒の瞳を輝かせながら、トーホー地方の精霊ノアオークはユリナをその胸に抱きしめた。

 トーホー地方に到着後、この地を守護している精霊であるノアオークの元をユリナ達は訪れた。セレサに祝福をしてもらおうと浮かんだ精霊の方がこの方だ。

 そして冒頭で私は彼に抱きしめられた。これは挨拶の一環なのよね・・・それにしては密着度を半端なく感じるのは気の所為かしら?

「ノアオーク様」

「なんと他人行儀な。私と貴女の中ではないか」

 ユリナの記憶にあるこの方とは間違いなく他人であり、2人はそんな仲ではない。ユリナがモーリテス家の当主になる前から、父親と共にトーホー地方を訪れた際には挨拶に伺ってはいたらしいので全く知らない仲ではないかもしれないけど。これはどうなんだ。

 私はノアオークの腕から離れるようとするが彼はその腕を緩めてはくれない。こんな時マルスが側にいればどうにかしてくれるのに、残念ながらマルスとカインは別室で待機中なのだった。

「ノア様、おやめください」

「ユリナが怒った」

『ク◯ラが立った』的に感じで言うのやめて欲しい。

「暫くぶりに会えたのにつれないな」

 ノアオークはその腕からユリナを離しながら、彼女の頬に口づけする。

「心配していたのだ。一時そなたの命の灯が消えたのを感じたのでな」

 消えたのはユリナの命。

「それは、ご心配をお掛け致しました」

「いや、こうして元気な其方に会えて安心した」

 ノアオークの黒い瞳が私を見つめる。黒い瞳・・・なんかひさしぶりに見た気がする。

「どうした?」

「いえ、少し感慨に浸ってしまいました」

「・・・そう言えば、この間そなたと会ったのはあの末の王子と一緒になる前か。てっきり私の元に来るのだと思っていたのに、悲しい」

「お戯れを・・・」

「戯れでそのような事言いはしない。私は本気だ」

「ノア様」

「あー、わかってる。ユリナの想いは人あの王子だけというのだろう。だが、人の気持ちは変わるもの。気長に待つさ」

 いや、待たれても。なんかローランド王子とこの方といい、ユリナの周りにこんな人多いな。

「今日は私からの祝福を受けに来たのだろう。妹のだったな」

「はい。もうすぐ子供が生まれますので、セレサとお腹の子にと」

 ノアオークは頷くと両手を胸元に置き、瞳を閉じる。淡い光がノアオークの全身から手に集まり、両手の中に光の玉が現れた。それをどこから出してきたのかきれいな小さな箱に入れるとユリナに手渡した。

「そして、そなたにも」

 黒い瞳が近付き、ノアオークの唇がユリナの唇に重なる。

 すぐに離れたその感触に私は思考が止まる。

「幸せになるんだぞ」

 スパーン! ユリナの右手がノアオークの頬を打った。

 精霊恐るべし。油断も隙もありません。

「行いとお言葉があっておりません」

 頬をさすりながらノアオークは笑う。

「そんなところもやっぱりすきだ」

 私は深いため息をつくしかなかったが、彼の次の言葉に身が震える。

「・・・そなたはあの王子のためにそこまで生きたかったのか」

 彼の瞳が私を見つめる。全てわかっているかのよう・・・。

「ノア様」

「少し、妬けるな」

 淋しそうな表情に私は思わず彼の頭をポンポンしていた。

「そなたのそういう所は嫌いだ。私の気持ちを弄んでいる」

 自然にしてしまったのだからしょうがない。

「お気持ちを弄んでいるつもりはありません。ただ、ほっとけなかったので・・・」

「そのような事を言うのではない・・・無理やりにでもそなたを奪ってしまいたくなる」

「私が嫌がる事を貴方がなさるとは思いませんが?」

「油断はしない方がいい。私も一応は男なのだから」

 ノアオークの優しくも熱のこもった瞳がユリナを見つめる。

 ここにロイデンがいたらきっと大変な事になっているのだろな。私は思わずその様子を想像し微笑んだ。

「私の本気も王子には敵わないか」

「・・・心を読んだのですか?」

「そなたの顔を見れば・・・」

 そんなに顔に出てましたでしょうか。すいません。

「ユリナ」

「はい」

 私の頬をなでるノア様の手は男の手とは思えない程すべすべしていた。

「そなたが誰を想おうと私の気持ちは変わらぬ。わかったか?」

 わかったけど、それに応える事は今もこれからもないと思う。

 ユリナは彼の側からそっと離れるのと同時に、名残惜しそうにノアオークの手もその頬から離れた。

「ノア様。ありがとうございます」

 私は祝福の入った小箱を胸に抱く。

「貴方の祝福をこの身に感じながら、これからロイデンと共に生きて参ります。ノア様に心からの感謝を」

 きっとこの方はずっとユリナをこの地から気にかけ見守ってくれていたのだろう。そのことがわかるから彼のユリナに対する本気も簡単にスルーできない。

「ノア様のお気持ちを私は忘れる事ありません。私が生きている限り」

「・・・その気持ちだけで今は良しとしておこうか。私の愛しいユリナ」

 ノアオークはユリナに笑みを向けた。

 そのノア様の笑顔にこれが乙女ゲーだったなら、ここでセーブしてノアを攻略対象に変更するのにと考えてしまった私です・・・反省します。

「オトメゲー、セーブ・・・コウリャク?」

 私はコクリと喉を鳴らした。

「何かのまじないの言葉か?」

「心を、読んだのですね」

「読んだのではない。聞こえてくる」

 いったいどんな基準で聞こえるんだろうか。これも聞こえているのかな・・・。

「気にすることはない。心の音が少し外に零れただけ。楽しい事やそうでない事は外に流れやすいからな」

 楽しい・・・キュンキュンを満喫したゲーム。

「どうした?」

「・・・楽しかったし、懐かしいです」

 ノアオークはユリナを見つめる。

「ノア様?」

「先程も思ったのだが、其方良く表情を変えるようになった。これもあの王子の所為だとしたら少し悔しいな」

 ごめんなさいユリナ。モーリテス家当主としての威厳を私は壊しているかも。

「でも、いいことだ」

「えっ?」

「喜び・怒り・哀しみ・楽しむ。そなた達が生きていくのに必要な事だから・・・それらを出さない、出せない生き方は心を苦しくさせる・・・きっかけは何にしろ今の其方の心は自然だ」

 それは私がユリナではないから・・・でも、私は変える事は出来ないし、彼女を幸せにすることが私の目標なのでこのままでいこうと思います。

「・・・私は私です」

 ノアオークは深く頷く。

「其方の思うがままに」

「はい」

 私は満面の笑みをノア様に向けた。

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