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誰が為の祈り、胸に抱く思い

 王宮の謁見の間から出てきたロイデンは小さく息をついた。父でありこの国の王であるグルブリング王に遠征に向かう挨拶を今終えたところである。

「ロイデン」

「ロテスタ―兄上」

 ロイデンのすぐ上の兄であるロテスタ―に近付く。

「父上への挨拶は終わったのかい」

「ええ」

「じゃこれから遠征だね」

「ええ」

「・・・行きたくないみたいだけど」

「ええ」

 ロテスタ―は面白そうにロイデンの顔を覗き込む。

「君がこんなに遠征を嫌がっているのを見るのは珍しい」

「そんなことは・・・」

 ロイデンはロテスタ―から顔を逸らす。

「私も意外だったよ。君はユリナ嬢と共に行くと思っていたから。彼女に説き伏せられたかい?」

「兄上にお話しするような事はなにもありません」

「随分、モーリテスに飼いならされたみたいだね」

「兄上こそ、お言葉にお気をつけください」

「これは失礼した。モーリテス家はこの国にとってお金のなる木。大切にしないと」

 ロイデンの手がロテスタ―の胸ぐらを摑もうとした時だった。

「ロテスタ―」

 ローランドの声がロイデンの動きを止め、開いた謁見の間の扉からローランドが姿を見せた。

「・・・先程から王がお待ちだ。さっさと中に入れ」

 ロテスタ―はロイデンを一瞥し謁見の間に入って行った。

「ロイデン」

「はい」

 ロイデンは俯く。

「俺たちの喧嘩は兄弟げんかだ。でも、そこに彼女が入ったら話は違くなる」

「はい。気を付けます」

「それと、元気で行ってこい。ユリナの為にもな」

 顔を上げたロイデンだったが、ローランドの姿はすでに扉の向こう側に消えていた。

「・・・行って参ります」


 モーリテス家の当主であるユリナと執事頭のマスルが留守の間、屋敷を任されるのはサンである。ユリナの妹セレサと義理の弟のソニオが居るが、子供がいつ生まれてもおかしくない状況に置いてそんな2人に屋敷の事を任せる事は難しい。

 執務室でセレサとソニオが書類に目を通していると、ノックと共にサンが入ってくる。

「お茶の時間でございます。セレサ様は今日のお仕事は終わりですよ」

「まだ大丈夫よ」

「いけません。ユリナ様から言いつかっておりますので」

 セレサは口を尖らせるがユリナの事を出されるとおとなしく言う事を聞く。

「お姉様がお戻りになるまで絶対産まないわ」

「それは、どうなのかな・・・自然なことだしね」

 ソニオはサンの入れてくれたお茶とお菓子で休みながら愛しい妻であるセレサに微笑む。

「いいえ。この子もきっとお姉様を待って生まれて来ると思うの。だってお姉様が大好きな私の子だもの」

 サンが頷きかけたが、ソニオの視線に気づき動きを止めた。

「セレサ・・・僕たちの子でしょう?」

「種はね」

「セレサ様」

 サンの低い声の呼びかけ。

「失礼。だから、気持ち的な問題。夫ならその辺をわかってちょうだい。それともソニオは自分だけがこの子の出産に立ち会えればいいと思っている訳?」

「そんなことは思っていません。僕も皆さんと一緒がいいです」

「でしょう。マルスやサンに屋敷のみんながいる時がいいわね」

 セレサは大きなお腹をさすり、その様子を見つめるソニオ。

 お子様の為に今は穏やかに過ごされることが一番。そのお子はきっとモーリテス家をそしてユリナ様を共に支えてくれる存在となってくれることでしょう。んっ? どなたかの事を忘れているような気がしますが私的には何の問題もないのでよしとしましょう。

「サン」

「はい」

「この子の名前どうしょうかしら」

「はい?」

「私としてはお姉様につけて頂きたいのだけど」

「セレサ。姉上はお忙しいのだから僕たちが候補を幾つか考えて、お選びいただくのがいいんじゃないのかな」

 ソニオ様の必死の攻防である。

「どう思う? サン」

 私はどうしようかと思いつつセレサ様にある提案をだした。

「皆様で一緒にお考えになればいいのではありませんか?」

「みんな?」

「はい。ユリナ様を始めカイン様にセレサ様とソニオ様、奥様にもお声がけしてみてはいかがでしょうか」

「お母様はいいわ。そうね、みんなで考えてみましょう。良いわよねソニオ?」

 ソニオは軽く息をつき、仕方なさそうに頷く。

「僕のセレナ。君の思うままに」

 セレサ様にソニオ様が敵う訳がなく、あっさりこの要件は片付けられた。だが、なぜ奥様は候補から外されたのか少し気の掛かる。そしてまたしても名もあがらないどなたかがいましたが、ここもまたよしとしましょう。

 サンは執務室の窓から見える空に、トーホー地方に向かっているであろうユリナの身を案じた。

 モーリテス家の温室の人目につかないその奥、レインリナは咲いていた。

 庭師のダンはその花の様子をじっと見つめている。

「お嬢の為にも、そしてお前さんの為にも頑張って増やさないとな。好き好んで奇跡の花になったわ訳じゃないのに・・・すまねぇ」

 ダンは手の拳に力を込めた。

「お嬢がお前を守ったようにわしもお前を守る・・・だから、お嬢を守ってやってくれないか」

 優しい視線と共にダンはレインリナにそっと触れた。


 一人の男の手の平の上に広げられた布の上、一枚の白い花弁が置かれている。

『私の願いはただ一つ』

 耳元に残る言葉。

「白い、アマテナのまま・・・我が君の思い必ずや」

 男は白い花弁を布に包み、胸元の仕舞う。そして机の上に並べられたナイフを服の至る所に仕込んでいく。最後のナイフを仕舞うとマントを羽織り、部屋を見回すと静かに部屋を後にした。


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