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ペガサスの馬車に乗って移動中 後編

 ペガサスに牽かれた馬車の中、呆れた視線がユリナに向けられていた。

 私はロイとの出来事を同乗している弟のカインと執事のマルスに話した。で、その2人からのこの視線である。

「姉上。その、『時間をつくる』との意味はなんでしょうか」

「・・・そのままの意味だけど」

「カイン様。この方ははっきり言わないとわからないと思いますので私から申し上げます。ユリナ様、その時間を作るとはお嬢様がロイデン様を寝屋にお呼びすると言う事なのでしょうか」

 あれ? 私なんか間違ったのかしら。意味としてはマルスの言うと通りなんだけど・・・いけなかったの?

「そこまでは考えていなかったわ・・・」

 嘘です。考えてました。でも、弟はともかくマルスの目線が怖いから嘘言いました。

「当主であるユリナ様がどなたかの為に時間を作ると言う事は本来ならあってはならない事です。ユリナ様に合わせて他の方が時間を作るのが正しい事。もちろんこの場合王族の方々は省きます」

「でもロイは」

「モーリテス家でのロイデン様はユリナ様の配偶者。当主であるお嬢様の夫という認識でございます」

 なので王族云々は通用しないと。

「そんなに堅苦しく捉えることもないんだけど、現に姉上は僕やセレサの為に時間を割いてくれているしね」

「当主としての立場を考えております」

 まあ、言いたいことは何となくわかったけど・・・そうなるとトーホー地方から戻った後の事を考えておかなくてはならない。絶対ロイは期待しているよね。あっでも、ユリナから声をかけるのはいいのよね。なんかやる気満々みたいな感じしてますけど、違いますから。ただ、やっぱり離れた分だけ側にいてもいいのかな、なんて思ったりしたんです。

「・・・でも、もう口にしてしまったことをなかったことにするには」

 マルスの瞳がキラリと光ったように見えた。

「その辺はどうとでもなりますので」

 あーそうですか。じゃもう謝っておきます。ロイ、ごめんなさいね。時間は作れそうにありません。

 カインが可哀相な視線を私に向けながらも話を変えようと両手をパチンと合わせ鳴らした。

「姉上。もうすぐ生まれるセレサのお腹の子にトーホー地方でプレゼントを探しましょう」

「そうね・・・なにがいいかしら」

 私はユリナのトーホー地方に関する記憶を探す。

「エルフからの祝福・・・」

「ああっそれはいいですね。セレサやソニオも喜びます」

「では、あちらに着きましたらお会いできるように手配しておきましょう」

 ちょっと待ってください。私の口から自然にエルフとか出ましたけど、いわゆる妖精さん? でも、ユリナの記憶にあった感じでは羽を付けた小さな人ではなく、なんかキラキラした美人さんでしたが。と言うかこの世界、ペガサスだけでなくそういうのも存在してるんだね・・・。

 妖精と言えばピー○ーパンのティ◯カー・◯ル、ぐらいしか出てこない。確かその姿を見れるのって子供の時だけだって話だったような・・・ここでは大人でも見れるの? わからない事が多すぎる。一度、屋敷の書庫にある歴史書を読んでみようかな。

「そう言えば、今回の仕事は新たに売り出す商品の品定めだったわね。品全体の数はどの位?」

「3つです」

 鞄から取り出した書類をマルスは私に手渡してくれる。

「ありがとう」

 受け取った書類に私は目を通す。私は三枚の書類を何度も見直してしまう。

「マルス・・・」

「はい」

「・・・これは本当の話よね」

「もちろんですが、何か間違いでもございましたか?」

 マルスとカインが私の手元の書類を覗き込む。

「これと言って・・・間違っているところはないようです」

 カインも頷く。

 私は再び書類に目をうやる。そこに書かれていたのは私には?のものばかり。

 ①雪糸で織られた布

 ②魔除けのお守り人形

 ③鬼火の陶器

 えっと、これはむかし話にでてくるような題名です。

「ユリナ様」

 私の戸惑いがわかったのかマルスが声をかける。

「・・・実際に商品を見てみないとわからないけど、とても興味深いものばかりね」

「そうなんですよ姉上。僕のお薦めは③の鬼火の陶器なんです。鬼たちが作る陶器で頑丈で壊れにくく、輸送に破損が少なく広く売り出せるかと」

 鬼、なの。

「私は①でしょうか。雪の精が紡ぐ糸で織られた布がそれは美しくなめらかでひんやりと肌を包みます。きっとユリナ様のお気にめすかと」

 雪の精・・・。 

「②魔除けのお守り人形は?」

 カインとマルスはお互いの顔を見合せた後、視線を逸らした。

「言えないような商品を売り出す訳?」

「いえお嬢様、決してそのような事は・・・ただ」 

「ただ?」

「人形の容姿が少し怖いのではないかと僕は思っています」

 マルスの言葉を引き継ぐようにカインの言葉が続いた。

 怖いにも色々あるけどどんな感じなのだろう。見たいような見たくないような。

「そうなの・・・でも売り出すのならその辺りも改善して売り物にしていかないと、作り手の方々に申し訳ないわ。えっと」

 私は手元の人形の書類を見る。

「作り手・黄泉人・・・」

 黄泉ってあの世の事でしたかね多分。

 私は身体が震えた。もちろん武者震いです。

「とにかく、相談していきましよう」

「わかりました。そのようにいたします。それと、ユリナ様」

「うん?」

「これから先、絶対おひとりでの行動はしないでください。私かカイン様のお側にいるように」

「・・・入浴とか、憚りは」

「事前の確認はさせて頂きます」

 面倒くさいというか、急にトイレに行きたくなったら大変だな。

「いいですか、ご自分のお命が狙われていると言う事をお忘れにならぬようお願いいたします」

「大丈夫ですよ。僕たちが側にいますし、姉上もお強い。ただ、黙ってどこかに行かれるとどうにもならないので、その辺は姉上お願いいたします」

 軽く弟から釘を刺された。けど、状況によってはしょうがない場合もあるって事を弟よわかって下さい。でも、出来ればそうならないように祈るばかりです。痛いのも怖いのも苦しいのも遠慮したいので。

「わかりました。そうしましょう」

 私はカインとマルスに向かって笑顔を見せると、2人とも頷いてくれた。

 馬車の窓から見えていた街は過ぎ去り、緑豊かな山々に姿を変えていく。 

 ユリナとしての私の初仕事がこれから待っているのと同時に、この命を守って無事に帰らなければいけない。ふっと、ロイの笑顔が浮かんで私は泣きたくなった。

 大きく深呼吸した。さあ、旅が始まる。

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