双子月の輝く夜に
小さな二つの月が空に昇り切った深夜。
ユリナの自室の寝台の上、私は眠りから目を覚ました。
「・・・なにか、聞こえる」
私は半分寝ぼけたまま寝間着の上にローブを羽織り部屋を出た。
王宮、ローランドの執務室。
ランプの明かりの元、机に向かうローランドが書類をめくる音だけが部屋に聞こえる。
ノックと共に扉が開き、従者と共に父であり王であるグルブリング王が姿を見せた。ローランドは席を立つ。
「このような時間にお訪ねとはいかがいたしましたか父上」
「お前こそこんな夜更けにまで仕事か」
「目を通しておかなくてはいけないものがありました。もう終わりますから休みますよ」
「剣の・・・稽古をしたそうだな」
誰ととは言わないのがこの人である。
「ユリナと私は今も昔も変わらずですから」
「今は、ロイデンの妻だ」
「私の友です」
弟のロイデンとユリナの婚姻が決まった時、私は父に詰め寄った。
1年前、玉座の間。
「どういうことですか! ロイデンとユリナを婚姻させるとは。弟には隣国の姫との話が出ていたはず」
荒々しく部屋に入ってきたローランドは王の玉座に座るグルブリングに詰め寄る。
「そう言う事だ。ふたりを一緒にさせる」
「なぜ・・・今更。これまでモーリテス家とアマテナ間の婚姻は一度もなかったではありませんか」
「ローランド。ユリナ嬢はモーリテス家の当主。いずれは誰かを伴侶として選ばなくてはいけない」
「それがなぜロイデンなのですか。他の者でもよかったでしょう? 別に王族でなくても」
グルブリングの瞳が冷たくローランドを見る。
「お前がそれを言うか」
「私が、なんです」
「彼女に他の男が近付く事を許さなかったのはお前であろう」
「ユリナは私の大切な友ですから」
「ならその友の婚姻を喜び、祝ってあげなさい」
「彼女は承諾したのですか。モーリテス家にとっては何の益にもならないこの政略結婚に」
「・・・政略ではない」
「どういうことですか」
動揺を隠しきれないローランドの姿にグルブリングの胸は痛む。
「この婚姻はユリナ嬢が望んだもの。だが周りを納得させるために政略だと思わせる」
ローランドの瞳が揺れる。
「望んだ・・・ユリナが」
「そうだ」
「ロイデンを。・・・私は自分の側からユリナを離すつもりはありません」
グルブリングは静かに頭を横に振る。
「お前の気持ちを彼女は知っている。そしてその答えを彼女はすでにお前に出しているはず」
「だとしても、私は彼女を失いたくないのです。素の自分を受け入れてくれるのはユリナだけ」
「友とはそう言うものだ。いいたいことを言い合い、時には相手を想い喧嘩し励ましあう」
ユリナを想う気持ちをすでに友と呼べなくなっていることをローランドは自分の中でわかっていた。そして彼女の自分に対する気持ちも。
「詭弁です。でもそうしなければ彼女が私の側にいてくれないのも事実・・・私はこれから先、弟の妃となった彼女の姿を見続ける事になるのですか」
「ユリナ嬢はモーリテス家の当主、アマテナには嫁がない」
「では、ロイデンはいずれ・・・」
「いつになるかはわからないが、王族から出る事になる」
「弟はそれは承知で?」
「話してはいない」
「なぜです」
「いずれロイデンは自らユリナ嬢のためにそれを選択することになるだろう」
「彼女をこの国から守る為に、弟は気づくと?」
「王族としてではなく、彼女の夫して側にいたいと思えばな」
ローランドは自分の胸に手を置き、服ごと握り摑む。
自分が今の立場ではなったとしたら、ユリナの隣にいたのは私だったのだろうか。もっと素直に想いを伝えられて、それに彼女は答えてくれたのだろうかと。
ローランドは静かに首を振り、手を下ろした。
「ユリナは自分で決めたのですね」
「・・・そうだ」
「なら、私が何か言う事はありません。それに婚姻をしようとも私の友であり幼馴染みなのには変わりはありませんから」
「ローランド・・・」
「・・・お願いです。私から彼女の全てを奪わないでください」
「善処しょう」
ローランドは執務机の上の紙を束ねる。
「・・・父上の予見は当たりましたね」
グルブリングは黙ってローランドを見ている。
「弟は自分で答えを出した」
褒めてやるべきなんでしょうけどね。その小さなローランドの呟きは王の元には届かない。
「なぜすぐ賛成を?」
ローランドはクスリと笑う。
「今から話し合いを持たないと、ロイデンはいつになっても王族を抜けられませんよ? それに」
「それに?」
ユリナを守るためにも。
「・・・いえ」
ローランドは窓に近付き夜空を見上げる。
双子月が輝く。
月明かりが窓から廊下を照らす中、私は寝ぼけたまま歩いていた。
寒くもなく暑くもない。心地良い夜の空気が身体を包み込む。
「・・・何か聞こえたんだけどな・・・ふぁ~」
欠伸を一応手で隠す。
「うん?」
足を止め耳を澄ます。オルゴールが音を奏でているようなそんな音が聞こえた。
「時計かな、それとも・・・」
私は背筋が寒くなり、眠気が覚めた。
テレビで心霊番組を観るのは好きだけど、実体験はお断りしている私です。あっ、でもこの世界に来る前に火の玉ぽっいのに遭遇してる。でもあれは怖くなかったし、ゲ◯ゲの鬼◯郎さんや妖怪は平気って言うか好きな方。
大きく深呼吸し私は音が聞こえる方へ歩き始めた。
音を頼りに辿り着いたのは書庫の前。
私は書庫の扉に耳を当てる。
「ここよね・・・とりあえず入る?」
自分に確認して扉に手を掛けた。
書庫の中、書棚の前に首を傾げている私がいた。
「これって隠し棚って言うのかな」
棚の後ろから音が漏れ聞こえてくる。
だからさあ、私に謎解きは無理なんだってば・・・どうするのこれ。
とりあえず棚を押してみるが動かない。じゃ手前に引っ張るがこれもダメ。私は腕を組んで考え込んだ。
隙間なく並んでいる棚だが何個か置きに棚は無く、座って本を読める椅子と小さなテーブルが置かれている。どうにかしたい扉の横も棚は無く小さな脚立の様なテーブルが置いてあった。
「もういいか。眠いし・・・夜中こんなところにいるのサンにわかったら怒られそう」
それでも聞こえてくる音から離れがたく、私はそのテーブルにお行儀は悪いが腰を下ろした。
カチャ、ガコ。
「へっ?」
見れば棚がそのまま後ろに下がっている。
テーブルを退かし、その足元の絨毯を撫でてみる。微かに窪んでいるところがあり、そこに丁度テーブルの脚をはめて押すと棚が動く仕掛けになっているようだった。そしてその棚を引き戸の様に引く。
そこには上へと伸びる階段があった。




