郷愁、香る白い花
王宮の庭園をユリナとロイデンは手を繋ぎ歩く。
リリ姫との話の後、ロイが戻ったので私は共に帰ろうとしたら、
『一緒に庭を見てから戻ろう』
と、誘われ私はなぜか素直に頷いていた。若干リリ姫の視線が痛かったけど。
本当はすぐにでも屋敷に帰ってさっき姫様から聞いた事を皆と共有し、これからの話をしたかった。
ユリナが実際に花を取りに山に行くかはどうかはわからないはずの所を、暗殺者を仕向けた者はユリナが確実に行くと考えそこを狙った。ん~なんでユリナの行動がわかった?
レインリナの話を一緒にしていたのは王妃様とロテスタ―王子の2人。リリ姫は多分、暗殺については関与していないじゃないかと・・・思いたい。
マルスの姿が少し離れて私達2人の背後についていた。マルスの事だからリリ姫との会話をあの場にいなかったのに聞いていそうである。いや、100%聞いて知ってる。ちらりと後ろのマルスに視線を向けると微笑まれた。聞くのが怖いよ。
ロイが急に足を止めたので、私はそのまま彼の体に突っ込んだ。
「ごめん、大丈夫」
「ええ」
ロイデンはそのままユリナを腕の中に閉じ込める。
「ロイ様?」
見上げたロイデンの口が不服そうに尖っている。
「ロイ」
「ユリナ」
彼は名を呼び、私の頬にキスをする。
「リリは貴女の聞きたかった事を話してれた?」
「そうですね、大体は」
「そう、よかった。で、どんな話?」
私はロイの顔を見る。本当に話の内容を知りたいのだろうか、なのでつい聞いてしまった。
「興味がおありですか?」
「僕が聞かないと貴女自ら話してはくれないのではありませんか?」
「そんなことはないと思うのですが・・・」
「そうでしょうか。昨日のカイン殿の時とか」
あ―、まあでもあれは話の内容が内容だったし、仕方がないよ。
「僕には話せない事があるのはモーリテス家の当主として致し方がない事。でも、貴女の夫として知っておくべきこともあると思います。貴女を守る為にも」
ロイの碧眼の瞳に映るユリナの姿を私は見つめる。もし自分の所為でユリナの命が狙われたと知り、彼女の命が本当はもう消えてしまったとわかった時彼はどうなるのだろう。
話すのは容易い、でもユリナはそれを望むだろうか。
腕を伸ばし両手でロイの頬に触れ、私はそのまま口づける。
そのままお互いが求めるままに口づけを続け、最後には私がロイの腕に抱き上げられた。
「いいですか」
耐えてかすれたロイの声が私の耳元で囁く。
「無論ダメです。ここをどこだとお思いですか」
容赦なくロイデンの腕からユリナを奪うマルス。
「マルス、殿・・・」
ロイの腕が私を抱えた形のまま震えている。まあ、怒るよね。
「お嬢様もいい加減になさってください。おふざけがすぎます」
「ごめんなさい・・・」
でも、楓というよりユリナが求めてたような・・・気のせいかな。
「もう、いいでしょう」
ロイがマルスから私を奪い返す。
「今宵を待ちましょう」
私の腰を引き寄せ、ロイが言う。何となくニュアンス的にはわかる気がするんですけどね。申し訳ないが私の気持ちが追いついていないのですっとぼける事にします。
ロイデンの背後、庭園の奥に花を咲かせている一本の木があるのに私は気がついた。懐かしさに私は走り去す。
近づき見上げた木には白い花が咲いている。白木蓮。
春になると近所で咲いているのを見る事ができた。蝋梅から始まり、紅梅に梅、沈丁花、河津桜、個々が香りと可愛らしい色合いで心を春らしくしてくれる。まあ、その後には花粉症で大変でしたけどね。
「この木がどうかした?」
追いついたロイが私を背後から抱きしめつつ聞いてくる。
「私が知っている花によく似ていたので、この木は何て名前なのでしょう」
「僕は知らないけど、庭師を呼んで聞いてみようか」
私は首を横に振る。多分白木蓮によく似ている花であってそうではない。名前もきっと違うだろう。ここは楓のいた世界ではないのだから・・・。
「ユリナ?」
白い花を見上げ私は涙していた。
この世界にも四季はあり、人々が文明を築き生活している。でもここは私の知っている世界ではない。私はもう元の場所には戻れない・・・懐かしい情景が心をめぐる。楓としての人生の終わり方に後悔はない。でも、親にお別れを言いたかったな、魂だけでもね。
ロイデンの右手がユリナの瞳を覆い隠してしまう。
「ロイ?」
「・・・貴女が辛そうだから」
私はロイの体に身を寄りかからせる。
「ありがとう。辛くはないの・・・ただ」
「ただ?」
二度と会えない人たちを想うと
「・・・淋しい」
ユリナの腰を抱くロイデンの左腕に力が込められる。
「僕がいる。だから・・・」
泣かないで・・・私の耳元にロイが囁き、春風が頬の涙を拭う。
夜の闇の中、花がその白さを浮きだたせ、風に飛ばせれた花びらが地面を隠す。
誰かの手が花弁を地面から拾いあげる。
「白い、アマテナのまま・・・」
春風が枝を揺らし花びらが舞い、気配は消えた。
モーリテス家の大浴場。
「ん・・・」
湯煙の中、私は台の上にうつ伏せになりサンのマッサージを受けていた。
「今日はローランド王子の剣のお相手をなさってお疲れでございましょう」
「・・・そうね」
ユリナの体に稽古の肉体的な疲れはほぼないが、中身の私が精神的に疲れてしまっていた。サンの手が気持ちよく体と心をほぐしてくれる。
「ユリナ様、寝てはいけませんよ」
「ふえ・・・」
「また、ロイデン王子に運んでいただきますか?」
銀河の彼方に追いやった恥ずかしすぎる記憶が甦る。全裸でお姫様抱っこなんてありえないっ―の。つ◯しちゃんぽく心の中で叫んでみました。
「サンのイジワル」
「褒めの言葉ありがとうございます」
うつ伏せ状態の私にはサンの顔は見れないが多分嬉しそうに笑っているのだろう。
「ところで、ユリナ様」
「うん・・・」
寝落ちしないようにサンの言葉に耳を傾ける。
「今宵、ロイデン様を寝所にお迎えになります?」
「・・・えっ、なんで!?」
眠気が吹っ飛んだ私はサンへと顔を向ける。
「そんなお話を王宮でロイデン様となさっていたのではありませんか? マルスが言っておりましたよ」
サンとマルスってツーカーなんだね。まあいいんだけど・・・。
「その予定は、ないです」
「そうでございますか・・・こればかりは致し方ありませんね。ユリナ様がお声をお掛かけにならない限り無理と言うもの」
なんで、ユリナが? ポクポクポク、チ~ン。謎はすべて解けた。◯休さんと金◯一少年がごちゃ混ぜですがこの際気にせず。
「サン、確認していい?」
彼女は頷く。
「ロイデン様は私がいいと言わない限り、寝所を共にしない」
「はい。そうですね・・・言葉を変えるなら当主にいつでも求められる伴侶でいると言う事でしょうか。まあ、ユリナ様を満足させる事ができないなど許されませんし即」
「即?」
「・・・さあ、もう一度お湯に浸かって上がりましょうか」
はぐらかせれましたが即なにするんでしょうか・・・ロイデンの身が危ない事になりそうな。もしもの時は満たせれていなくても彼を守る為に嘘をつこう、そーしよう。




