さようならと初めまして?
ここはとても暗かった。目の前にあるはずの両手さえ見えない暗さであった。でも、不思議と怖くはない。そして私は歩きながら思い出した事がある。
「私、死んだんだ」
名前は青山楓。契約社員の書店員。珍しくとれた3連休に浮かれて本来なら行かないであろうハイキングに出かけた。なぜハイキング?いつもなら家でゲーム三昧のはずなのに・・・その時はそんな疑問のひとつも浮かばなかった。きれいな景色に澄んだ空気が心を満たしていた。そしてそれは起きた。
ハイキングコースから少し逸れた斜面に場所に咲く1輪の花。私が写真を撮る訳でもなくただその花を見つめていた時、地鳴りがしたと思ったら足元の地面は崩れ土砂と共に体が降下した。それが記憶の最後。
「痛くも苦しくもなかったって事は落ちた時、頭でも打って即死だったなのかな」
齢43。実家暮らしで彼氏なし。でも、それなりに楽しかったかな。お葬式の費用も貯めてあったし、心残りと言えばゲームと読んでたマンガと小説の続きがみれないって事か。う~ん残念。
所でいったいいつまでこの闇の中を歩き続けるのか。そう思っていた時、小さな灯りを見つけた。歩みを止めた自分の元にその灯りは近付いてくる。儚くも虹色に輝くその灯りは私の知っている限りの表現で言えば『火の玉』であった。
「あなた、どうしたの?」
火の玉に向かって話掛けた自分も良く分からないが、なぜかそう声を掛けずにはいられなかった。多分、虹色に輝きながらもその火の玉から感じられたのは悲しさだったからだと思う。