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百合三昧(短編集)  作者: 渡辺純々
38/42

真白な一日(1)

「一日遅れのバレンタイン」から、今回は桃香編です。

 私は、人生最大ともいうべき大失態を犯してしまった。

「秋山先輩、卒業おめでとうございます」

「また生徒会にも遊びに来てください」

「ありがとう。機会があれば是非」

 慕ってくる後輩達に作り笑いを向けつつ、六花(りっか)はそう社交辞令を返す。それを見て、私は隣で小さなため息をついた。

「元生徒会長様はおモテになるようで」

「からかうな。今のは生徒会で一緒だった後輩だ。これをモテとは言わない」

「またまたご謙遜を。生徒会長として数々の伝説を打ち立てた六花様を、我が校の生徒達が放っておくわけないじゃないですか」

「伝説なんて言い過ぎだ。それに、もし私に人気があったとしてもそれは(れい)ちゃん絡みだろ。私の実力じゃない」

「……それ、本気で言ってんの?」

「事実だろ。実際バレンタインにチョコもらうのは桃香(ももか)だけだったし」

「それは、みんな緊張してビビって渡せなかったの。あのクールな六花様が受け取ってくれるのかって」

「クール? 私が?」

「六花はカッコつけすぎなの。笑わない、しゃべらない。でも仕事はできるし、怜さん並みの容姿もある。ミステリアスっていうか、高嶺の花っていうのかな。そんなこんなで、六花人気は高いんだよ」

「ふーん。そんなもんかね」

「なんで当の本人に自覚がないのよ。無頓着にもほどがあるでしょ。天然か、天然なのか?」

「なんでそんな突っかかってくんだよ。あ、もしかして嫉妬?」

「なっ」

 六花はからかうように挑発的に笑う。お前私に惚れてんだろ、と言いたげなその顔が腹立つ。私は熱くなった頬を隠すようにキャンと吠えた。

「バッカじゃないの! 本命チョコもらったからって調子に乗んなっ」

「おーおー、照れてる照れてる」

「照れてない!」

 うー、と今にも噛みつかんばかりに六花を睨む。しかし彼女は余裕顔でふふんと鼻を鳴らした。自分の方が優位に立っていると勘違いしてんな。

 こんなことなら、バレンタイン当日に本命チョコ渡すんじゃなかった。今年こそは絶対気付かせると意気込んで渡したはいいものの、先に惚れた方が負け、という空気を醸し出してくる六花の態度に腹が立つ。

 お前だって私に惚れてんだろが。先に惚れたのはあんたの方なんじゃないの? なのに、どんだけ負けず嫌いなんだよ!

 むかついて、まだ吠えてやろうかと口を開く。しかし、数人の生徒達が「秋山先輩!」と勇気を出して声をかけてきたので、私はグッと言葉を飲み込んだ。

「ほんと、人の気も知らないで……」

 私が、六花に憧れる子羊どもにどれだけ肝を冷やしてきたか、こいつ全然わかってないな。いつか六花に告白してくるような勇者が現れたらどうしようって、毎日ハラハラしてたんだから。

 全部六花が悪い。人と関わるのが面倒くさいとかいって無駄にカッコつけすぎるから。



 子どもの頃、男女共に人気のあった怜さん。そんな彼女と親しくなりたくて、みんな手近な六花に近付いた。彼女を利用しようとした。

 そんな人間の邪さに嫌気が差したのだろう。六花は周りと距離を取るために、感情と言葉を省いて人と接するようになった。私は一人が良いんだってカッコつけるように。

「みんな私自身に興味はないんだよ。ただ利用価値があるから近寄ってくるだけ」

「りようかち?」

「怜ちゃんのいない私は必要ないってこと。そんな奴らと絡むなんて無駄。だったら一人の方が楽」

 そんなどんどん一人になっていく六花が放っておけなくて。私もいつか切り捨てられてしまうんじゃないかと思ったら急に怖くなった。

「わたしは怜さんも好きだけど、六花も大好き。だから、ずっとともだちね」

「はあ?」

「だって、わたしは六花におねがいしなくても、ごきんぎょさんだから怜さんとお話できるし、いつでも会いに行けるもん。だからずっとともだち。やだって言っても、ずっとともだち!」

「めんどくさ……」

「なんでわかってくんないのよ。六花のバカ! アホ! オタンコナス!」

 そう吠えると、私は六花の頭に頭突きをかました。そのあまりの痛さに、お互い額を押さえてうずくまる。

「何すんだ、このアホ桃香っ」

「ふえぇー」

 怒った六花が私の頬を横に引っ張る。痛い、かなり痛い。

「ごきんぎょ、じゃなくて、ご近所だ。変な言い間違いばっかしやがって。バカは桃香の方だろ」

「ふえぇーっ」

「…………でも、ありがとう」

「ふぇ?」

「仕方ないから、桃香とは友達でいてやる。感謝しろよ」

 そう言って手を離すと、六花は照れくさそうに笑った。あの笑わない六花が、私だけのために。

 それを見て思ったのだ。せめて私といる時だけは喜怒哀楽を吐き出せるように、言いたいことを言える素の自分でいられるように、幼なじみというポジションを利用してずっと六花のそばにいようと。完全に感情を失くしてしまわないように、彼女がこれ以上一人に慣れてしまわないように。そんな願いを込めて。



「それなのにさぁ……」

 中学になると六花のそんな態度がクールだと周りがもてはやすようになり、徐々に六花人気に火がつき始めた。その頃は特に気にもせず、なんで人気なんだろうくらいにしか思わなかったけれど。高校に入ってからそれらすべてが気に食わなくなった。たぶん、その頃から私の中で六花は特別な存在になっていたんだろうと思う。

「いや、もしかしたらもっと前かも……」



 中学二年生のバレンタインの日。今年こそはと意気込んで怜さんが所属している事務所の前で待ち伏せしていた私は、怜さんと鳴海さんが二人で出てくる場面に遭遇した。

 怜さんは片手に台本らしき物を持っていたから、たぶんドラマか何かの練習をしていたんだと思う。ふいに鳴海さんが怜さんの手の甲に口付けた。その後でスマホを手にしてその場を立ち去る。

 やっと邪魔者がいなくなった。今こそチョコを渡すチャンス。

 そう思い怜さんに向かって歩きかけていた足が止まる。

 怜さんが、口付けされた手の甲にキスをした。その後で顔を真っ赤にして胸を押さえる。その瞬間、私はすべてを理解した。

 いくらバカな私でもわかる。怜さんは、鳴海さんのことが好きなんだって。

 頭が真っ白になった。なんの根拠もないのに、私のこの恋に勝ち目はないと悟った。

 どこかで感じていた不安。怜さんにとって私は、可愛い妹のような存在でしかないんじゃないかと。私が恋だと信じているものは、実は憧れの延長で恋愛と呼べるものではないんじゃないかと。それらすべてを突きつけられたようだった。

「苦しい……っ」

 胸が、痛い。呼吸が上手くできない。苦しい、ただ苦しい。

 これが失恋の痛みだというのなら、もう恋なんてしない。こんな苦しい思いをしなくてすむよう、もう誰も好きにならない。

「もうやだ……っ」

 失恋の痛みごとチョコをゴミ箱に捨てようとしたまさにその時。何故だろう、ふと六花の顔が頭に浮かんだ。

(桃香のバーカ)

「……あいつ、頭の中でもバカにして」

 文句を言ってやろうと思った。べつに六花が悪いわけじゃないのに、何か一言言ってやらないと気が済まなくなった。

 勢いのまま家に行き、呼び鈴を鳴らす。出てきたのは部屋着姿の六花だった。その顔は少し驚いている。

「こんな遅くに何しにきた。宿題は教えてやらんぞ」

 相変わらずの上から目線。それなのに、胸に湧き上がってきた感情は、怒りではなく安堵だった。

「……怜さんに、今回もチョコ渡せなかった」

 そう言葉にするのがやっとだった。失恋の痛みとか、怜さんに対する感情とか、色んなものが溢れて涙に変わっていく。それらは自分ではどうにも制御しきれなくて、私はとうとう六花にしがみついて泣いた。

 突然泣き出して。何か嫌味を言われるだろうか。泣いているその理由を聞かれたら、何と答えればいいだろう。そう不安がっていたけれど。

 意外にも六花は何も聞いてこなかった。ただ私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。そんな彼女らしい優しさがなんだか嬉しくて。

「ほれ、チョコ」

 落ち着いてきたタイミングを見計らって、六花が右手を差し出してくる。

「え?」

「怜ちゃんに渡せなかったんだろ? だったら、もったいないからそのチョコ私がもらってやるよ。いつものことじゃんか」

「……もらう側のくせに、いつも偉そうにして」

 そう文句を言いながらも、捨てようとしていたチョコを六花に手渡す。外装は少しグシャグシャだったけれど、中のチョコは全部無事だった。

「今食べる気?」

「一個だけ。脳に糖分補給」

 六花は慣れた手つきでチョコを一口頬張る。そしてフッと笑った。

「うん、美味しい。いつも通り」

「ほんと?」

「私はもっと甘いのが好きだけど」

「それわざと言ってるでしょ。毎回毎回同じこと言って。あ、もしかしてチョコ欲しいのかなぁ?」

「ぬかせ。どうせいつも私が食べることになるんだから、そんなリクエストする必要ないだろ」

「なにそれ嫌味? それともケンカ売ってんの?」

「怜ちゃんも可哀想に。こんな美味しい桃香のチョコを食べられないなんて」

「なっ」

 あまりの言い草につい腹が立って拳を振り上げる。しかし、それはいとも簡単に避けられてしまった。

「なんでそんな意地悪ばっか言うのよ! 六花なんか大っ嫌い!」

「あっそ」

「なにその、どうぞご勝手に、っていう態度。ほんと腹立つ! 見てなさいよ、来年は必ず怜さんにチョコ渡して、あんたをギャフンと言わせてやるんだから!」

「ギャフン」

「今言うな!」

 昔っからの、この人をおちょくったかのような態度。これが今さっきまで号泣していた友人に対する接し方か? こいつの九割は意地悪と腹黒でできているのか。とてもあの優しい怜さんと血が繋がっているとは思えない。

 今にも噛みつかんばかりに六花をキツく睨む。そんな私に対して、六花は可笑しそうに「ぷっ」と笑った。そのまま、私の頭を優しく撫でる。

「それだけ元気があれば大丈夫だろ」

「……え?」

「今言った言葉、忘れんなよ」

 そう言い残し、六花は家の中へと入っていく。私は何も言い返せないまま、その場にただ立ち尽くしていた。

「なんなのよ、いったい……」

 元気? 私が? たった今怜さんに失恋して号泣していた私なのに?

 頭に浮かんだ疑問がシャボン玉のようにふわりと現れては、答えという針に刺さってパチンと割れていく。撫でられた部分を触ると、何故か胸の奥がほわりとあたたかくなった。

「……あのバカ。あんたの優しさはわかりづらいっつの」

 チョコを食べた時の六花の笑顔を思い出す。すると、なんだか嬉しくて笑ってしまった。

 次は、彼女のためにチョコを作ってあげよう。チョコだけじゃなくて、私の作るお菓子であのひねくれ者の幼なじみを喜ばせてやろう。それが唯一私にできる、彼女への嫌がらせだ。

「覚悟しとけよ、六花!」

 暗い夜道を一人駆けていく。胸の痛みはもうどこかへ吹き飛んでいた。



 あの日の決意はまだ胸の中にある。だからこそ、六花への恋が実ったのかもしれない。

 でも……。

「あ、桃香ちゃん!」

 そう声をかけられハッと我に返る。振り向いた先にいたのは、フォーマルスーツをビシッと着こなした怜さんだった。

「怜さんっ? どうしてここに? 今日は朝から仕事でしたよね」

「その予定だったんだけど。機材トラブルとかで午前中は撮影できなくなっちゃって。時間が空いたから急いでここへ来たの。式にはちょっと遅刻しちゃったけどね」

「そうだったんですか。全然気付きませんでした」

「式が始まった後に席に着いたし、ある程度変装してきたからね。バレてせっかくの六花の卒業式を台無しにしたくなかったし」

「へえ……」

 よく見ると、ポケットに帽子とサングラスが詰め込まれている。スーツにこの格好は逆に目立つんじゃないかと喉まで出かかったけれど、そこは怜さんだからとグッと言葉を飲み込んだ。

「でも、よく現場の人達がオッケーしてくれましたね」

「鳴海さんがみんなに頭下げてくれたんだ。大事な妹さんの卒業式だから行かせてやってほしいって。まあ、時間は厳守するようにって念押しされたけど」

「鳴海さんが……」

 頬を赤らめ、少し照れたように怜さんは笑う。さすが敏腕マネージャーの鳴海さん。撮影がおして数日前から六花の卒業式に行けないとわかって落ち込んでいた怜さんの心をきちんと理解している。それで彼女のパフォーマンスが落ちてしまうということも。

 直接本人に確認したわけではないけれど、きっと二人は付き合っている。雰囲気とか、仕草とか、こういう心配りとか。特にこの怜さんの態度が一番わかりやすい。だからといって、今さら嫉妬心なんかはまったく無く、むしろ二人の関係が上手くいっていることが素直に嬉しい。

 不思議。昔はこの人のことが好きだったのに。鳴海さんなんて、親の仇くらい憎い相手だったのに。今ではこんな二人のノロケエピソードを聞いても、まったく何も感じない。むしろ幸せそうで微笑ましい。

 私が今そう思えているのは、きっと六花のおかげなんだと思う。

「あれ、そういえば六花は?」

「今向こうで後輩達に囲まれてます」

「へえ。意外に人気なんだ」

「人気なんてもんじゃないですよ。大人気です。無駄にカッコつけてる態度がクールだって言われてるし、生徒会長の時に教師への反抗心で校則変えたりして、生徒達からは我が校に舞い降りた革命家として英雄視されてるんですよ」

「え、英雄視っ?」

「みんな大げさすぎなんです。全校生徒が不満に思っていた校則をちょっと変えただけですごいって思っちゃって。私達生徒のために自己を犠牲にして立ち向かう、本当は生徒想いの優しい人みたいにみんな勘違いしてるんですよね」

「違うの?」

「違いますよ。あのひねくれを擬人化したような六花ですよ? あいつにそんな心があるわけないじゃないですか。校則を変えた本当の理由は、なんでここまで教師ごときに管理されなければいけないんだ、納得できない、っていうただの子どもじみた反抗心からなんです。ちなみに、これ本人が言ってた言葉ですからね」

「あー、その方が六花らしいかも」

 私の遠慮のない言葉に、しかし怜さんは納得したかのようにクスクス笑う。六花はというと、そんな私達には気付かず、相変わらず後輩達の対応をしていた。



 思い返してみたら。入学した当初から、六花は我が校の校則に不満たらたらだった。

「ヘアゴムの色は、黒か紺か茶。髪は肩にかかったらくくる。スマホは朝担任に預けて放課後返却。バレンタインのチョコ持ち込み禁止。その他等々。なんだこれ、ここは刑務所か?」

「仕方ないじゃん。これがここのルールなんだから。髪のところなんて六花はショートなんだから関係ないし」

「従順な犬め。これだから日本人はバカにされるんだ。自己主張していかないと、使い潰されて人生終わるだけだぞ」

「遠回しにバカにすんなっつの。何がそんなに不満なわけ?」

「教師ごときにここまで管理されるのが我慢できないんだ。ヘアゴムがピンクになっただけで風紀が乱れるか? 秩序が崩れるか? 本気でそう思ってるんなら時代錯誤も甚だしい」

「まあ、そう言われてみたら確かにそうだけど。不満に思ってる生徒も多いみたいだしね」

「どうせたかが生徒風情の私達には変えられないとタカをくくってるんだ。その考えが腹立つ」

「なんかさっきから聞いてたら、校則にっていうより先生達に対して不満持ってない?」

「正確には、生徒を子どもだと思ってなめてかかってる大人に対してだ。私達を尊重してくれる教師も中にはいるようだけど、それ以外は全部敵」

「敵って……」

「あいつらの鼻をへし折って、絶対ギャフンと言わせてやる」

「あんたどんだけ負けず嫌いなのよ」

 こうして、六花は在学中に校則を変えて教師達の鼻をあかすという反抗心剥き出しの目標に向かって走り出した。

 予定通り生徒会に入り、水面下で着々と準備を進め、狙い通り生徒会長の座に着いて。そして毎回生徒総会で上がる校則への不満を敢えて大きく取り上げ、全校生徒と教師達の前で必ず変えると力強く宣言した。宣戦布告だ。

「ようは、現校則の問題点をいかに明確化し、そして変えたい理由をいかに正当化させるかということ。そして日本は民主主義国家。不満を目に見える形で数値化させ、それっぽい名目を与えて少数の反対派を黙らせる。キーマンは保護者だ」

「お前は政治家かっ」

 事前の聞き取り調査で、保護者もここの校則に不満を持っていることを知った六花は、これを大いに利用することにしたらしい。保護者は教師のウィークポイントだ。

 私と六花で生徒達に保護者用のアンケートと署名用紙を配り、戻ってきた回答を回収、そして六花がそれらの結果をもとに取りまとめて理事長に提出した。

「これでほんとに変わるの?」

「ふん、まあ見てろ」

 その妙に自信たっぷりな六花の顔が気になる。こいつ何かしたな。

 そう不審がっている間に、六花の宣言通り校則が変わってしまった。六花の完全勝利だった。

「ざまあみろ。思い知ったか、頭の堅い教師ども」

 そう言って、六花は勝ち誇った顔でケケケッと笑う。その顔は悪魔そのものだ。

「まさかほんとに変わるとはねぇ。正直無理だと思ってた」

「人間、やればできるという良い教訓になったな」

「あんた、脅したりしてないよね?」

「まさか。純粋な生徒の想いが教師に伝わっただけだよ」

「どの口が純粋を語るか!」

 ほとんどの生徒も、まさか本当に校則が変わるとは思ってもみなかったらしい。今まで誰もが挑戦しては叶えられなかった夢だったから。

 だからだろう、それを叶えてしまった六花の株が急上昇。それまでも人気はあったけれど、この一件で格付けが英雄にまで飛躍してしまい、廊下を歩けば黄色い歓声が上がるほどにまでなってしまった。これはさすがの私も計算外だった。

 こんなことになるんなら、六花の改革の手伝いなんかするんじゃなかった。いや、正確には半強制的にやらされただけなんだけど。まさか六花が私を巻き込むとは思ってもみなかったから。

「ねぇ、今さらなんだけど。なんで私が手伝わされたの?」

「気心の知れない他人は信用できないし、余計な気を遣うから面倒」

「だったら、生徒会役員さん達に手伝ってもらったらよかったじゃない」

「これは私のわがままだからな。ただでさえ忙しい彼女らの手を煩わせるわけにはいかない」

「私は?」

「どうせ暇だろ。良かったな、暇つぶしができて」

「ふざけんな。生徒会役員でもない私が生徒会長の手伝いをしてるってことで、周りからどんな目で見られてたか、あんた理解してんの?」

「生徒会長様の従順な犬」

「今日のバナナマフィンは全部私が食べます」

「まあ待て」

 昼食後のデザートとして手作りしてきたバナナマフィンを取り上げる。すると、若干六花の顔に焦りがチラついた。ほんとにお菓子好きだな、おい。

「もしかして、いじめられたのか?」

「まさか。生徒会長様のお気に入りに手を出して逆鱗に触れたらどうなるか、それがわからないほどみんなバカじゃないし。ただ、面白くないって顔はされてたかな。陰口も叩かれてたし、一時期孤立してたかも」

 ムカついたので少し誇張して言ってみる。すると、意外にも六花の顔が強張った。そして、スルスルと両手を袖口に隠す。

「……ごめん」

「へっ?」

「まさか私が引っ張り回したせいで、桃香がそんなことになるとは思わなくて。夢中になると周りが見えなくなるのは私の悪い癖だ。もっと桃香に配慮すべきだった」

「り、六花……え、えっ?」

「ただ、家族以外で信頼できるのが桃香だけだったから、つい甘えた。ほんとごめん」

 そう謝ると、六花は叱られた子犬のようにシュンとうな垂れた。

 あのひねくれ大魔神の六花が素直に謝るなんて。

 たまにからかって素直に謝るフリをすることはあるけれど。どうやら今回は本気で反省しているらしい。六花は本音を言う時、手を袖口に隠す癖があるから。

 なんだか子どもみたい。そう思ったら、つい頬が緩んでしまった。

「六花が素直だと、なんだか気持ち悪いね」

「うっさい。人がせっかく謝ってやってるのに」

「ウソウソ。なんだか可愛くてよしよししたくなる」

 六花の頭を優しく撫でる。意外にもやめろとは言われなかった。

「今のはちょっと言い過ぎた。孤立してたのは最初の方だけだったし、陰口叩いてるのもほんの一部の人達だけだから。大半の人は好意的に見てくれてたよ。あのクールな六花様が唯一心を開く幼なじみっていう風にね」

「確かに、素の自分をさらけ出せるのは桃香しかいない」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない。だからさ、もう気にしなくていいの。むしろ、今回の件で距離置こうとか考えないでよ。そっちの方が辛いんだから」

「は? なんで今ので桃香と離れようってことになるわけ? 全然意味がわからんのだけど」

「……マジか」

 こいつ、漫画やドラマでありがちな、相手に迷惑がかかるくらいならいっそ離れよう、っていうベタ思考が存在しないな。私と離れるなんて、微塵も考えたことないってことか。

 そう考えたら嬉しくて。六花らしいなと思ったらつい笑いが込み上げた。

「あー、このデレたまらん!」

「デレとか言うなっ」

 珍しく六花が声を上げる。もうそんなとことか全部が愛しくて。

 大好きが溢れて勢いのまま六花に抱きつく。あともう少し理性が欠けていたら、思わずキスしてしまうところだった。


「真白な一日(2)」に続きます。

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